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<スズケンDIアワー> 平成15年7月10日放送内容より スズケン

大規模災害と医薬品について


浜松医科大学付属病院救急部 講師
吉野 篤人

災害時の医療ニーズ

 会議の後、大阪から現地のドクターカーや救急車とともに西に向かい2チームに分かれ、芦屋市と西宮市に入りました。救出されそうな傷病者が発見されたら、ただちに出動し現場から医療が施せるように消防署に待機いたしました。初日は3回の出動要請がありました。しかし、いずれも情報の混乱によるもので実際にはその現場に治療を要する救助者はいらっしゃいませんでした。それではということでチームの一部が現地の病院に向かいました。しかし、病院も震災初日は大量の患者さんが押し寄せたということでしたが、3日目となり新たな災害関連の傷病者の搬入は少なくなっておりました。また、ライフラインの途絶もあって手術などは行っていないため、特に外科系医師の応援の必要はないとのことでした。
 西宮や芦屋市は激震災害地域の中では東の端に位置していたため、高度な医療が必要な方も多くの方は大阪方面に転送されていました。結局、我々が主として考えていた救出現場での重傷外傷患者さんの初期治療と病院への搬送、現地病院での応援、現地病院からの転送の需要はほとんどありませんでした。そこで1つのグループは避難所に向かいました。当時、芦屋市では人口の約1/4にあたる2万人の市民の方が避難所で生活されていました。避難されている方のなかには、重傷ではないものの医療を必要とされている方がいらっしゃいました。震災当日に縫合などの処置を病院で受けたものの、その後受診していない方、高血圧などの慢性疾患であるが通院中の診療所が閉鎖されていて薬がきれてしまったという方、どうも風邪をひいたようだが近くの医院は崩壊したし大混雑している病院には行けないという方、このような方々がいらっしゃったわけですが、我々が持参していた外傷対応急診の医療資機材はほとんど役に立ちませんでした。

外傷患者の医療需要予測と疾病患者への対応

 そこで、その日大阪に戻り新たに医薬品の調達が行われました。準備されたものは総合感冒薬、整腸剤、下剤、降圧剤、鎮痛消炎剤、湿布剤、消毒薬などでした。一般の夜間休日一時診療所でよく使われる薬剤と変わりありませんでした。このような医薬品を揃えて、2日目、3日目は避難所の巡回診療に専念いたしました。しかし、通信が途絶しておりましたので、あらかじめ巡回診療の案内が出せるわけではありませんでした。大きな体育館の入り口から、「どこか具合の悪い方はいらっしゃいませんか」と大声で叫び、手が挙がった方へ被災者の方々の間をすり抜けて近寄り診療にあたりました。
 学校のような建物が待避所のときには、到着すると各階、各教室をまわって傷病者をさがして治療にあたりました。2日目にまわったのは9ヶ所の避難所です。そこに避難していた避難者の方は6880人、そのうち158人の方の診療を行いました。3日目には7ヶ所の避難所をまわりましたが、そこに避難していた人は4130人、そのうち141人の方の診療にあたりました。3日間で376人の方の診療を行いました。受信者の男女比は約1:2で、女性の方が多くなりました。これは男性の方は災害復旧に従事していたこともありましたが、すでに避難所から大阪方面に通勤している方も多かったと聞いております。
 はじめの医療需要予想で、我々は被災現場での外傷治療に重きをおいておりましたが、震災3日目に必要とされていたのは避難所などにおける巡回診療でした。当時、テレビなどの報道はややヒステリックに外傷患者さんが治療を受けられないでいる、まだまだ救出されないでいる人が多数いるなどの報道を繰り返していたように記憶しています。私自身は災害医療の経験がなかったのですが、海外の災害での医療援助の経験が豊富な先生が、チームのなかには多数おりました。
 地震災害において急性期医療は最初の3日間、特に最初の2日間であるという知識は、当然常識として持っていたにもかかわらずテレビ報道などに影響されてしまったかと思います。また、大震災という状況下であっても慢性疾患の方の治療継続は必要であり、外傷だけでなく新たな内因性疾患も発症することを認識いたしました。災害時に備えて医薬品の備蓄を計画される場合には、このような点にもご留意いただければと思います。


提供 : 株式会社スズケン


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