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<スズケンDIアワー> 平成15年1月23日放送内容より スズケン

DI実例集(139)


東京医科大学病院 薬剤部 主査
小林 仁

水溶性持続型製剤の作用機序

 既存の亜鉛やプロタミン添加した中間型あるいは持続型インスリンには、血中濃度にピークがある、皮下からの吸収が一定しない、中間型では作用時間が短い、使用時に混和する必要がある、持続型はペンシステムの使用ができない等の問題点があります。そこで新たな持続性のインスリン製剤の開発が望まれました。
 インスリンデテミールは、インスリン分子のB鎖30スレオニンを欠失させ、29のリジンをミリスチン酸でアシル化した水溶性持続型アナログ製剤です。B鎖29に結合したミリスチン酸の脂肪側鎖が、アルブミンと結合することにより、結合型と活性を有する遊離型と平衡状態を保ち、作用時間を持続させます。
 インスリングラルジンは、インスリンA鎖C末端21のアスパラギン酸をグリシンに置換し、B鎖30のスレオニンで終わるC末端に、2個のアルギニンを付加し、酸性条件下で溶解しやすくした水溶性持続型インスリンアナログ製剤です。そのため、皮下投与されたインスリングラルジンは、組織液の中性条件下で結晶することにより、皮下からの吸収が遅れます。
 水溶性持続型インスリンであるインスリンデテミールとインスリングラルジンは、作用を持続させるメカニズムこそは異なりますが、共にインスリンのピークが低く、作用が長時間安定して得られることから、今後、超速効型インスリンとともに、インスリン基礎分泌の補充に欠かせないものとして期待されています。

新たな投与経路の検討

 今日、インスリンを投与するためには、多かれ少なかれ注射時に痛みを伴います。糖尿病患者の生活の質を向上させるため、注射によらない様々なインスリンの投与法が検討されてきました。
 インスリンを微粒子状またはエアゾル化し吸入、肺胞表面から吸収させる噴霧インスリン製剤が開発され、米国では第III相試験が2001年に終了し、現在FDAに承認申請中です。肺胞からのインスリン投与は、

(1)肺胞の表面積がとても広く、インスリンなどの小さな分子を良く吸収する
(2)速攻型インスリンと同じ血中濃度が得られ、かつ作用時間が短い。
(3)個体差が少ない。

 以上の理由でこのルートでのインスリン投与が検討されてきました。また噴霧インスリン製剤は、乾燥したインスリンの粉末を使用することから、力価の低下や細菌汚染の問題を回避できるというメリットもあります。その一方、インスリンを大量に必要とすることによる医療経済上の問題、喫煙者には適さない、肺機能に問題のある患者には使用できないなどのデメリットもあります。噴霧インスリン製剤は、1型および2型糖尿病患者とともにインスリンリスプロと同等の血統降下作用が認められ、今後糖尿病患者の生活の質を向上させるインスリン製剤として期待されます。インスリンの投与経路として、肺胞以外に眼瞼粘膜、鼻孔粘膜、口腔粘膜、上部腸管投与、直腸投与など経粘膜的投与の検討が行われています。特に、上部腸管投与は内因性のインスリンと同じ経路を通り、さらに注射薬で問題となる高インスリン血症を起こしにくいというメリットから、インスリンの理想的な投与経路と期待されています。しかし、生体膜の透過性の低さから、まだ実現に至りません。また近年、コンゴ民主共和国の植物から採取された子嚢菌一種の培養液中からインスリン受容体活性を有する物質が発見され報告されました。動物実験でインスリン受容体活性を向上させる薬剤として期待されており、人にそのまま適用できるか、今後臨床試験の結果が待たれます。インスリンは、発見され80年が経過しました。その間にインスリンは、遺伝子工学をはじめとする技術の進歩に伴い、より生体のインスリン分泌を模倣する製剤、患者生活の質を向上させる製剤の開発が進められてきました。今後どのようなインスリン製剤が開発されていくのか期待されます。


提供 : 株式会社スズケン


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