第2回「疫学と予後」 [オンデマンド(画像付き)]
2009/01/12(月) 00:00 staff

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 我が国における末梢動脈閉塞症は、江戸時代から知られていた特発性脱疽、いわゆるBuerger病に代表されていましたが、欧米諸国では極めてまれな疾患であったため、その疾患単位に疑問が呈された時代もありました。そのため我が国では、一疾患単位としてのBuerger病の存在を尊重する立場から、動脈硬化を原因とした閉塞性病変に対して閉塞性動脈硬化症ASOを用いてきました。ヨーロッパではASOが用いられますが、米国ではPAOD(peripheral arterial occlusive disease)あるいはPVD(peripheral vascular disease)などの用語が用いられ、TASCでは、末梢動脈閉塞症の殆どがASOであることから同義語としてPAD (peripheral arterial disease)という用語が使用される様になりました。一方我が国では、第二次大戦後に生じた大きな変化は政治や社会、文化などにおける急激な変革にとどまらず、半世紀を経て、ベビーブーム世代の高齢化や少子化による相対的超高齢化社会の出現、食生活を含めた生活様式の変化などを原因として、疾病構造の変化として現れてきました。糖尿病は境界領域を含めると1850万人に及ぶとされ、第二の国民病といわれています。



 さらに高脂血症や高血圧、肥満の増加が著明となり、メタボリックシンドロームとして広く知られるところとなりました。今年からは特定検診の対象となって、生活指導を中心とした管理が重要になってきています。メタボの終末像は、動脈硬化性血管疾患であり、虚血性心疾患や脳血管障害、そしてASOが問題となってきています。


 現在では、我が国において特徴的に多くを占めていたBuerger病は急減し、ASOがそのほとんどを占めるに至っています。
 我が国でのASOの発生頻度を人口比から検討したものはみられませんが、仙台市のある地域で平均年齢74歳の住民971名中2%にASOが発見されたと報告されています。現在日本の人口は約1億3000万人で70歳以上の人口が約1800万人であることから、2%の頻度を当てはめると36万人程度となります。大阪で重症虚血を調査した報告では、人口10万人あたり年間1.3肢が切断されています。ASOに占める重症虚血肢の頻度は15~20%程度であり、肢切断となるものは25%とされていますから、重症虚血肢は10万人あたり5例程度、そのASOに占める頻度を15%とするとASOは10万人あたり33例、人口1.3億として43万人程度となります。一方糖尿病に見られるASOから見てみると、糖尿病の0.5~3%程度に糖尿病性足病変が見られるとされており、我が国の糖尿病患者を840万人とすると、足病変のある頻度を1.5%として13万人、さらに糖尿病を併存するASOはASOの30~40%であるため35%とすると、ASO患者数は37万人程度と推測され、先に述べた43万人程度とほぼ一致します。従って、我が国での有症状のASO患者数は40~50万人程度と考えられます。これには無症候性のASOは含まれておらず、無症候性のものは倍以上いるとされており、無症候性のものを含めると100万人以上の患者群がいるものと推測されます。


 ASOは全身的な動脈硬化性病変の一部分症と考えられ、多彩な併存疾患が見られます。高血圧は半数以上に、糖尿病は近年急速に増加しつつあり30~40%にみられ、虚血性心疾患や脳血管障害既往も20~30%に併存しています。冠状動脈撮影を行うと治療の要否は別として、閉塞性病変は60~70%に観察されます。Duplex scanによる頸動脈の観察が普及し、50%以上の内頚動脈狭窄は20~30%に見られています。糖尿病の増加に伴い糖尿病性腎症による透析導入例が増え、広範な下腿動脈病変を有するASOを併存する例が多く、治療に難渋する例も増加してきています。このように、動脈硬化は全身病であるとの観点から、近年は脳血管障害や虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症の3疾患をアテローム血栓症という概念で包括的に理解し、polyvascular diseaseとする考え方が増えてきています。中でも、ASOは他臓器血管病変を併存する率が高いことから、その代表といえます。従って、ASOは全身的な動脈硬化の程度を知る「窓window」と考えられます。


 さて間歇性跛行患者の5年後の予後をみると、70~80%のものは跛行症状が不変か改善しており、跛行症状が増悪するものは10~20%程度で、重症虚血肢になるものは5~10%であり、肢切断に至るものは1~3%程度に過ぎないとされています。一方、20~30%のものが死亡し、その70%程度は心血管疾患によるものとなっています。この死亡率は、乳癌の5年生存率の85%や大腸癌の70%弱などと比べてみても、極めて悪いものです。従って、間歇性跛行の患者さんの治療を考えるときには、跛行肢が肢切断になるかどうかを心配するよりも、その生命予後に十分な配慮が必要になります。


 重症虚血肢患者の多くは、血管内治療を含めた血行再建術や、薬物療法などの介入的治療を受けるため、その自然経過を観察することは困難ですが、薬物療法に関する無作為化比較臨床試験のプラセボ群の経過から推察される結果では、約40%が6ヶ月以内に下肢切断となり、20%が死亡しています。治療については施設により選択が異なっていますが、大規模調査では約半数の重症虚血肢患者が何らかの血行再建術を受けていることが示唆されています。さらに、血行再建の適応がないか、あるいは血行再建が不成功に終わった末期の重症虚血肢患者のみを評価した結果から1年後の転帰をみると、約25%が死亡しています。
 重症虚血肢患者の転帰についての追跡調査は行われており、我が国でも1年後には約20%が死亡しています。重症虚血肢患者の多くは、比較的重篤な虚血性心疾患や脳血管障害、腎機能障害などの多臓器におけるアテローム血栓症を併存している例が多く、その生命予後は不良になっています。5年生存率は40%前後で、10年生存するものは殆どみられません。
 切断術を必要とされる患者の多くは、必ずしも跛行が重症化して安静時疼痛、潰瘍・壊死となり切断に至る、という経過をとるものではありません。虚血のために大切断術を受けた患者の半数以上で、6ヶ月前までは下肢の虚血症状が認められていなかったと報告されており、閉塞性病変の範囲の拡大のみではなく、心肺機能の低下や凝固線溶系の変動などの様々な因子が重症虚血肢における切断に関与していると考えられます。
 切断部位は下腿部と大腿部でほぼ同数とされています。下腿切断術を受けた患者の転帰をみると、一次治癒したものは60%のみで、大腿部での再切断を要したものが15%にみられ、高齢でハイリスク群が多いため周術期死亡率も10%と高くなっています。特に大腿切断術後の病院死亡率は20%に及ぶとされており、2年後における死亡率も、下腿切断患者では25~35%であるのに対して、大腿切断患者では45%と報告されています。運動性を回復する確率も下腿切断患者では、大腿部切断患者の2~3倍高いとされており、切断部位が可及的に低位になるよう血流改善を試みる必要があります。
 重症虚血肢は跛行患者が重症化して発症してくると考えるべきではなく、様々な要因が関与しており、併存疾患の重症度も高くなっています。積極的な血行再建が切断率の低下に貢献しているとの報告もあり、運動機能の回復や生命予後の観点からも、重症虚血肢患者の全身評価を十分に行って血流改善を積極的に試みるべきと考えられます。



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