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<スズケンDIアワー> 平成15年7月17日放送内容より スズケン

第51回日本化学療法学会総会より
感染症治療のための抗菌薬療法のサイエンス


慶應義塾大学 薬剤部 教授
谷川原 祐介

適正な抗菌薬療法とは

 第51回日本化学療法学会総会は、平成15年5月29・30日に横浜で開催されました。大会長は、北里大学医学部 微生物・寄生虫学教室の井上松久教授。テーマは、化学療法新時代―創薬から操薬へ―、と言うのが本大会のテーマでした。
 その中で、「感染症治療のための抗菌薬療法のサイエンス」というシンポジウムが企画されましたので、本日はそれについてご紹介します。
 適正な抗菌薬療法とは、感染症に対する効果があり、副作用が少ないのは言うまでもなく、加えて耐性菌が出現しにくい投与法を行なうことと言えます。抗菌薬療法にはサイエンスが必要であり、これらの理論的背景となる枠組みは、薬物動態(Pharmacokinetics)と薬力学(Pharmacodynamics)、いわゆるPK/PDであります。本シンポジウムでは、抗菌薬療法におけるPK/PDを中心に取り上げ、抗菌薬の適正使用、耐性菌問題の克服、科学的データに基づく抗菌薬開発について、5人の演者による最新の話題紹介と討論が行われました。

抗菌薬のPK/PDとTDMの意義

 最初の演者は、私、慶應義塾大学薬剤部の谷川原ですが、タイトルは「抗菌薬のPK/PDとTDMの意義」です。
 抗菌薬の治療効果は、一般に感染部位あるいはそれと平衡にある血液等の薬物濃度と、MIC等で示される細菌の薬剤感受性によって決定されます。そして、薬物の投与量・投与法と生体内薬物濃度―時間推移の関係を表すのが薬物動態(PK)であり、薬物濃度曝露と薬効強度の関係を表すのが薬力学(PD)です。PK/PDの関係は、薬物血中濃度モニタリング(TDM)の科学的基盤ともなります。
 抗菌薬のPK/PDは、有効かつ安全な感染症治療を行うために重要ですが、もう一つの観点として、耐性菌が選択されにくい投与法を探るためにも活用できます。従来、抗菌薬の効果を得るためには、薬物濃度をminimum inhibitory concentration(MIC)以上に保つことが重要とされてきました。しかしながら、最近の研究によりますと、MICより少し濃度が高い領域はmutant selection windowと呼ばれ、感受性菌は除菌できても、耐性菌だけを残してしまう、いわば耐性菌だけを選択してしまう濃度域とされています。耐性菌の選択を防ぐためには、MICよりもさらに高い、耐性菌も残らず除菌できる濃度、すなわちmutant prevention concentration (MPC)を考慮することが必要とされています。

(スライド)

 また、医薬品開発において、臨床試験を効率よく実施するためのclinical trial simulationも最近のトピックスです。抗菌薬領域では、有効性と相関する薬物動態パラメータがほぼ明らかにされていますので、PK/PDから臨床での期待有効率を推定することができます。これは、モンテカルロ・シミュレーションと呼ばれています。名前の由来は、乱数を使うことから来ていますが、患者集団におけるpopulation pharmacokineticパラメータから、乱数を使って、例えば一万人分の血中濃度パターンを発生させ、併せてMICの分布についても一万人分発生させることにより、例えばニューキノロン薬のAUC/MICのように臨床効果と相関するPK/PD指標について一万人の分布を得ることができます。臨床的に有効とされるAUC/MIC>30を示す人が全体の85%を占めるならば、期待有効率は約85%と推定できます。この方法を用いて、最も高い有効率が期待できる投与量・投与方法を臨床試験実施前に推定し、臨床試験を効率的に進めるアプローチが欧米を中心に研究されています。
 このように、抗菌薬のPK/PDに関する知見が集積されれば、有効性の向上、副作用の回避、耐性菌選択の防止、用法用量の合理的決定、TDMを利用した個別化治療の実現へと応用でき、抗菌化学療法の科学性を高めることができます。


提供 : 株式会社スズケン


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