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東日本大震災における医療チームの役割~病院薬剤師として [薬学の時間2011]

2012/2/9(木) 19:57 投稿:staff  記事URL トラックバック ( 0 )

薬学の時間
2011年5月31日放送分
東日本大震災における医療チームの役割~病院薬剤師として
名古屋大学医学部附属病院薬剤部 副薬剤部長
石川和宏

 東日本大震災が発生した後、その翌日までに災害初期の救命医療を担う災害派遣チーム(DMAT:ディーマット)として1,000人以上が全国から被災地入りしました。その後、震災発生から1ヶ月間に全国から医療支援に入った医師、看護師、及び薬剤師等の数は、15,000人以上にのぼることが読売新聞の調べで明らかとなっています。薬剤師関連では、日本薬剤師会及び日本病院薬剤師会が515名、あるいは大学医学部で411名等となっています。

 私が勤務している名古屋大学医学部附属病院(以下名大病院と略させていただきます)においても、文部科学省からの要請を受け3月16日に支援物資を自衛隊小牧基地から東北大学病院へ搬送するとともに、同日放射線測定チームが福島県に派遣されました。その後3月18日より医師、看護師、薬剤師、及び事務員からなる医療支援チームが宮城県石巻市にある石巻赤十字病院に派遣されることとなりました。幸運にも今回派遣されたチームの第3班の一員として参加する機会を得ましたので、病院薬剤師としての役割を踏まえつつ今回の活動報告をさせていただきます。派遣期間は、3月31日〜4月5日で、チームの構成は、医師3名、看護師2名、薬剤師1名、及び事務員1名の計7名でした。さらに「自己完結型」の救援チームとして独自に活動できることを目的に、種々の医療器材や薬剤とともに自立生活物資も持参し、ワゴンタイプの専用車にて現地と名大病院を往復しました。現地での宿泊は各地域の医療チームが合同で使用していた施設での雑魚寝でしたが、第1班が訪れた時は、病院の廊下で寝袋を使用していたそうですので、状況は少しずつですが改善されつつあるところでした。我々のチームが災害拠点病院である石巻赤十字病院を訪れた時にはすでに災害医療コーディネーターとして石井先生が一元的に統括する「石巻圏合同救援チーム」が発足しており、圏内を14地域(エリア)に分け、1地域を固定したエリア幹事チームが担当して定点医療を実施し、その指示の下に3〜4チームが巡回診療するエリア・ライン制が取られていました。さらに、すべての医療チームに対してアセスメントシートへの記入を求め、担当した各施設の最新情報を日赤病院に集約し、毎日各施設の状況が更新され、その内容に応じて翌日の医療活動が決定されるという体制が採られていました。この体制の一貫として、日々の活動にて浮かび上がった問題点などを整理し、情報共有を図る場として、午前7時と午後6時の1日2回日赤病院の外来ロビーにてミーティングが開催され、毎回熱のこもった議論が交わされていました。我々のチームは高知大学がエリア幹事を務めていたエリア6Bを担当することが決まり、毎日の指示をいただきました。エリア6Bは、800名の方が避難され、すでに臨時の診療所が設置されていた渡波(わたのは)小学校が診療拠点となっていました。そこでは、エリア幹事が数日単位で入れ替わる派遣チームの人数や構成メンバーなどの特徴を踏まえ、ここに常駐して診療を行う「定点医療チーム」と地域の避難所を巡回する「巡回診療チーム」に振り分けをして常時ラインの活性化を図っていました。我々のチームは、単独で活動できる特徴を活かした、「巡回診療チーム」として位置づけられ、診療拠点より遠方であったり、診療が充分に行き届いていないかあるいは巡回診療が全くされていない手つかずの施設を中心に支援活動を行いました。診療が疎遠であった避難所が中心であったため、定期的に診療が行われている場合の受診率はおよそ10%であるといわれていましたが、それと比較して30〜50%と高いものでした。今回の医療支援チームにおける薬剤師の役割としては、チームが持参した薬剤の在庫管理、医師からの要望があれば別途現地での薬剤調達、薬袋作成も含めた調剤、一包化された薬剤を含む持参薬の識別、後発薬の同定、用法用量や同種同効薬に関する情報提供、ならびに患者さんへの服薬指導が主なものでした。薬の処方に関しては、「長期処方」と「短期処方」にて対応し、慢性疾患による服用で残薬が少なくなっていた場合には、長期処方として引き替え券付きの処方箋を用いて処方し、患者さんには引き替え券をその場でお渡しして、後日診察を受けた避難所に配達された時に本券をもって薬を受け取るという方法が採られていました。短期処方は、感冒症状や花粉症などのアレルギー様症状、疲労から引き起こされたと思われる高血圧症、あるいは避難所における不眠症といった急性症状に対して数日間分を処方するというもので、患者さんのカルテに長期処方とは別に記載され、その記載に基づいてその場で調剤しました。また、処方に用いられた本チームの持参薬は数個の段ボール箱に分けて専用車の荷台に積まれており、「臨時診療所型支援」では専用車より箱ごと搬入してミニ薬局を設置して対応し、「回診型支援」では小分けにした薬剤をリュックサックに入れて持参し、そこから使用したりあるいは小分けにして持参していない薬剤が処方された場合には、専用車まで取りにもどったりして対応しました。震災後初めて医療支援チームが訪問したという老人ホームでは「回診型支援」を実施し、緊急入院が必要となった2名の患者さんに対してチーム総出で介助をしながら救急車にて石巻赤十字病院へ搬送しました。入居者の多くは主疾患の症状に加えて感冒症状を併発しており、また疲労感がピークに達していたホームのスタッフにおいても、高血圧症や感冒様症状を呈していました。医師・看護師による熱心な回診とともに次々と処方が出され、無我夢中で手書きの薬袋作成を含む調剤を行いました。その間薬を取りに専用車との間を何度となく往復しました。必要な薬剤を取りそろえて、患者さんの氏名や用法用量を記載した薬袋を手作業で作成するという調剤作業は、日頃電子化に慣れてしまった体には負担ではありましたが、少しでも待ち時間を減らそうと必死でこなし、汗をかきながらの作業となりました。しかしながら、「あと少し訪問が遅れていたらかなり状況は深刻なものとなっていたことでしょう」とチームリーダーが語ったのを聞いて本チームのメンバーとともにホームのスタッフも安堵の色は隠せませんでした。また、本チームのメンバーと訪問先の方々との間で症状に関して一喜一憂しながら回診を進めて行く中で、複数の方々からは、「神の助け」と思って大変感謝していますと御礼の言葉をいただいた時はメンバー一同満面の笑みが絶えませんでした。助け合いの精神の大切さを本当に実感した瞬間でした。また、巡回診療における「臨時診療所型支援」では、訪問先に到着すると同時にチームリーダーによる避難所の管理責任者との打ち合わせにて臨時診療所の場所が決定されるとともに、チームワークを駆使して非常に速やかに診療スペースが確保され、その際、段ボールの運び入れにおいてもチームのだれが声をかけることなく無言の内に事が進められていました。そして瞬く間に医師や看護師による熱心な問診や診察あるいは処置が開始されました。持参した薬剤を取りやすく並べている間もなく処方が次々と出され、場所を問わずやはり必死でこなす状況には代わりはありませんでした。けれども、その後の服薬指導においては、個々の薬に関する説明に対してどの患者さんにおいても大変熱心に耳を傾けいただき、かつ必要な質問もされ、最後には笑顔で大変丁寧にお礼の言葉をいただくことができました。これらの言動から非常に大きな負担を背負ってみえるにもかかわらず、逆にこちらがそのような言動に励まされたという思いを強く感じると共に、そこにはすでに前向きに復興に取り組んでいこうとする姿勢さえも感じ取ることができました。また別に、父親に抱かれて受診した男の子に処方薬を渡すと元気よく「ありがとう」という言葉が返ってきたのには胸が熱くなり、「お大事にして下さい」という言葉を返すのが精一杯で、やはり逆に大いに励まされました。そこには日頃忘れかけていた医療の原点というものをあらためて思い起こさせるような非常に価値のある経験ができたと思っています。助け合いの精神を人と人との絆として実際行動に移せたことは、医療に携わる者としてこの上ない喜びを感じ得ずにはおれませんでした。また、「臨時診療所型支援」においは、「回診型支援」に比べると処方の数も多く、診療の後半にさしかかってくるといくつかの処方がたまるような状況に陥ってしまうわけですが、それにもかかわらず服薬指導に十分時間をさくことができたのは、診察が終了した時点からチームのメンバーである医師や看護師が薬袋を作成したり、その薬袋の上に必要数の処方薬をおいていてくれたりという協力があったためで、日頃の業務からは想像もつかない光景を目の当たりにして、チームの絆というものを非常に強く感じ、ここでもまた胸が熱くなる思いをしました。さらに、様々な場面において謙虚に個々の専門性をたたえる会話も多くなされていたこともチーム内の絆をよりいっそう強めることにつながっていたのではないかと思っています。チームワークの良さを最大限に発揮させるためには、個々が持つ専門性を遺憾なく発揮できることとスキルミックスを含めた相互の協力体制が常に同居していることが非常に重要であると痛感しました。
 今回チームの一員として医療支援活動に参加しましたが、その中で薬の専門家としての薬剤師の必要性が大変高く、医療支援チームのメンバーとしての役割が非常に強く求められていたことには大変驚かされ、その重要性には心が引き締まる思いでした。中でもチームとして本当に気持ちがひとつになった時というのがいかにすばらしいかということを体験できたことは、医療貢献とともに今後に役立つもう一つの大きな意義であったと思っています。

最後に、今回の東日本大震災で被災されました方々に心よりお見舞いを申し上げます。また、亡くなられた多数の方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご家族の皆様方には、謹んで哀悼の意を捧げます。そして、被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

また、今回このような貴重な経験の機会を与えて頂きました松尾清一名大病院長をはじめ山田清文薬剤部長ならびに本支援活動を名大病院にてささえて頂きました関係各位に心より御礼申し上げます。


 

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