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<スズケンDIアワー> 平成15年7月3日放送内容より スズケン

乳がん治療薬
カペシタビン


埼玉医科大学 臨床腫瘍科 教授
佐々木 康綱

カペシタビンの位置付け

 現在、転移・再発乳癌症例に対する標準的化学療法は、一次治療がAnthracycline系抗癌薬による併用療法、二次治療がTaxan系抗癌薬とされている。当初、カペシタビンはTaxan系抗癌薬であるPaclitaxelの治療歴を有する症例に対して評価された。米国におけるPivotal Studyでは、163例のPaclitaxel治療歴を有する症例で、しかもこのうち91%はAnthracycline系薬剤の治療歴も有する症例に対して評価された。この研究におけるカペシタビンの奏効率は20%であり、43%がStable Diseaseであった。この成績は乳癌に対する三次治療薬として延命効果に関する情報はないものの、少なくとも本薬がはじめて有意な腫瘍縮小を示した薬剤であることを意味している。カペシタビンは更に、Anthracycline系抗癌薬の前治療を有する症例に対する二次治療として、すでに延命効果が証明されたDocetaxelと併用することで、Docetaxel単剤と比較して腫瘍縮小効果、生存期間の延長において有意な改善を示した。米国では現在、Anthracycline系抗癌薬に対する二次治療としてカペシタビンとDocetaxelの併用療法が標準的治療になりつつある。しかしながら、両者を最初から同時に併用する方法と一剤ずつ順次用いていく方法について、いずれが優れているかは、現在までのところ不明である。
 わが国でも乳癌に対するカペシタビンの治験が行われ、化学療法未治療例も含めた前期第II相試験では、22例中10例、45%の奏効率が示された。さらに、Docetaxel無効症例に対する第II相試験の結果55例中11例、20%の奏効率が示され、米国におけるPivotal Studyの結果の再現性が証明された。
 先に述べたように本薬は、フルツロン®の副作用を軽減し、効果を増強することを目的に開発された薬剤である。しかしながら、フルツロン®が国内でのみ使用され、乳癌に対する標準的治療薬としての有効性を示す臨床的なエビデンスが乏しいのに対して、カペシタビンは、欧米では既に大規模臨床試験による有用性が証明されている。さらにフルツロン®の投与量が必ずしも最大耐量の原則で決定されず、副作用が問題とならない用量で使用されているのに対して、カペシタビンでは、臨床的に注意が必要で、時として入院を必要とする、ビリルビンの上昇、悪心・嘔吐、食欲不振、下痢が報告されている。更に本薬に特異的な手足症候群(Hand-Foot-Syndrome)すなわち手足、爪などの四肢末端部を好発部位とする紅斑、色素沈着を認める。この手足症候群は、時として重篤となり、手足の有痛性の発赤・腫脹、知覚過敏が出現し、また水疱やビランを形成し、歩行障害を来すこともあり注意が必要である。これらの副作用が出現した場合には、適宜休薬減量を行う。また手足症候群が重篤な場合には、皮膚科医に紹介するなど慎重な使用に心がけるとともに、患者に対しては、事前に服用方法、服用上の注意、予測される副作用とその程度、副作用出現時の対処法などを十分に教育しておく必要がある。かつて類似薬であるフルツロン®は乏しい臨床的なエビデンスと軽い副作用のために外科系医師を中心に癌薬物療法の非専門医によって安易に処方される傾向が認められた。しかしながら、これまで述べたようにカペシタビンは、フルツロン®の改良型でありながら、その投与量の設定ははるかに厳しく、一定の副作用が出現することを前提として決められている。その意味で本薬は経口抗癌薬でありながら静注製剤に近い副作用が予想され、がん薬物療法の専門医によって使用されるべき薬剤である。現在のところ本薬は、手術不能または再発乳癌に対してのみ適応が認められ、後に述べる術後補助化学療法薬としての有用性は確定していない。さらに冒頭でも述べたように、転移・再発乳癌症例に対する標準的化学療法の大枠は既に決定されている。そのため具体的に本剤を実地医療で用いる場合には、Anthracycline系およびTaxan系抗がん剤に無効となった症例に対して三次治療薬として用いられることがまず推奨される。今のところ一次治療薬としての本薬の使用は、研究目的での使用に限定されるべきである。


提供 : 株式会社スズケン


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