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<スズケンDIアワー> 平成15年5月29日放送内容より スズケン

重金属の血管毒性に関する細胞生物学的研究


北陸大学 薬学部 教授
鍜冶 利幸

血管内皮細胞の重要性

 動脈はいくつかの細胞種によって形成されていますが、その中で血管内腔を一層で被い血液と接している血管内皮細胞とそれを取り巻く血管平滑筋細胞が特に重要です。この二つの細胞種は相互に機能を調節し、血管病変の防御と進展に関与しています。例えば、内皮細胞が傷害されるとその部位は速やかに修復されますが、傷害が大規模であったり繰り返し起こったりしますとそこに血小板や単球・マクロファージが集積し、それらから放出されるPDGFなどの細胞増殖因子、サイトカインの刺激によって血管平滑筋細胞が中膜から内膜へと遊走・増殖し、動脈硬化病変が進展します。いわゆるRossの傷害反応説を単純化すればこのようにいうことができますが、この例は内皮細胞層が正常に維持され、あるいは傷害されても速やかに修復されれば血管病変を防ぐことができることを示唆しています。そこで、血管内皮細胞層の維持に対するカドミウムと鉛の作用を内皮細胞層の培養系を用いて検討しました。

内皮細胞層維持に対するカドミウムの作用

 ウシ大動脈内皮細胞をconfluentまで培養し、これをカドミウムで処理したところ、予想通り内皮細胞層は強く傷害されました。これはいうまでもなくカドミウムの強い細胞毒性によるものですが、カドミウム投与動物ではそのような劇的な変化は観察されません。すなわち、カドミウムによる内皮傷害を軽減する因子が存在するのです。そこで、そのような因子を検索しましたところ、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)にそのような活性をみいだしました。TGF-βは血小板などの血球だけでなく内皮細胞も発現しているサイトカインですが、これがカドミウム毒性の軽減に寄与していることを確認できたわけです。しかしながら、残念なことにそのメカニズムは現在も不明のままです。
 一方、生理的重金属の中にカドミウムの細胞毒性を軽減するものがあるはずだと考え、これについても検討しました。その結果、必須重金属の中で亜鉛に軽減効果があることが分かりました。銅にも弱いながら軽減効果が認められたのですが、亜鉛の効果は特別強力でした。

(資料1:「Established mechanism for zinc protection against cadmium toxicity」)

 実は亜鉛がカドミウムの毒性を軽減することは古くから知られている現象で、そのメカニズムまでよく知られています。 すなわち、亜鉛は細胞内に入るとメタロチオネインを誘導します。メタロチオネインはシステインリッチな低分子量蛋白で重金属を結合し、その毒性を消去します。亜鉛によって誘導されたメタロチオネインは亜鉛を結合していますが、そこにカドミウムがやってくると速やかにカドミウムを結合し、亜鉛を放出します。これはメタロチオネインに対する親和性が亜鉛よりもカドミウムの方が高いことによるのですが、結果的にカドミウムがメタロチオネインに捕捉され毒性の低い亜鉛がフリーになるので全体として毒性が軽減されるというわけです。ところが、内皮細胞は確かにカドミウムに応答してメタロチオネインを誘導するのですが、亜鉛にはとても低いメタロチオネイン誘導能しか認められませんでした。このことは内皮細胞におけるカドミウムと亜鉛の相互作用にはメタロチオネインが関与していないことを示唆するものでした。

(資料2:「Dilution effect」)

 そこでそのメカニズムについて詳細な検討を行いまして、以下のメカニズムが存在することを突き止めました。すなわち、細胞内にいったん亜鉛が入りますと、これがカドミウムの細胞内への侵入を阻止します。その結果、細胞内ではカドミウムによるメタロチオネイン誘導があまり起こりませんが、細胞内で亜鉛が増加し、カドミウムが減少することによってカドミウムの毒性が軽減されるのです。このようなカドミウムと亜鉛の相互作用は、細胞内でカドミウムが亜鉛によって希釈されているように見えるので、我々はこれを「希釈効果」と呼んでいます。


提供 : 株式会社スズケン


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