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<スズケンDIアワー> 平成14年10月10日放送内容より スズケン

閉経後乳癌治療
アロマターゼ阻害薬エキセメスタン


大阪大学 腫瘍外科 講師
田口 哲也

乳癌のホルモン依存性機構と閉経後乳癌

 乳癌の大きな特徴は、ホルモン依存性癌であるということであります。乳癌の発生、増殖、進展には女性ホルモンであるエストロゲンが重要な役割をいたします。エストロゲンが働く細胞の核内にはエストロゲンレセプター(ER)があり、エストロゲンはこれと結合してDNAに働き、さまざまな遺伝子の発現を調節して、特有の機能を発揮する仕組みになっています。よって、乳癌の治療法として、エストロゲンの分泌や働きに作用するホルモン療法が行われています。
 閉経の前・後でエストロゲンのつくられる量や主としてつくられる臓器が変わっていきます。閉経前では卵巣において月経周期を保つほど十分な量を分泌いたしますが、閉経後になると卵巣からの分泌は停止し、副腎由来の男性ホルモンであるアンドロゲンが、脂肪組織などの酵素アロマターゼにより、エストロゲンに変換されることでわずかに分泌されています。閉経後女性では、エストロゲンレセプター陽性乳癌が60〜70%以上を占め、わずかなエストロゲンに反応して増殖していくと考えられています。よって、今回のテーマである閉経後乳癌治療では、ホルモン療法が大きな役割を持っていると言えます。

「エストロゲンレセプターを介した細胞内情報伝達機構」

閉経後乳癌の治療方針

 ホルモン療法薬には、四つの種類があります。抗エストロゲン薬、アロマターゼ阻害薬、LH-RHアナログ、そしてプロゲステロン薬であります。このうち、閉経後乳癌で用いられるものは、タモキシフェン、トレミフェンなどの抗エストロゲン薬とファドロゾール、アナストロゾール、エキセメスタンなどのアロマターゼ阻害薬、そしてプロゲステロン薬のMPAであります。
 閉経後乳癌のホルモン治療としては、再発予防のための術後補助療法と進行再発乳癌すなわち転移性乳癌に対する治療があります。術後補助療法では、有名なザンクトガレンのレコメンデーションをもとに治療選択をすることが一般的であります。腋窩リンパ節転移の有無により大きく二大別され、転移陽性の場合は化学療法が行なわれます。エストロゲンレセプター陽性またはプロゲステロンレセプター陽性の閉経後乳癌にはホルモン療法としてタモキシフェンが追加されますが、リンパ節転移陰性でリスクが低いと判定されれば、無治療かタモキシフェンだけの場合もあります。また、閉経後乳癌に対する術後補助療法に使用するホルモン薬として、最近ではアロマターゼ阻害薬の有効性が注目され始めています。
 さて、進行再発乳癌すなわち転移性乳癌の予後は不良であり、一般には根治を望めない病態であると考えられています。世界最高峰のM.D.Anderson Cancer Centerの報告でも、転移性乳癌症例の10年生存率はわずかに3.8%と報告されています。そのため現状では、転移性乳癌の治療は“cure”ではなく“care”を目指したものと考えられています。従って、化学療法に比べ副作用の少ないホルモン療法をいかに上手に使うかが、転移性乳癌治療の目標である“care”を達成するためにも重要です。


提供 : 株式会社スズケン


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