第3回「診断の実際」 [オンデマンド(画像付き)]
2009/01/19(月) 00:00 staff

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 閉塞性動脈硬化症では無症候性のものも少なくないため、危険因子を持つ人達を主な対象として、スクリーニングを行うことも重要です。TASC IIでは、閉塞性動脈硬化症診断のストラテジーとして、まず、50~69歳で喫煙または糖尿病のあるもの、70歳以上の高齢者、労作時に下肢の虚血症状や運動脳が低下するもの、下肢の動脈拍動に異常のあるもの、脳血管障害や虚血性心疾患、腎動脈病変のあるものなど、他臓器に動脈硬化性病変を有するものなどを対象に、ドプラ血流計による足関節部圧測定を行い、上肢圧との比ABIが0.9以下のものでは、ASOの存在が疑われるとしています。ABIが0.9以上であっても、トレッドミルテストを行って運動負荷をかけると、ABIが低下する現象がみられるときには、軽度の閉塞性病変が存在している場合もあり、注意が必要です。一方、ABIが1.4以上の高値を示す場合には、糖尿病患者などでよく見られますが、下腿動脈が高度に石灰化しているために、圧測定に用いるカフ圧では動脈に十分な圧迫が得られず、高い値を示す結果となり、信頼性に欠ける結果となります。その様な場合には足趾の動脈圧測定やデュプレックス検査、脈波など他の診断法を用いた評価を行うことになります。この様なスクリーニングでASOが疑われた場合には、身体所見や画像診断、肢機能診断などを行って、閉塞性病変の部位や範囲、側副血行路の良否、虚血肢の重症度などを評価することになります。



 ASOの存在診断は、触診や聴・視診などの身体所見から比較的容易です。患肢の皮膚温は低下し、下肢の腓腹筋や大腿四頭筋などの筋肉群や足趾の痩せ、爪の変形や発育障害、脱毛などが観察され、皮膚の色調は虚血が高度となるに従って蒼白からチアノーゼを呈し、静脈の鬱滞や虚脱、浮腫などもみられます。動脈拍動は閉塞部よりも末梢側で減弱し、狭窄性病変の部位によりthrillを触知したり著明な血管雑音を聴取します。
 X線検査所見をみますと、単純レ線像では、動脈壁の石灰化陰影は閉塞性病変が動脈硬化性であることを示しますが、腹部大動脈や腸骨動脈走行に沿った細かい石灰化陰影は、多くの場合中膜層のもので本症に特有ではなく、高齢者によくみられるものです。比較的限局した範囲で見られる大きな石灰化の場合にはASOであることが多く、糖尿病を併存している頻度も高くなっています。虚血肢の骨レ線像は骨粗鬆症を示し、足部や足趾は萎縮しています。
 MRAやCTAなどで病変の部位や範囲を評価し、詳細な側副路様式や動脈壁の性状を観察するときには、経動脈性の撮影を行ないます。病変部位や範囲のみではなく閉塞部より末梢側のrun-off 血管の状態の観察も重要です。CTは動脈瘤の血栓性閉塞や動脈解離による閉塞などとの鑑別診断、動脈壁の石灰化の評価などに有用です。MRAは直接動脈撮影で十分には描出されない開存動脈の評価にも有用と思われます。超音波検査は硬化性動脈壁や壁在血栓の性状診断に有用で、ドプラ血流計と併用したDuplex scanは血流速度の測定や血流方向の観察が可能です。頸動脈病変の評価には特に有用で、内膜中膜複合体の厚さを測定して、動脈硬化の程度を評価するなど、多方面で用いられております。


 血行力学的検査としては、ドプラ血流計を用いた足関節部や足趾の動脈圧測定がもっとも重要で、上肢収縮期血圧に対する足関節部の動脈圧との比を ankle brachial pressure index, ABIと呼び、肢虚血の重症度評価に用いられ、安静時に0.9以下のものでは閉塞性病変の存在が疑われることは、前回お話ししたとおりです。
 近年皮膚潅流圧測定法が開発され、重症虚血肢の評価に用いられ、虚血性潰瘍の治癒や切断端の治癒などの予測に有用となっています。


 ASO患者の70〜80%は虚血症状として間歇性跛行を主訴としており、その重症度については、トレッドミル運動負荷検査による最大歩行距離や無症状歩行距離の計測、ドプラ血流計による足関節部圧の低下の程度、歩行に関するQOL評価などを総合的に評価しています。
 間歇性跛行症状を呈する疾患は、ASOのみではなく、筋区画症候群や深部静脈血栓症後遺症、神経根圧迫、股関節炎、足関節炎などの他、脊柱管狭窄症があり、その鑑別診断が重要になります。
 ASOの間歇性跛行は下肢筋肉の相対的な虚血によるもので、一定の運動負荷により必ず症状が出現し、数分の安静で容易に回復すること、回復には体位による影響を受けないことが特徴です。一方、脊柱管狭窄症では、疼痛や脱力感の出現部位は臀部から大腿部背側から外側、下腿後面に出現して両側であることが多い、前屈姿勢で痛みが軽減すること、回復時間が比較的長い、などの特徴があり、問診でこうした特徴を聞き出すことで、比較的鑑別は容易です。勿論動脈拍動の減弱の有無やABI測定を行うことで、より診断は確実なものとなりますが、高齢者では両者を合併していることも少なくありません。
 重症虚血肢の診断基準については前々回にお話しいたしましたが、現在ASO患者さんの30~40%は糖尿病を併存していますので、いわゆる糖尿病性壊疽との関係をお話ししておきたいと思います。
 糖尿病でもっともよくみられ、また重篤な臓器障害に至る原因となるものは血管障害で、中でも動脈系に障害を来す様式として、糖尿病性腎症や網膜症、末梢神経障害などにみられる最小血管症、いわゆるmicroangiopathyと、脳血管や頸動脈、冠状動脈、あるいは大動脈や腸骨動脈などを含めた四肢の主幹動脈に閉塞性病変を生じる大血管症、いわゆるmacroangiopathyに大別されることはよく知られています。末梢動脈の閉塞性病変においても、同様に2つの血管障害様式がみられますが、糖尿病性壊疽として知られる病態では、両者が複雑に重なり合っています。狭い意味では、糖尿病性壊疽は、糖尿病の長い経過中に足部に生じた神経障害が、血管調節異常を生じて皮下の動静脈シャントが開大し、微小循環障害に、急性あるいは慢性の外力や感染が加わって、潰瘍や壊疽性病変を生じるもので、神経症性壊疽と呼ばれるものに限定されています。


 一般に神経症性の糖尿病性潰瘍と虚血性潰瘍との鑑別は、疼痛の有無、足部の変形の有無、知覚や振動覚の障害、胼胝を形成する潰瘍の性状や形成部位、静脈拡張の有無、皮膚温の変化、動脈拍動の有無、などを観察することで、比較的容易です。潰瘍や壊死の出現部位は、いわゆる神経症性の潰瘍では中足骨頭部や足底部、踵部、足部の外側面、足趾の爪周囲、拇趾の蹠側など、靴や臥床による慢性的な反復性の鈍的外傷などが加わる部位に生じることが多く、胼胝潰瘍を形成してくることが一つの特徴となっています。ASOによる虚血性の要因が強いのものでは、足趾や足趾から足背にかけてなどの足部遠位側に生じる傾向があり、感染を伴うと容易に隣接する足趾への血行障害を生じて壊死範囲が広範になります。


 しかしながら、糖尿病は動脈硬化を進展させる重要な危険因子の一つであり、5-10%の頻度で閉塞性動脈硬化症合併しており、主幹動脈の閉塞性病変による足部の虚血を有する例が少なくありません。従って、壊疽が出現する主な要因となる虚血性あるいは神経性因子は複雑に関与しており、その関与の程度の評価は必ずしも容易ではありません。そこで、治療的な観点からは、主幹動脈に閉塞性病変があるものも含めて、糖尿病があって足部に潰瘍や壊死性病変を有する病態を、糖尿病性足疾患diabetic footとして広くとらえ、潰瘍・壊疽のある病態を様々な観点から改善を図る、という立場をとるのがよいと思われます。



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