第4回「治療の実際<1>理学療法、薬物療法」 [オンデマンド(画像付き)]
2009/01/26(月) 00:00 staff

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テキストデータ

 閉塞性動脈硬化症ASOの多くは、高血圧や糖尿病、脂質代謝異常を併存し、虚血性心疾患や脳血管障害を合併しているものも多く、臨床経過中に心血管系有害事象を発生する頻度は極めて高いことを前回述べました。また5年生存率は、間歇性跛行例では70%前後、重症虚血肢では50%前後と不良で、予後は良好とはいえず、治療方針の選択に大きな影響を与えます。こうした臨床病像・病態から、ASOは虚血性心疾患や脳血管障害と並んで、アテローム血栓症として包括される全身的な動脈硬化症、polyvascular diseaseの一部分症としての認識が高まっています。狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの既往の有無を充分に聴取し、侵襲的治療を行う場合には心エコーや心筋シンチによる評価を行い、場合により冠動脈撮影を施行して治療の要否を検討する必要があります。脳血管障害の原因の一つとなる頸動脈病変を有していることも多いため、頸動脈超音波検査は欠かせません。腎動脈病変を有して腎血管性高血圧の原因となっている例も少なくないため注意を要します。


 こうしたことからASOの治療戦略は、悪性腫瘍に対して行われる病変そのものへの根治的治療を目標としたものとは異なり、他臓器障害を含め、動脈硬化による病態進行の阻止、閉塞性病変により生じる肢機能障害の改善などが、主な治療目標となります。
 まず併存疾患の治療が重要となります。喫煙はアテローム性動脈硬化症リスクを著しく増大させ、肢切断やバイパスグラフト閉塞の危険性を高めるため、まず禁煙指導を徹底する必要があります。
 高血圧はASOのリスクを2~3倍に上昇させるとされ、積極的な降圧療法が推奨されています。140/90 mmHg未満が目標とされていますが、糖尿病や腎不全を併存しているものでは、より厳密に130/80 mmHg未満が目標となっています。
 糖尿病は重要な危険因子であり、ASO発症のみではなく、容易に糖尿病性壊疽や感染、末梢神経障害を生じます。糖尿病による下肢動脈病変は下腿動脈に生じる例が多く、足部への虚血が高度となる特徴があるため、容易に重症虚血肢を生じます。HbA1C 7%未満が目標値ですが、可及的に6%に近づけるようにすることが望まれています。
 総コレステロールやLDLコレステロール、トリグリセリド、リポタンパク質(a)などの上昇は、ASOの独立した危険因子とされており、主にはスタチンを用いた薬物療法による管理が求められます。LDLコレステロール値100mg/dl未満が目標とされていますが、虚血性心疾患や脳血管障害などの他臓器病変を伴うものでは、より厳格に70mg/dl未満に下げることが推奨されています。


 間歇性跛行の全般的な治療ストラテジーとして、まず、危険因子の改善、次に跛行症状に対する運動療法及び薬物療法によって保存的に治療し、跛行による生活制限が大きい場合には、血行再建術を考慮する、とされています。

 運動療法は、血管内皮機能の改善、虚血部位の再還流障害の防止、筋肉代謝の改善、有酸素運動能の保持、筋力や持久性の低下の阻止などに有用で、歩行能力の障害を防止してQOLを改善します。さらに、糖尿病や高血圧などの併存疾患に対しても、運動療法が有用であることは示されており、それらの管理の面からも積極的な運動療法が望まれます。運動処方は、週3回の運動を基本とし、トレーニングは30分から始め、その後は1回あたり1時間にまで延長します。1回の療法中、トレッドミル運動は速度と勾配を変化させながら、歩行による痛みが起こる3~5分以内を目途に行います。歩行による痛みが中程度になった時点で、歩行を中断し、痛みが治まるまで安静を保ち、その後また中程度の痛みが生じるまで歩行する、という運動と安静を繰り返して行います。日本人では、トレッドミルの速度は毎時2.4Km、勾配は12%程度で始めるのが良いと思われます。


 間歇性跛行に対する薬物療法としては、シロスタゾールが最大歩行距離やSF36によるQOL評価での身体的健康度などに有意な改善のエビデンスを示しており、第一選択薬としてTASC IIや米国心臓病学会で推奨されていますが、鬱血性心不全を有するものには投与すべきではないとされています。跛行距離の改善には、薬物療法と併せて先に述べた監視下運動療法が有用であることも明らかになっています。
 また、他の薬剤としてベラプロストも注目されています。欧州で行われた検討では、ベラプロストの6ヶ月投与で、跛行出現距離は有意に延長していることが報告されています。


 米国での検討と併せたメタ解析では、心や脳血管障害、下肢症状の増悪を含めた全身の血管有害事象の発生を、プラセボ群よりも39%減少させ、有意な抑制効果のあることが示されています。


 先に述べましたように、ASOは他臓器疾患を高頻度に合併しており、治療薬の選択に当たっては、合併疾患に対する安全性を考慮する必要があります。その点でも、ベラプロストは添付文書上の制約が少なく、安全性と有効性の面から、メタボ時代のASO治療に適した薬剤といえます。
 このように薬物療法や運動療法を3~6ヶ月間行っても跛行症状に改善が見られない場合には、患者の治療目標に合わせて血管内治療を含めた血行再建術が考慮されます。


 重症虚血肢患者では、虚血性心疾患や脳血管障害、腎機能障害などの多臓器におけるアテローム血栓症を併存している例が多いため、まず併存疾患の重症度を評価し、必要な治療を行う必要があります。虚血肢に対する治療としては、血管内治療を含めた血行再建による直接的な血流改善が求められ、画像診断を行って閉塞性病変の部位や範囲、側副路の良否、閉塞部末梢側血管のrun offなどを評価し、再建術式の検討を行います。重症虚血肢では、広範な下腿動脈病変を有していることが多いため、下腿動脈遠位側や足部へのバイパスを必要とする例が少なくありません。感染を伴うものには適切な抗生物質投与を行い、潰瘍や壊疽に対しては局所療法を行います。肢虚血に対する薬物療法としては、我が国ではプロスタグランディン製剤が多く用いられていますが、その有用性については、有効であるとは思われるがどの症例に有効であるかが明らかでないことから、TASC II における評価は余り高くありません。この様な現状であるため、重症虚血肢については早期に血管外科医へ紹介するべきと考えられます。
 ASOに対する抗血小板療法は、肢虚血症状の改善のみではなく、心血管有害事象の発生の抑制、生命予後の改善、血管内治療を含めた血行再建成績の向上、などに有用です。従って、TASC IIでは、全ての症候性ASO患者に対して、他の心血管疾患の病歴の有無にかかわらず、心血管合併症の発生率や死亡率のリスクを減少させるために、抗血小板薬を長期間処方すべきとされています。
 薬物療法以外に理学療法として、炭酸泉足浴や高圧酸素療法、脊髄刺激などが行われていますが、有用性や治療効果の持続性などが、十分には明らかになっておらず、他の治療法との併用を含めた使用が望まれます。
 ASOは併存疾患や他臓器病変が多彩で、生命予後も良好とはいえない典型的polyvascular diseaseであり、全身状況を充分に見極めて治療戦略を立てる必要があります。閉塞性病変の部位や範囲、側副路様式、治療法とその成績、併存疾患の重症度などを評価し、個別の患者で異なる治療目標、生命予後を総合的に考慮して、治療戦略を立てて行くのがよいと思われます。



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