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家族性高コレステロール血症 [薬学の時間2008 , 日常診療]

2008/5/6(火) 14:48 投稿:staff  記事URL トラックバック ( 0 )

薬学の時間
2008年5月6日放送分
「家族性高コレステロール血症」
金沢大学大学院医学系研究科脂質研究講座特任教授
馬渕 宏

家族性高コレステロール血症の特徴
 本日は「家族性高コレステロール血症」の臨床についてお話します。
 動脈硬化症の危険因子は多数ありますが、喫煙、高血圧とともに高コレステロール血症は三大危険因子の一つとされています。
 血清CHOLは血中ではリポタンパクを形成しており、LDL-CHOLとHDL-CHOLがあります。LDLは動脈硬化を促進し、逆にHDLは動脈硬化を抑制します。したがってLDL-CHOLは高ければ高いほど悪い“悪玉CHOL”、HDL-CHOLは高ければ高いほどよい“善玉CHOL”と言われています。

 ところで、遺伝的に著明な高LDL-CHOL血症を呈する疾患が家族性高CHOL血症ですが、Familial hypercholesterolemia(略してFH)と呼んでいます。FHは、比較的若い年齢で高頻度に狭心症や心筋梗塞などを発症することから、CHOLと動脈硬化症に関するモデル疾患と考えられています。
 FHの臨床的特徴をお話します。
 FHは常染色体性優性遺伝を示し、対立遺伝子の両方が悪いホモ接合体性FHと、一方の遺伝子だけが悪いヘテロ接合体性FHがあります。ホモ接合体性FHは約100万人に一人とまれな疾患ですが、ヘテロ接合体性FHは一般人約500人に一人と頻度が高く、わが国のFH患者総数は30万人以上と推定されます。
 FHの3主徴は、高CHOL血症、腱黄色腫、早発性冠動脈硬化症です。
 まずFHの高コレステロール血症についてお話します。FH患者の家族調査により、正常者の平均血清CHOLは180mg/dlですが、ヘテロFHでは340mg/dlと2倍、ホモFHは700mg/dlと4倍となります。この血清CHOL血症の分布図から正常と高CHOL血症の境界は230mg/dlです。したがって、血清CHOL値が230mg/dl以上あれば、ヘテロFHを疑う必要があります。
 次に特徴的な身体所見は、皮膚や腱の黄色腫です。FH患者にみられる黄色腫は腱黄色腫、眼瞼黄色腫、扁平黄色腫、結節性黄色腫があります。腱黄色腫はFHに特徴的な黄色腫ですが、特にアキレス腱に好発します。アキレス腱反射を診るついでに、アキレス腱を触診する習慣が大切です。アキレス腱のX線撮影はアキレス腱黄色腫を客観的に定量化する有用な方法であり、アキレス腱の厚さが9mm以上あればアキレス腱黄色腫と診断できます。
 このような特徴から、FHの診断基準は次のように設定されます。
①腱黄色腫を伴う高CHOL血症、通常230mg/dl以上
②その家系で高CHOL血症を示す例
③その他、LDL-受容体遺伝子異常を示す例
 となります。
 次にFHにみられる動脈硬化症、特に冠動脈硬化症についてお話します。我々が経験した18例のホモFH患者のうち10例はすでに死亡し、死亡した10例中9例は動脈硬化性心疾患でした。平均死亡年齢は37歳でした。しかし、ホモFH症例は極めてまれであり、一般診療ではまずお目にかかることはありません。
 一方、ヘテロFH患者1,800例中156例が死亡しました。死亡したヘテロFH156例中95例(61%)は心筋梗塞、突然心臓死など“心臓死”でした。平均死亡年齢は男性61歳、女性71歳であります。脳卒中はわずか13名(8%)であり、高CHOL血症は動脈硬化症のなかでも「脳血管障害ではなく冠動脈疾患」に関係があることが歴然としております。
 ヘテロFH患者のなかで男性138例、女性55例に心筋梗塞が発症しました。男性ヘテロFHでは30歳頃から心筋梗塞が発生し、以後どの年代でも同じ頻度で発生しています。一方、女性ヘテロFHでは血清CHOLは男性FH患者と変わらないのですが、ほとんどは閉経後に男性並の頻度で心筋梗塞が発生しています。女性FHでは女性ホルモンが動脈硬化抑制的に作用していることは容易に推察できます。

家族性高コレステロール血症の薬物療法
 FHの成因について述べます。
 FHの成因と、CHOLと動脈硬化の関係を解明したのはGoldstein & Brownの両博士です。その業績に対して1985年のノーベル医学生理学賞が授与されました。FHは遺伝的にLDL受容体活性が低下している疾患です。細胞表面のLDL受容体に異常があると、血中LDLの代謝異常を来し、高CHOL血症となります。ヘテロFHのLDL受容体活性は正常の約50%に低下し、ホモFHでは10%以下に低下しております。LDL受容体は839個のアミノ酸から成る糖蛋白で、LDL受容体遺伝子は第19番染色体の短腕にあります。LDL受容体遺伝子のいずれの部分が異常でもFHが発症します。LDL受容体遺伝子異常のうち現在までに明らかになっているものは私たちが発見した37変異を含めて866変異が報告されています。
 次にFHの治療についてお話します。
 ホモFHの治療法には、肝臓移植、LDL-受容体遺伝子治療、LDL-アフェレーシスがあります。
 わが国ではホモFH患者の2兄弟例に生体肝移植が行われ、良好な結果が得られています。
 わが国ではLDL-アフェレーシスが広く行われており、非常に効果的です。患者の血液を体外循環で取り出し、血漿成分をデキストラン硫酸カラムに通過させますと、LDLだけが選択的に吸着されHDLやアルブミンなど他の血漿成分がそのまま通過し再び血液とともに体内へ戻します。この方法により1回の治療で血清CHOLは300mg/dlから100mg/dlへと劇的に低下します。1~2週間で再び血清CHOLは上昇しますので、LDL-アフェレーシスは1~2週間に一度繰り返し継続することになります。私たちの1例は25年以上安全にLDL-アフェレーシス治療が継続されております。
 ヘテロFHの治療は一般の高CHOL血症とは基本的には異なるものではありませんが、より積極的に治療する必要があります。男性では高校卒業後、女性では30歳頃から積極的に治療すべきであります。
 まずFHの食事療法ですが、一般の高コレステロール血症の場合と変わりません。FH患者では食事療法だけでは不十分で薬物療法は必須となります。
 FHの薬物療法として、FHに有効なものは次の3剤であります。
①コレステロール合成阻害剤(HMG-CoA還元酵素阻害剤、別名スタチン系薬剤と総称いたします)
 CHOL生合成経路の中でHMG-CoAからメバロン酸へ転換する還元酵素(HMG-CoAレダクターゼ)が律速酵素でありますが、この酵素活性を抑制すれば肝臓のCHOL合成は低下し血清CHOLは低下します。
 HMG-CoA還元酵素阻害剤のうち、わが国では6剤が発売されています。
 本剤は極めて安全な薬物と考えられていますが、ごくまれに横紋筋融解症の報告があるので、血清CKなどの定期的な検査が必要です。
②エゼチミブとコレスチラミン
 エゼチミブはCHOL吸収をブロックし、陰イオン交換樹脂は胆汁酸の吸収をブロックします。陰イオン交換樹脂は腸管から吸収されないので安全性は高く、小児FH患者にも安全であったと報告されています。
③薬剤の併用療法
 通常の高CHOL血症に対しては前述のいずれの薬剤を単独で投与しても十分効果が期待できますが、大部分のFH患者は単剤投与で血清CHOL値が正常になることはまれです。高CHOL血症治療の目標値を達成するには、いくつかの作用機序の異なる薬物の併用が試みられ、好結果が得られています。特にスタチンと陰イオン交換樹脂またはスタチンとゼチアとの併用は最も強力で、LDL-CHOLは50%以上低下します。
 家族性高CHOL血症の診断と治療に関して、私たちの成績を中心に述べました。FHは日常診療にしばしばみられる疾患であります。しかも高CHOL症の最も基本となる疾患ですから、FHを1例でも経験され、高CHOL症と動脈硬化に対してますます関心を持っていただくよう期待します。


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