→ 番組表はこちら
→ ストリーミング版はこちら
<スズケンDIアワー> 平成14年12月12日放送内容より スズケン

点眼用炭酸脱水酵素阻害薬


岐阜大学 名誉教授
北澤 克明

点眼用炭酸脱水酵素阻害薬の薬理作用と薬物動態

 炭酸脱水酵素阻害薬であるアセタゾラミドが内服投与あるいは経静脈投与で強力な眼圧下降作用を示すことは1954年にBeckerにより初めて報告された。以来、炭酸脱水酵素阻害薬は経口薬剤として緑内障治療薬に広く用いられてきた。
 特にβ遮断薬が登場する1980年まで経口炭酸脱水酵素阻害薬は緑内障治療に必要不可欠であった。しかしながら、全身性に作用する経口炭酸脱水酵素阻害薬は、手指や口唇の痺れ感、胃腸障害、食欲不振、るいそう、皮膚の薬疹、代謝性アシドーシス、低カリウム血症、尿路結石などの多彩な副作用を高頻度に惹起するために、多くの患者で優れた眼圧下降にもかからずその投与を中断せざるを得なかった。そのため、炭酸脱水酵素阻害薬を眼局所に投与し内服時の副作用を回避し、眼圧下降を得ることがアセタゾラミドの登場直後より研究課題となったが、臨床応用可能な点眼炭酸脱水酵素阻害薬・塩酸ドルゾラミド点眼液が開発され登場したのは40年後の1995年であり、第二の点眼炭酸脱水酵素阻害薬、ブリンゾラミドが米国で臨床に導入されたのは1998年のことである。

(資料3:「ドルゾラミドとブリンゾラミドの構造式」)

 点眼液の臨床開発上の最も大きな障害となったのは角膜透過性であり、ドルゾラミド以前の薬剤は角膜透過性が不良であった。炭酸脱水酵素は生体内で二酸化炭素の水和、炭酸の脱水の可逆的反応にあずかる酵素である。炭酸脱水酵素阻害薬は毛様体突起無色素上皮細胞で炭酸脱水酵素を阻害し、重炭酸イオンの生成を抑制し、Naイオンの能動輸送に影響し房水産生を抑制すると考えられている。

(資料4:「炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)の房水産生抑制機序」)

 房水産生に関与する炭酸脱水酵素はII型であり、眼圧を下降させるためには無色素上皮細胞内のII型炭酸脱水酵素活性を99%以上阻害する必要があることが知られている。したがって、点眼用炭酸脱水酵素阻害薬はII型アイソザイムに対する高い特異性が要求される。ドルゾラミド、ブリンゾラミドは従来の経口炭酸脱水酵素阻害薬に比べ高いII型アイソザイムに対する特異的阻害作用を持っている。
 ドルゾラミド、ブリンゾラミドともに角膜を速やかに透過し毛様体へ移行し、網膜にも移行する。点眼された薬剤の一部は全身に吸収されるが、赤血球のII型炭酸脱水酵素と結合し、血漿中にはほとんど存在しない。このため、点眼投与されたドルゾラミド、ブリンゾラミドの全身への影響は軽微である。

臨床応用における留意点

 このようにドルゾラミド、ブリンゾラミドの薬理作用、薬物動態は良く類似しているが製剤としては臨床応用に際して知っておくべき相異なる点がある。両者の分子量はほぼ等しい(360.91対383.51)。ドルゾラミドは0.5%と1%が、ブリンゾラミドは1%点眼液が利用できる。ドルゾラミド点眼液は無色透明、pH5.5〜5.9で酸性、ブリンゾラミド点眼液は白色懸濁性、pH約7.5でややアルカリ性である。ドルゾラミド点眼液はヒドロキシエチールセルロースを含みわずかに粘稠であり、ブリンゾラミド点眼液はカルボキシビニールポリマーを含み懸濁している。こうした理化学的特性の相違が後に述べる臨床応用時の有害事象の出現と関連するとされている。注意すべきことは、国内と海外でのドルゾラミド点眼薬の濃度の相違である。日本国内での用量設定試験で定められた0.5%と1%に対して欧米では2%が用いられている。この事実は、海外での臨床研究成績を参照する際に忘れてはならない。

(資料6:「トルソプト点眼液(ドルゾラミド)の国内第III相比較試験」)

 ドルゾラミド、ブリンゾラミドともに緑内障、高眼圧症で有意の眼圧下降を示す。ドルゾラミドの至適用量は有効性と安全性の面から0.5%、1%ともに1日3回点眼とされている。0.5%ドルゾラミド1日3回点眼は代表的β遮断薬マイレン酸チモロール、0.25%1日2回点眼と同程度の眼圧下降を示す。ブリンゾラミド1%点眼液は1日2回点眼が至適用量とされ、その眼圧下降力価は2%ドルゾラミド1日3回点眼のそれと同等であるが0.5%チモロール1日2回点眼には劣る。このふたつの成績からブリンゾラミド1%の眼圧下降力価はチモロール点眼液0.25%と0.5%の間と推定される。ドルゾラミド、ブリンゾラミドともに眼圧下降効果の減衰は18ヶ月投与では認められていない。

(資料7:「第III相試験(チモロール併用療法)」)


提供 : 株式会社スズケン


前項へ 1 2 3 次項へ