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<スズケンDIアワー> 平成15年6月19日放送内容より スズケン

DI実例集(141)
ゲフィチニブのその後


東京医科大学八王子医療センター 薬剤部
奥山 清

間質性肺炎発症の背景

 さて、問題となった間質性肺炎ですが、他の抗癌剤においても多くの報告があり、一部の漢方薬やインターフェロンでも問題になった副作用です。
 肺癌はもともと間質性肺炎の素因を持った病態であり、この副作用も予想されたものでしたが、重篤な転機をたどることが多く、また頻度が高かったために緊急安全性情報が出されたものと思われます。ゲフィチニブの作用点であるEGFRが細胞増殖あるいは細胞修復に関与する受容体であることから、正常肺細胞の繊維化を修復出来なかったために間質性肺炎の悪化を招いたとする機序も指摘されています。
 製造メーカーは事態を深刻に受け止め、ゲフィチニブの急性肺障害・間質性肺炎(ILD)に関する専門家会議を開き、2003年3月26日に最終報告をまとめました。

(資料4「日本、海外における急性肺障害・間質性肺炎発症症例の背景」)

 報告によれば、この時点での間質性肺炎の発症率は1.9%、死亡率0.6%と推定され、海外に比べて6倍と著しく高頻度であります。
 また、予後を悪化させる可能性のある因子として、男性であること、扁平上皮癌であること、特発性肺繊維症などがあること、全身状態の悪いこと、喫煙歴のあること、ゲムシタビンによる前治療を受けていないことなどをあげています。
 専門家会議はこの薬剤の投与における注意点として、肺機能や全身状態の悪いものには慎重に投与すること、特に特発性肺繊維症の既存は予後に重大な影響を及ぼすので投与前に正確に評価し、投与初期の厳重な観察が求められることを指摘しています。
 また、この薬剤による間質性肺炎ではステロイドパルス療法などの積極的な治療が早期に行われれば奏功する可能性があり、初期症状から異常を察知して、動脈血ガス分析、胸部X線、CT撮影などで病変を捉えることが重要であると提言しています。
 一連の報告の中で注意を引くのは、ゲムシタビンで前治療をした例では間質性肺炎の発症例が少ないという点です。ゲムシタビンは間質性肺炎をもつ患者には投与禁忌であることから、危険因子のフィルターとして働いたとも言われています。

ゲフィチニブの今後

 副作用の危険性から考えると、ゲフィチニブは第一次選択薬として使用すべき薬剤ではないと思われます。
 しかし、日本呼吸器学会、日本癌学会等では切除不能で化学療法を経験した非小細胞肺癌にゲフィチニブを投与して、早期に自覚症状の改善をみた症例が相次いで報告されています。延命効果は証明されていませんが、症状および生存が改善されたと考える症例があるのは事実です。ゲフィチニブは既存の化学療法が奏功しない症例に対して、第二、第三の手段として慎重に使用すれば、患者の希望をつなげる有効な治療薬であると言えそうです。
 使用する際には、専門家会議の提言にもあるように、特発性肺繊維症など間質性肺炎の素因を十分に評価したうえで、インフォームドコンセントを確実に取り、使用初期は特に入念に間質性肺炎の発症に注意を払うことが重要で、症状を確認したら積極的な治療を早期に行う必要があります。
 ゲフィチニブの評価については様々な意見があります。これからも次々に新薬が開発されるでしょうが、この薬剤の使用経験は最先端の治療薬について多くの示唆を残したものと思われます。


参考資料
矢田まり子:イレッサ錠250.THPA52(1),61-65,2003
ゲフィチニブ(イレッサ錠250)の急性肺障害・間質性肺炎(ILD)に関する専門家委員会中間報告.アストラゼネカ,2003
同上最終報告


提供 : 株式会社スズケン


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