→ 番組表はこちら
→ ストリーミング版はこちら
<スズケンDIアワー> 平成15年12月25日放送内容より スズケン

ケトライド系経口抗菌剤
テリスロマイシン


北里大学 微生物・寄生虫学 教授
井上 松久

テリスロマイシンの作用機序

 テリスロマイシンは、ケトライド系抗菌薬に分類されますが、そもそもこのケトライド系と言う名称は、1950年代に天然から発見されたpikromycinやnarbomycinの化学構造上の特徴から命名されました。pikromycinは、マクロライド系薬の代表であるエリスロマイシン(EM)の主要構成成分であるクラディノースと呼ばれる糖鎖の代わりに8位にケトン基があることからケトライドと呼ばれました。この薬剤は、グラム陽性菌に強い抗菌力を示しましたが、残念ながら製品化されませんでした。
 それから50年、ついにEMから半化学合成によってケトライド系抗菌薬、テリスロマイシンが世界で初めて感染症の治療薬として創薬され、市販されることになりました。本薬は、EMのクラディノースと呼ばれる糖鎖の代わりに8位にケトン基、ラクトン環の1位にアミノブチリダゾール基をそれぞれ導入した点に特徴があります。この化学構造の特徴を反映して、テリスロマイシンは現在市販されているマクロライド系薬とは異なった蛋白合成阻害作用や殺菌作用を発揮し、クラリスロマイシン(CAM)やアジスロマイシン(AZM)耐性菌に対しても強い抗菌活性を示すことが明らかとなりました。

(資料1:「ケトライドトマクロライドとの相違点」)

 細菌の蛋白合成の工場とも言える70Sリボソームは、30Sと50Sから構成されており、50Sは23S rRNAと小さな5S rRNA、および34個の蛋白質から構成されています。CAMやAZNなどのマクロライド系薬は、一般にこの23S rRNAの構造上重要な領域である領域Vのアデニンに結合し、蛋白合成を阻害します。一方、ブドウ球菌や肺炎球菌から検出されるマクロライド耐性菌は、ermあるいはmefAと呼ばれるそれぞれの遺伝子産物を産出することで高度耐性または中等度耐性を示します。
 まずermと呼ばれる耐性遺伝子を保有する菌株の場合、細菌がsubMIC濃度のCAMやAZMと接触することで薬剤の標的となる23S rRNAのアデニンをメチル化する酵素、アデニン・ジメチラーゼによって23S rRNAの領域Vのアデニンを次々とメチル化します。するとメチル化された23S rRNAに対しては最早CAMやAZMは結合できなくなり、耐性を獲得する訳です。細菌がsubMIC濃度の薬剤に接触することによって高度耐性化し、薬剤がなくなると元に戻る現象を耐性誘導と呼びます。本来グラム陽性菌におけるマクロライド耐性の形質発現の多くが、この耐性誘導によるものです。しかし、肺炎球菌を除く菌種、特にMRSAやMRSEあるいは腸球菌のマクロライド耐性菌の多くは、耐性誘導しなくても常に全てのマクロライド系薬に対して耐性を示す菌株が多数検出されています。かかる耐性菌は、マクロライドの誘導型耐性に対して、構成型耐性菌と呼ばれています。

(資料2:「S.pneumoniae(ESSP,156株,ERSP,335株)」)

 このような状況の中でテリスロマイシンが市販されたわけですが、本剤の細菌学的な特徴について次に紹介します。
 テリスロマイシンはCAMなどと同様に23S rRNAの領域Vに結合するだけでなく、その構造上の特性を反映してさらに23S rRNAの領域IIのアデニン残基に対しても強く結合します。
 その結果、テリスロマイシンはCAMやAZMに対して抗菌力が強く、しかも23S rRNAアデニン・ジメチラーゼ合成を阻害するため誘導型のCAM・AZM耐性菌に対して強い抗菌力を発揮します。言い換えると、テリスロマイシンは従来のマクロライド系薬にない本剤独特のリボソームに対する結合力があるが故にマクロライド耐性を誘導しないため、マクロライド耐性菌に対して強い抗菌力と殺菌力を発揮するわけです。


提供 : 株式会社スズケン


前項へ 1 2 3 次項へ