第1回「症状と徴候」 [オンデマンド(画像付き)]
2009/01/05(月) 14:00 staff

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 本日は閉塞性動脈硬化症Arteriosclerosis obliterans: ASOといいますが、その臨床症状と徴候、虚血肢の重症度評価についてお話しいたします。


 主幹動脈閉塞により、下肢あるいは上肢は虚血に陥りますが、肢の虚血の程度に応じた臨床症状が観察されます。虚血の程度が軽いものでは足部や足趾、手指などに冷感やしびれ感を生じます。急性動脈閉塞でないにも関わらず、しびれ感に知覚鈍麻や過敏、運動神経障害を伴うときには、ASOによる虚血以外のものを原因とした神経障害が疑われ、糖尿病や脊椎管狭窄症などの、他疾患の有無を十分に検索する必要があります。歩行運動中、特に重いものを持ったり、坂道や階段などで運動負荷が大きくなるときに、下肢の筋肉に重さやだるさ、痛みなどを生じ、休むと軽快する症状は間歇性跛行と呼ばれます。


 跛行症状は腓腹筋や大腿筋群、時に臀筋などにみられます。跛行症状がみられる部位により動脈の閉塞部位を予測できることも多く、臀筋に生じる場合には内腸骨動脈を含めてその分岐部よりも中枢側の、大腿筋群の場合には総大腿動脈よりも中枢側の、また、下腿筋群の場合には浅大腿膝窩動脈領域の閉塞が疑われます。跛行症状は脊椎管狭窄症でもみられますが、腰部から始まり両下肢の末梢側へ症状が進行し、前屈姿勢で軽快することがあること、末梢動脈拍動が良好な点などからASOと鑑別されますが、高齢者では両者が合併していることも少なくありません。
 安静時疼痛は夜間に訴えることが多く、下肢を下垂したり、膝関節を屈曲していると幾分軽快するため、痛みが長期に及ぶと膝関節や足関節に拘縮を起こすこともあるため、切迫壊疽と考えて治療を急ぐ必要があります。


 潰瘍や壊死がある場合には疼痛が強いことが多く、関節拘縮のみではなく不眠となり、全身的な影響が出てくるため、疼痛の制御と肢虚血に対する早期の治療を必要とします。こうした冷感やしびれ感、間歇性跛行、安静時疼痛、潰瘍壊死などの虚血症状を、Fontaineはそれぞれ1度から4度に分類しており、Fontaine分類として虚血肢の臨床症状分類に広く用いられております。そのほか臨床的徴候として、皮膚の色調は虚血が高度になると蒼白からチアノーゼを呈し、皮膚は乾燥して落屑がみられ、皮膚温は低下しています。慢性閉塞例では虚血肢の筋肉群や足趾に痩せがみられ、爪の発育障害や脱毛なども観察されます。


 さて、ASOの臨床症状分類としてFontaine分類が広く用いられていることを述べましたが、この分類は、1度で示される蒼白やしびれ感、冷感は皮膚の、2度で示される間歇性跛行は筋肉の、3度で示される安静時疼痛はある意味では神経の虚血症状をそれぞれ示しており、組織の生存性が得られない状態として、4度の潰瘍や壊死が位置づけられています。すなわち、肢全体の虚血重症度は、肢を構成する異なった軟部組織の虚血症状で表現されていて、個々の臓器の虚血重症度で表現されていないため、末梢血行障害の虚血症状の評価にはきわめて簡明ではありますが、重症度の評価としては客観性を欠くものとなっています。そこで、近年、Fontaine3、4度に属する重症虚血肢の評価と診断基準、また、間歇性跛行は患者さんの訴えによる虚血症状ですので、これを客観的に評価する試み、などが行われるようになってきました。


 重症虚血肢の定義や診断基準について、1980年頃から欧米諸国で様々な検討が行われてきましたが、2000年に世界的なガイドラインとしてTASC: Trans-Atlantic Inter-Society Consensusが発表され、2007年にはその改訂版が出されました。その中で、重症虚血肢とは、一般に急性動脈閉塞を除外して、慢性的な虚血により肢あるいは肢の一部が治療を行わなければ切断の危機にある状態、と定義されています。


 その評価法としては、測定者間の誤差が少なく再現性に優れているドプラ血流計による足関節部や足趾動脈圧測定が用いられています。一応の診断基準として、慢性の重症虚血肢とは、通常の適切な鎮痛剤投与を2週間以上必要とする反復する安静時疼痛を有しているか、足部や足趾に潰瘍や壊死があって、足関節圧が50~70mmHg未満のもの、そして/あるいは足趾動脈圧が30~50mmHg未満のもの、と考えられています。こうした例では虚血肢に対して積極的な血流改善策をとる必要があり、それが救肢率の向上や遠隔期死亡率の低下に役立つことが明らかとなってきています。


 しかし、この定義や基準のみでは、肢切断の予測や、生命予後の推定を可能としたものにはなっておりません。また、ASOとは異なった閉塞原因と病態を示し、今なお本邦で見られることのある閉塞性血栓血管炎、いわゆるBuerger病の虚血重症度の基準として、この基準を用いることは適切では無く、皮膚潅流圧測定などの他の方法も検討する必要があります。


 さて、ASOにおいては、肢の虚血症状の70%以上を間歇性跛行が占めていますが、跛行の訴えは患者さんの主観によるものであるため、その客観的評価方法が求められています。虚血肢の重症度評価法として比較的客観的な、ドプラ血流計による、安静時に測定する足関節部圧測定では、跛行距離との相関が低く、米国血管外科学会では、トレッドミル運動負荷後の足関節部圧の低下の程度から、跛行の重症度を判定しようとしています。しかしながら、跛行は運動時の筋肉の虚血症状であるため、安静時に測定する足関節部圧からの推測は、必ずしも適切ではありません。


 そこで、一定の運動負荷をかけ、低下した足関節部圧の回復過程を観察して、重症度評価を行なったり、近赤外線分光法を用いて直接的に経時的に運動時の筋肉の虚血の動態を観察する方法などが行われています。この方法は、近赤外線光が生体組織を良好に通過し、ヘモグロビンやミオグロビン、チトクロームオキシダーゼなどの酸素代謝に関連した生体物質においてのみ吸収されることを利用して、透過光量変化を観察することにより組織内酸素濃度変化を、連続的かつ無侵襲的に測定する方法です。虚血筋の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとの吸光度の違いを利用して、その変化量を観察しますが、測定対象とする筋肉に体外式にプローブを装着することにより容易に観察が可能であります。跛行肢では、運動負荷により酸素化ヘモグロビンは低下し、脱酸素化ヘモグロビンが増加し、運動を休止することによりその解離は回復してくる変化を示します。経時的なその変化を観察することにより、回復過程の違いや、回復時間と総運動時間の比などの検討が可能で、運動時の筋肉の虚血症状である跛行の重症度や、跛行肢に対する治療効果の判定、治療後の虚血再発の早期判定、脊椎管狭窄症との鑑別、などに優れた評価法となっています。


 本邦での未曾有の高齢者社会を前にして、ASO患者は急速に増加しており、日常診療の上で症状からASOを診断する機会も増加しています。ASOの治療目標は、主には肢機能の回復にあり、肢の虚血重症度を客観的に評価して、治療方針の選択や、治療効果の判定を行っていくことが今後益々重要となってきています。



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