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<スズケンDIアワー> 平成15年1月9日放送内容より スズケン

腸管糞線虫駆虫薬
イベルメクチン


琉球大学 第一内科
平田 哲生

イベルメクチンの概要

 次にイベルメクチンに関して述べたいと思います。
 イベルメクチンは1987年に開発されました広域抗寄生虫薬アベルメクチンの誘導体で、従来、海外では回旋糸状虫の駆虫薬として広く使用されていました。その後糞線虫症に対しても優れた効果を示すことが判明しアメリカ、フランスなど数カ国で承認され使用されてきました。これまで、わが国ではヒューマンサイエンス総合事業「熱帯病に対するオーファンドラッグ開発研究」班により供給されていましたが、国内での臨床試験終了し平成14年12月6日に市販となりました。本薬が認可される前には糞線虫治療薬としてはチアベンダゾールが使用されてきましたが、有効性は高いものの副作用が多く安全性に問題がありました。また、その製造過程で排出される物質による環境汚染が問題となっており数年後には製造中止となる予定です。
 イベルメクチンの線虫に対する作用はシナプス前神経終末からの抑制性神経伝達物質(GABA)の放出を促進することにより、線虫の腹側神経索中の介在ニューロンからの興奮性運動ニューロンへの信号の伝達を抑制することによると考えられています。しかも、哺乳類の中枢神経系には浸透しないため、ヒトのGABA依存性神経伝達を阻害せず安全に使用できます。本薬の体内動態ですが、吸収された薬剤は尿中に排泄されず、一部は肝で代謝されます。その後代謝産物もしくは代謝されない未変化体も糞便中より排泄されます。しかし、本薬はきわめて水に溶けにくく経口投与された場合、消化管からの吸収は少ないと思われます。

イベルメクチンの臨床成績

 承認時の用法・用量は体重1kgあたり約200μgを2週間間隔で2回投与となっています。海外では1回のみの投与ですが、私たちは2週間後に再度治療を行っています。その根拠として、本薬は体内組織中の幼虫や虫卵には効果が少ないと推定されること、糞線虫は経皮感染から糞便までへの出現までに2週間を要し、3〜4週間でひとつのサイクルを完了することを考慮してこの方法を決定いたしました。

(資料8:「イベルメクチンの用法・用量」)

 また、我国では糞線虫感染者にHTLV-1との重複感染が多くみられ、このような症例では宿主の細胞性免疫の異常により本虫の排除能に低下が認められることから、単回投与では十分な駆虫効果が得られないのではないかと考えています。投与時の注意として本薬は脂溶性のため高脂肪食により血中濃度が上昇する可能性があるため、空腹時に水で服用することが推奨されています。実際には朝食前1〜2時間前に飲むように指導しております。
 臨床治験時には50症例に対し前述のプロトコールで治療を行い、治療4ヶ月後の駆虫率は98%でした。副作用としては2%に悪心・嘔吐が認められました。臨床検査値異常は8%に認められ主に軽度の肝障害で臨床的に問題となるようなものはありませんでした。このようにイベルメクチンは有効性、安全性ともに優れており安心して糞線虫症に使用できる薬剤です。
 琉球大学第一内科では臨床試験以外に417例の糞線虫症の患者に対しイベルメクチンによる治療を行ってきました。352症例に関しては今回承認された量の半分の体重あたり100μgを2回、65症例に関しては200μgを2回投与しました。100μg投与群では、治療1ヶ月後の駆虫率は94.3%でHTLV-1抗体陰性者:97.7%、HTLV-1抗体陽性者:88.8%でした。治療1年以上の駆虫率は88.1%でHTLV-1抗体陰性者:96.1%、HTLV-1抗体陽性者:72.5%であり、HTLV-1抗体陽性者において再発する症例がみられました。副作用としては下痢、めまい、腹鳴、悪心、痒感などを1%から2%に認めましたが、いずれも軽度で一過性のものであり、臨床上問題となるようなものはありませんでした。肝機能障害は1回目投与後に8.9%、2回投与後には3.4%の症例において認められました。そのうち肝機能障害のため2回目投与を中止したのは2例で、その他の症例では臨床上特に問題はありませんでした。
 200μg投与群では治療1ヶ月後の駆虫率は98.5%でHTLV-1抗体陰性者:100.0%、HTLV-1抗体陽性者:96.4%であり、HTLV-1抗体陽性者で100μg群に比較し駆虫率が良好でした。副作用、肝機能障害の出現、ならびにその程度について、100μg投与群と比較してみても有意差は認められず、安全性についても問題はありませんでした。なお、200μg投与群の1年後以上の駆虫成績は現在追跡調査中ですが、追跡しえた症例において再発は認めていません。以上の両群の治療結果を考慮しますと、糞線虫の健康保虫者はイベルメクチン100μg投与でも十分で、有症状者やHTLV-1との重複感染者に対しては200μgの投与が有用ではないかと思われます。

(資料7:「イベルメクチンによる駆虫成績」)


提供 : 株式会社スズケン


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