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<スズケンDIアワー> 平成15年4月3日放送内容より スズケン

薬物相互作用発生の予測


九州大学大学院 薬学研究院 臨床薬学 教授
澤田 康文

ファーマコダイナミクスに基づく薬物相互作用

 次にファーマコダイナミクスに基づく相互作用についてお話ししますが、これも予測可能な相互作用と予測が困難な相互作用に分けることができます。予測可能な相互作用としては、同じ種類の主作用を持った薬物の併用によって主作用が相加的に増強してしまう場合です。例えば、血圧降下作用を有した薬物の重複投与は作用が増強して過剰に血圧が降下する可能性があるので注意が必要です。同じ種類の副作用を持った薬物の併用によって副作用が相加的に増強してしまう場合もあります。例えば、副作用として抗コリン作用を有した薬物の併用、錐体外路作用を有した薬物の併用、眠気を引き起こす薬物の併用によって、これら多様な副作用が集積して危険な状態に陥ってしまう場合です。この時、個々の薬物においてはその副作用は特に問題はないけれど、併用によって強く副作用が顕在化してしまうということになります。更に、主作用と副作用が同じ症状である場合においては、副作用が集積することになります。例えば、β遮断薬、カルシウム拮抗薬などの主作用としての血圧降下作用、排尿障害治療薬の塩酸タムスロシンの副作用としての血圧降下・起立性低血圧が重なりあいますと、過度に血圧が低下して危険な状態となる可能性があります。また、作用部位で主作用がアゴニストとなる薬剤とアンタゴニストとなる薬剤が併用される場合は危険であります。例えば、気管支喘息治療のために、β刺激薬が使用されている患者に高血圧・狭心症治療の目的でβ遮断薬が併用される場合などをあげることができます。一方、予測が困難な場合としては、主作用、副作用発現部位で2薬が相乗的に作用を増強させるケースであります。例えば、ニューキノロン系抗菌薬と非ステロイド性消炎鎮痛薬はそれぞれ単独投与した時には中枢性副作用が弱いにも関わらず、併用時には薬剤の組み合わせによっては強い中枢性痙攣作用を惹起することがあります。これは抑制性神経のGABAAレセプター遮断作用の相乗的増強が原因しています。このような薬物相互作用は、医薬品開発の段階で見出すことは困難であります。

薬物相互作用の強度予測

 さて、次に薬物相互作用の強度の程度、即ち重篤性を定量的に予測する方法について考えてみましょう。まず、ファーマコキネティクスに基づく相互作用の中で、CYP阻害に基づく血液中濃度上昇率の予測は非臨床試験である程度予測することが可能となっています。ならびに、まず必要なことは、阻害される薬剤Aの代謝を担うCYPアイソフォームの同定、阻害薬となる薬剤BのターゲットとなるCYPアイソフォームの同定です。その後、関連するCYPにおいて薬剤Bの薬剤Aに対する阻害定数(Ki値)を決定することが必要となります。一方で、薬剤B単独でヒトに投与された後の血液中濃度(I値)を決定いたします。これらの値を使用することによって、薬剤Aの薬剤B併用時の血液中濃度増加率Rは1+I/Kiで算出することが可能となります。以上のようにして、相互作用強度は、非臨床試験、つまりヒトの標品を用いたin vitro試験と臨床第・相試験結果によって予測することが可能となります。この後、例えばR値が2倍と推定されれば、薬剤Aの投与量を通常量の1/2にして薬剤Bとの併用下での臨床試験を行ないます。これによって、相互作用臨床試験における被験者への不利益を最小限に減らすことが可能となります。この試験で、もし薬剤Aの血液中濃度が単独投与時と併用時で変わらなければ、薬剤Bは薬剤Aの血液中濃度を2倍に上昇させる能力があることが明確になったと言えます。実際にこの様な手法で臨床試験が最近行われている例が増えてきております。
 一方、ファーマコダイナミクスに基づく相互作用については、相互作用メカニズムが明確になり、作用の評価系が構築可能となりましたら、非臨床試験、即ちヒトの標品を用いたin vitro試験、或いは動物試験などによって相互作用強度、副作用強度を定量的に決定することが可能となります。例としては、先程お話したニューキノロン系抗菌薬と非ステロイド性消炎鎮痛薬の相互作用について、アフリカツメガエル卵母細胞の遺伝子発現系を用いてGABAAレセプター遮断能、即ちGABAレスポンス阻害能を定量的に測定することが可能となっております。しかし、このファーマコダイナミクスに基づく相互作用について、臨床試験を実施することは倫理的な側面から困難であり、あくまでも非臨床試験からの予測ということになります。
 以上のように、薬物相互作用発生の予測は、可能な場合と、現時点では困難な場合があります。たとえ予測が困難な場合であっても、今後たまたま医療現場で問題となる相互作用症例が見出された時に、そのメカニズム研究が行われ、更に相互作用強度の定量的予測方法が確立されて臨床で有用な情報が構築されることになります。しかし、今後、分子生物学の手法を活用して、個々の薬物の体内動態メカニズムが完全に明らかになれば、医薬品開発段階、特に非臨床試験段階において相互作用発生前予測が可能となり、更に相互作用が事前回避でき、或いは軽減できることになり、より安全な医薬品の創製が現実のものとなると考えられます。


提供 : 株式会社スズケン


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