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<スズケンDIアワー> 平成16年5月20日放送内容より スズケン

チアマゾールによる無顆粒球症


日本医科大学 名誉教授
野村 武夫

iconチアマゾールによる無顆粒球症の発症機序

 ここで、チアマゾールによる無顆粒球症の発症機序について考えてみることにいたします。

(資料3:「無顆粒球症の発症機序」)

 医薬品による無顆粒球症にはさまざまな発症機序が提唱されています。好中球は絶えず骨髄で造られ血液に補給され、そして必要に応じて血液の中から組織へ出て機能を発揮するというキネティクスの特徴を念頭に置いてまとめてみますと、無顆粒球症は骨髄からの好中球の供給不足か、その血液内滞在時間の短縮のどちらか、またはその組み合わせによって起きるということになります。
 供給不足の代表的な例は腫瘍用薬による骨髄抑制です。この場合は生成抑制が赤血球と血小板の系統にも及ぶのが普通で、末梢血では網赤血球と血小板の減少を伴い、無顆粒球症の形はとらないはずです。事実、無顆粒球症の骨髄は赤芽球と巨核球の両系統には異常が目立ちません。ところが、チアマゾールによる無顆粒球症には投与量依存性があるという報告があり、蛋白合成や細胞分裂に何らかの影響を及ぼし、好中球の生成を妨げている可能性も否定できません。
 次に顆粒球の血液内滞在時間短縮ですが、無顆粒球症の発症に免疫機序が関与する医薬品としてはアミノピリンやペニシリンがよく知られており、抗甲状腺剤についても、ハプテン型あるいは抗原抗体複合体形成型など、さまざまな抗体が検出されることがあり、これが好中球の崩壊をもたらし無顆粒球症が発症すると考えられます。骨髄中にある好中球の前駆細胞や母細胞にも成熟好中球と共通の抗原性があるとすれば、同じ抗体によって障害を被るわけで、事実、無顆粒球症の骨髄ではこれらの顆粒球系幼若細胞の減少を認めることがあります。無顆粒球症が起きるのはチアマゾールの投与を開始して1〜2か月経過してからが普通ですが、以前の使用歴があると早めに発病することがあり、これも、発症に免疫機序の関与があることを示唆しています。

icon無顆粒球症の診断と被疑薬の休薬

 以上のように、抗甲状腺剤による無顆粒球症の発症には複雑な機序が関与しているようで、個々の症例について結論を出すための検査法は未だ確立しておりません。
 無顆粒球症では悪寒を伴う高熱と咽頭痛の訴えがあり、口腔粘膜に黄白色の偽膜で被われた壊疽性潰瘍を認めます。これは、好中球の著しい減少に基づく抵抗減弱の結果起きた感染症のためです。さらに病歴を詳細に聴取すると、発症の2〜3日前からすでに倦怠感や衰弱感があったのがわかります。そこで無顆粒球症を疑い、早速、白血球の数と分画を調べます。そして無顆粒球症の診断が確定しますと、次は原因の追及で、なかでも重要な情報は医薬品の使用状況です。問診の結果、現在使用中あるいは、1〜2週間位前まで使われていた医薬品のなかに教科書で無顆粒球症の原因薬品としてリストアップされているものが含まれていれば、それを被疑薬といたします。残念ながら、原因医薬品を同定するための確実な検査法は未だ開発されていないのが現状で、過去の報告や医薬品の添付文書の副作用欄に頼るほかはありません。
 無顆粒球症に陥ってすぐに重症の感染症を発症するわけではなく、それまでには幾日か経過しているはずです。本年(2004年)2月の「医薬品・医療用具等安全性情報」の「重要な副作用等に関する情報」の欄にチアマゾールが取り上げてあり、〈使用上の注意〉の[重要な基本的事項]の項に“少なくとも投与開始後2か月間は原則として2週に1回、それ以降も定期的に白血球分画を含めた血液検査を実施し”と付け加えられました。従来の“定期的に”という記述を“2週に1回”と改め、さらに白血球の数だけではなく分画も調べるように規定したのが要点です。無顆粒球症に陥ってから感染症を併発するまでの期間を考えると、2週に1回検査を繰り返していれば、致命的な感染症の併発を未然に防止できるということでしょう。
 こうして、無顆粒球症の診断がつけば、直ちに被疑薬の投与を中止します。因果関係を確定する方法がなく、どこまでを被疑薬とするかが問題ですが、チアマゾールのように無顆粒球症の原因医薬品として教科書的なものはもちろん、そうでなくてもすべて休薬するのが望ましく、さらに、再発防止のため、今後、その使用は控えるよう、よく説明をしておかなくてはなりません。

(資料5:「無顆粒球症の回復過程」)

 投与を中止した医薬品が無顆粒球症の原因であれば、休薬後速やかに好中球数は回復に転じます。医薬品の代謝の特徴にも左右されますが、骨髄を調べますと、診断時には顆粒球系の細胞が殆ど認められなかったのが、休薬後数日でまず骨髄芽球と前骨髄球が出現し、次いで骨髄球、後骨髄球、そして成熟好中球へと、順次成熟していく様子がわかります。それに伴い、末梢血の好中球数が回復して行きます。


提供 : 株式会社スズケン


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