第5回「治療の実際<2>血管内治療、外科的治療、血管再生療法」 [オンデマンド(画像付き)]
2009/02/02(月) 00:00

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 本日は、ASOの最新情報シリーズの最後となりましたが、虚血肢に対する直接的な血流改善治療、即ち外科的血行再建や血管内治療、血管新生療法についてお話しいたします。


 ASO患者の肢虚血重症度と治療目標に、動脈閉塞部位と範囲、併存疾患の重症度、再建血管の開存率、患者の生命予後などを考慮して、総合的に手術適応が検討されます。虚血肢の虚血重症度からみた適応は、安静時疼痛や潰瘍・壊死などを有するいわゆる重症虚血肢と間歇性跛行距離が100m未満の重症跛行肢が主な適応であり、跛行距離が比較的長いものについては、患者の治療目標に重点がおかれます。動脈閉塞部位や範囲からは、膝上部までの閉塞性病変に対する血行再建は代用血管として人工血管が用いられ、再建成績は一般に5年開存率で、大動脈腸骨動脈領域では90%以上、大腿動脈領域で70%程度の成績が得られていますので、虚血重症度が低いものであっても手術の選択が許容されます。しかし、膝関節を超える膝下部膝窩動脈への再建や、下腿動脈や足部動脈などの小口径動脈への再建には、代用血管としての人工血管による再建成績は不良であるため、自家静脈使用が原則です。再建成績も末梢側吻合部位やrun-offにより異なるため、手術適応は主には救肢を目的とした重症虚血肢が対象となります。使用する自家静脈は大伏在静脈や小伏在静脈が用いられ、静脈には弁が存在するため血流方向に合わせて反転して用いるか、弁カッターを用いて弁を破壊してそのまま用いるかの方法をとります。下肢に十分な長さの静脈が得られない場合には、上肢静脈を使用することもありますが、壁が脆弱な欠点があります。


 外科的血行再建を行うか血管内治療、percutanous transluminal angioplasty,PTA,を行うかについて、これまでの両者の治療成績をもとに検討が行われ、閉塞性病変の部位や範囲により一定のconsensusが得られつつあります。直接的に血流を改善するのが虚血肢治療にもっとも効果的ですが、治療対象となる病変の性状、範囲、部位によりPTAか外科的血行再建を行うかが選択されます。遠隔期含めた治療成績によりその選択は異なりますが、両者の境界領域病変も少なくありません。一般に病変長が3~5 cm未満の限局性狭窄性病変がPTAのもっとも良い適応で、完全閉塞病変や狭窄範囲の長いものでは開存率が低下します。腸骨動脈がもっとも良い治療対象部位で、大腿動脈より末梢になるほど成績は不良となります。遠隔期成績は腸骨動脈領域の5年開存率で50〜80%の報告が多く、代用血管を用いた血行再建に比してやや劣ります。また、大腿動脈分岐部病変や石灰化の高度な部位、動脈の高度屈曲部位などは治療が困難となります。しかしながら近年アテレクトミーカテーテルやステントの導入・改良などにより、PTAの適応範囲は拡大されつつあります。金属ステントの留置適応基準は、PTA後の再狭窄例、PTAにより動脈解離が認められた例、PTA後に残存圧較差が10mmHg以上認められる例、治療対象範囲が広範である例、石灰化の強い例などですが、腸骨動脈領域ではステント留置の有用性が高いと考えられます。


 一方外科的血行再建では、閉塞範囲により再建の制限を受けないこと、再建が行えない部位は、ステントの対象となる部位内ではみられないこと、再建成績は手術が良好であること、動脈壁の性状により大きくは治療成績が変わらないこと、などの利点があります。
 周術期合併症の面からみると、外科的血行再建では、全身あるいは硬膜外麻酔が必要であること、動脈遮断に伴う血行動態の変動が大きいこと、代用血管に人工血管を用いた場合には感染の危険があること、到達法によっては腹部合併症を生じること、などの全身的な合併症が、局所麻酔下で可能な血管内治療に比して多いといえます。


 一方、血管内治療では施術操作による動脈解離や穿破、急性動脈閉塞、末梢側への血栓塞栓、血腫や仮性動脈瘤形成などの動脈穿刺部合併症がみられ、両者にみられる合併症の種類や部位は異なりますが、全体的には有意な差はありません。施術による死亡率は、通常手術では1〜4%程度ですが、血管内治療ではまれであり、施術危険率の面からは血管内治療が優れています。
 遠隔期の問題点から検討すると、血管内治療の問題点は再狭窄率が高い点にあります。PTAは血管内腔からの機械的拡張を行うため、粥腫の圧縮や側方移動、内膜や中膜の断裂、外膜の圧迫進展などの外傷が加わり、断裂したプラークの裂け目には血栓が形成され、数週の経過で筋繊維芽細胞により線維化してremodelingしていきます。この過程で生じる平滑筋細胞の増殖を主体とした再狭窄は、腸骨動脈などの比較的太い動脈では大きな問題となりませんが、冠状動脈や大腿膝窩動脈などの口径の小さい動脈では、有意な狭窄として治療成績に大きな影響をもたらします。さらにステント留置例では、内膜細胞増殖能の遷延や、血管内腔面への白血球の付着の遷延、内膜へのマクロファージの浸潤、IL-1βの発現増加などが実験的に観察されており、炎症反応の遷延が再狭窄に重要な役割を果たしている可能性があります。こうした再狭窄を防ぐ目的で放射線照射を行ったり、taxolやrapamycinなどの平滑筋細胞増殖を抑制する抗炎症性薬剤を添加したステントの導入が試みられています。


 一方、外科的血行再建では、再建グラフトの閉塞が問題となります。早期の閉塞原因としては、run off 不良例に対する再建や技術的問題が原因となりますが、遠隔期では、グラフトの構造的破綻や血栓性などに起因する閉塞原因よりも、宿主動脈の病変進行や吻合部の内膜肥厚が主な閉塞原因となっています。


 近年、主に重症虚血肢を対象とした血管新生療法が注目されています。血管内皮細胞増殖因子VEGFや肝細胞増殖因子 HGF、塩基性線維芽細胞増殖因子bFGF、などの血管新生増殖因子を発現させる遺伝子治療、血管新生因子蛋白を直接投与する方法、血管内皮前駆細胞を用いて局所で血管発生させる細胞治療などが主に試みられています。細胞治療には、骨髄あるいは末梢血単核球細胞、G-CSFでの誘導による末梢血単核球などが用いられ、細胞液を虚血筋肉内に投与して血流改善をはかっていますが、ASOによる重症虚血肢に対する有効性が低いことや長期の安全性が確認されていないことなどから、今後さらに検討する必要があると思われます。


 閉塞性動脈硬化症は全身的な動脈硬化性病変の1部分症と考えられているため、治療方針の選択は極めて重要となりますが、医用材料の進歩により血管内治療成績が向上し、選択枝は急速に多様化しつつあります。しかしながら、血管内治療は病変のある血管内での治療であり、閉塞性変化を来した原因に対する治療を行うのでない限り、代用血管による外科的血行再建の治療成績を越えることはないと思われます。低侵襲治療の一つとして血管内治療の積極的な利用が必要ですが、閉塞性病変に対する再建成績の向上の点からは、現時点ではより良好な成績は期待できず、局所に使用しうる薬剤や遺伝子治療などの補助療法を併せ行う工夫を加えることにより、新たな展開が得られると考えられます。ASOの治療にあたっては、患者さんの治療目標を明らかにして、外科的血行再建を含め集学的な治療を行うことが重要と考えられます。