 ガチフロキサシン
長崎大学 第二内科 教授
河野 茂
市中肺炎の原因菌と治療薬
市中肺炎の原因菌は、報告によって若干異なりますが、肺炎球菌、インフルエンザ菌などの一般細菌群に加えて肺炎マイコプラズマなどの非定型病原体が主なものです。
肺炎は原因微生物が肺組織に感染して発症するものであり、原因微生物を制御する抗菌薬の選択は原因微生物に標的を絞って行われることがもちろん理想的です。しかしながら、一般にこのように科学的な抗菌薬の選択がなされない理由としまして、(1)約半数の症例で原因微生物が不明であり、治療前に原因菌が推定される症例が極めて少ないこと (2)肺炎の治療は早く開始しなければ予後が悪いこと、などが挙げられます。このように実際の臨床現場では、原因菌を標的にしたターゲット治療よりエンピリック治療が選択される傾向にあります。市中肺炎の原因微生物には、前述したようにβ-ラクタム系抗菌薬が無効である非定型病原体が含まれているため、それらに有効なマクロライド系、テトラサイクリン系、またフルオロキノロン系といった抗菌薬が用いられます。

レスピラトリーキノロンの開発
抗菌薬を選択する際の最も重要な事項として、ペニシリン耐性肺炎球菌の存在があります。ペニシリン耐性肺炎球菌は1990年代後半より、急速に増加しており、現在は我が国では約60%がこの耐性菌となっています。また、これらの菌は同時にマクロライドやテトラサイクリンにも耐性を示すことが多く、臨床的には大きな問題です。このような状況で、ニューキノロン薬の役割はますます大きくなってきました。従来のニューキノロン薬は、肺炎球菌を含めたグラム陽性菌に対する抗菌力が弱い傾向があり、その克服のため特に肺炎球菌に対する抗菌力を高めたレスピラトリーキノロンが開発されました。これらは、呼吸器感染症の治療において大きな恩恵をもたらすものとして期待されています。
日本呼吸器学会の市中肺炎ガイドラインは、耐性菌の増加を考慮し、ニューキノロン薬を第一選択薬としていません。しかしながら、アメリカ感染症学会(IDSA)は、ニューキノロン薬を用いた外来治療を強く推奨しています。このように、ニューキノロン薬の市中肺炎ガイドラインにおける位置づけはガイドラインごとによって異なっています。
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