→ 番組表はこちら
→ ストリーミング版はこちら
<スズケンDIアワー> 平成16年3月4日放送内容より スズケン

DI実例集(144)
リチウム中毒の対処法と迅速な血中濃度測定法


北里大学東病院薬剤部
椎 崇

icon「リチウムの中毒症状」

 リチウムの主な中毒症状としては下記のようなものがあります。
 中枢神経系症状として、意識障害、運動過多、筋力低下、小脳症状、発語障害、嚥下障害、知覚障害、ミオクローヌス、循環器系症状として血圧低下、不整脈、心電図異常(T波陰転化)、消化器系症状として嘔気、嘔吐、下痢、泌尿器系症状として乏尿、腎性尿崩症、遠位尿細管アシドーシス、その他に甲状腺機能低下、成人呼吸促迫症候群などが挙げられます。中毒学的薬理作用はまだ完全に解明されていませんが、脳内アミンに対して、シナプス後膜に作用するカテコールアミン量を減少させ、また、電解質としてナトリウムと同様の作用を示し、ポンプ機構により排泄される速度はナトリウムよりも遅いため、後シナプス障害により、シナプス伝達に抑制的に働くためだと考えられています。

icon「中毒時処置法のポイントと治療」

 中毒時処置法のポイントとしては

  1. リチウムは活性炭に吸着しない。
  2. 急性大量服用では、服用後数時間たってから症状が現れる。
  3. 治療目的での服薬継続中に中毒症状が発現した場合は、重症で治療しにくい。
  4. リチウムは治療域と中毒域が近く、薬の性質上長期間服用していることが多いことから副作用として中毒症状がでたときには、すでに大量のリチウムが細胞内に分布している。
  5. 血清リチウム値が低値に戻っても、脳と血清のリチウム濃度が平衡に達するまでに時間がかかるため症状の改善には時間がかかる。

などが挙げられます。

 治療としては

  1. 服用後まもなくであれば催吐、胃洗浄を行う。
  2. 一般的支持療法を行う。意識障害があれば気道を確保し、必要なら換気を補助し、酸素を投与する。
  3. 血液からの除去には血液透析がよい。活性炭に吸着しないため血液漑流は効果がないが、ハロペリドールなどの相互作用がある薬物と一緒に服用した場合は活性炭を投与する。
  4. 強制利尿を行っても排泄はほとんど増えず、推奨できないが、腎機能が正常ならば脱水を補正し、利尿は保つ。
  5. ドパミンは腎クリアランスを増加させるため、低血圧があればドパミンを使用する。

などがあります。

icon「リチウムの急性中毒例」

 急性中毒例として挙げますと

(資料3:「急性中毒例」)

 一瀬らは、1979年に56歳の男性が10gの炭酸リチウムを自殺の目的で一度に服用し、人工透析治療などを行ったが、約1週間の意識障害と重症リチウム中毒の症状を呈した。腎機能と服用後の処置によっては中毒症状が長期にわたる可能性もある、といった報告をしております。

(資料4「58歳女性の中毒例」)

 Horowitzらは、1969年に58歳の女性が自殺の目的で22.5gの炭酸リチウムと1.25gのthioridazineを服用した。服用1時間後には嘔吐と激しい下痢が起こり、数時間で消失した。2時間後の血清リチウム濃度は8.20mEq/Lと上昇していたが、神経学的所見は何ら認められなかった。5時間後、24時間後の血液・血清臨床検査では全く異常はみられなかったが、心電図検査においてQT時間の延長がみられた。24時間後の血清リチウム濃度は3.36mEq/Lに、48時間後には1.66mEq/Lと低下していた。以後、重症リチウム中毒の症状をきたすことなく経過した、といった報告をしています。
 また、慢性中毒例としては、Speirsらは、1978年に26歳の男性が血清リチウム濃度0.8mEq/Lのときに、重症リチウム中毒症状をきたした、といった報告をしています。
 中毒が治療上いつ起こりやすいかですが、Hansenらは、1978年に文献上100例の中毒症状の原因を検討した結果、10%の中毒患者は急速な大量投与、40%は維持療法中に何らかの理由で増量したことを契機に発症し、残り50%の患者は維持療法中であった、といった報告をしていることからも、リチウム中毒は大量服薬にのみ注意するのではなく、維持療法中の定期的な血中濃度モニタリングが重要なことがわかります。また、一般的なリチウム血中濃度治療域0.6〜1.2mEq/L範囲内でも中毒症状をきたしている患者がいることから、医療従事者が常に副作用発現に注意するだけでなく、患者にも重大な副作用の初期症状を伝えるなどして注意してもらわなければなりません。
 最後に特記事項として、細胞から細胞外液へのリチウムの移動はゆっくりなことから、むやみに血液透析をしても意味がありません。確かに、血液透析をすると血清リチウム値は一時的には下がりますが、細胞内のリチウム濃度が高い場合は、細胞からの移動がその後も続くので血清リチウム濃度は再び上昇し、6〜12時間後に最高値に達します。したがって2〜4時間おきに血清中濃度を測定し、6〜8時間後の値が1mEq/L以上なら再度血液透析を行います。


提供 : 株式会社スズケン


前項へ 1 2 3 次項へ