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<スズケンDIアワー> 平成14年7月4日放送内容より スズケン

炭疽菌対応マニュアル


長崎大学熱帯医学研究所 感染症予防治療分野 教授
永武 毅

炭疽患者の臨床症状と対応

 臨床診断では皮膚炭疽、腸炭疽、肺炭疽の三つに分けて考えるのが現実的です。主な症状について申し上げますと、まず皮膚炭疽というものは炭疽という病気の95%を占めるものですが、最初にニキビ様病変に始まり、感染2、3日目に無痛性で非化膿性(痛みを伴わない)悪性膿疱といわれる病巣が出来ます。いわゆる紫から赤色の腫れが出来、感染3、4日目にはそれを囲むように水疱が出現をいたします。約1週間で潰瘍を見ますし、中央部に黒褐色の痂皮(これが炭疽と言われる病名の由来です)を生じることになります。所属リンパ節の腫脹もみられ、放置しますと敗血症、外毒素によるショック等で死に至るという訳でございます。
 腸炭疽は、二つに分けられており、吐き気、腹痛、嘔吐、血便、腹水等をみる所謂腸型と、咽頭炎、嚥下障害、頸部リンパ節炎等をみる口腔咽頭型というものでして、両者共に無治療では敗血症や外毒素によるショックへと進行して、死に至ることもございます。
 肺炭疽では、炭疽菌の経気道吸入によるものですので、感染ルート別にみた場合の症例数は極めて少ないことになります。ヒトにおける吸入芽胞の50%致死量、いわゆるLD50は2500〜50000個と推定されています。
 まず、風邪症状 所謂発熱、疲労感、倦怠感等に始まり、数時間から数日して頭痛、筋肉痛、悪寒、高熱、胸痛など所謂インフルエンザ様症状と申してもいいと思いますけども、これらに突然の呼吸困難とチアノーゼ、さらに昏睡に陥り急死をするという経過でございます。この時期には出血性胸郭リンパ節炎、出血性縦隔炎を起こして、通常の気管支肺炎像はほとんどみられない、という風に言われております。
 胸部レントゲン写真では拡大した縦隔陰影が特徴的であるということを、我々臨床家は肝に命じておくべきです。また、半数に出血性髄膜炎を合併いたしますし、急性インフルエンザ様症状が出た後では、治療に関わらず24時間以内に死亡する可能性が、極めて高くなります。
 従いまして、バイオテロの可能性がある場合には、特に診断・治療の遅れが生命予後に大きく影響するのだということを、私どもは米国の事例で学んできた訳でございます。
 以上、臨床診断における特徴を申し述べてまいりましたが、最も症例の多い皮膚炭疽では、無痛性なので診断がつかないまま放置される可能性があります。また腸炭疽や肺炭疽も最初は緩慢な風邪症状に始まりますので、病初期の臨床診断が困難です。従って常々、検体をしっかりと採取致しまして、検体のグラム染色でグラム陽性桿菌を検出することが、最終的な確定診断への第一歩、もっとも近道であるということを肝に命じておくべきです。

炭疽菌に対する今日的治療法

 最後に治療について、今日的な考え方を申し上げます。
 薬剤感受性の成績からは、ペニシリン、アミノグリコシド、マクロライド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、およびニューキノロンが有効な抗菌薬ということになっており、実際これらには感受性が認められます。しかし、分離菌の中にβ-ラクタマーゼ産生菌がございますし、セファロスポリナーゼの存在も明らかで、セファロスポリンの抗菌力も強くないということですので、ペニシリンでの単独治療は推奨されませんし、セファロスポリンは治療薬としての適用はございません。
 従いまして、今日治療薬としてニューキノロン、テトラサイクリン、リファンピシン、クリンダマイシン等が用いられることになる訳でございます。
 肺炭疽や重篤な皮膚炭疽では、これらを多剤併用して治療に用いるということが、行われています。以上、炭疽について主な臨床症状、そしてバイオテロにおける考え方、今日的な治療法などについて申し述べました。


提供 : 株式会社スズケン


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