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<スズケンDIアワー> 平成16年7月8日放送内容より スズケン

第52回日本化学療法学会総会


琉球大学大学院感染病態制御学 教授
齋藤 厚

icon感染症治療開発促進への課題と提言

 もうひとつの主題は、現在のわが国の感染症治療薬、いわゆる抗生物質の開発の遅延という大きな問題であります。すなわち抗菌薬開発のための治験が、近年のわが国では進まないという問題です。日本で開発されましたペニシリン系抗生物質やセフェム系抗生物質は1990年前半まではまさに、世界を席巻する勢いでありました。キノロン系薬にしてもこの薬剤が世に出るところから1993年ごろまでは、わが国で創薬された製剤が、質量ともに圧倒的な優位を誇り、日本は抗生物質開発の一番手でありました。然るに、近年ペニシリン耐性肺炎球菌やβラクタマーゼ非産生ペニシリン耐性インフルエンザ菌などの、いろいろな耐性菌に対して、世界の動向が例えばニューキノロン系抗菌薬では呼吸器系キノロンといわれるような耐性肺炎球菌に抗菌活性を強く改良した、いわゆるrespiratory quinoloneの開発へと進んで行く中で、わが国で開発された薬剤が日本では治験もされなかったり、日本よりも早く欧米で発売されたり、日本では許可されていない静注薬までもが、感染症治療に現在はもう主要な薬剤として、しかも先進国のみならず、発展途上国でも盛んに使われている現状になっています。同じ薬剤でも、その用法とか用量に大きな違いがみられ、先ほど述べましたPK/PDからみても、海外の使用法〜用法・用量が優れていると思われる現状をみると、薬を創ったのはわが国でありながら、日本国民はその恩恵に浴していない現状に愕然とするわけであります。
 どうしてこうなってしまったのでしょうか? 誰が悪いというわけではないでしょうが、ずいぶん以前から、外国から言われていたことがあります。すなわち、わが国で行われる治験は症例数が少ない、投与方法が単純である。例えば子供やお年寄りなどの、あるいはいろいろの感染症に対して、充分な検討がされていない、投与期間が短くて、その薬の観察期間も短いなどと悪い評価をもらっていました。そこで1991年、ベルギーのブリュッセルで第一回の日米欧の医薬品規制調和国際会議、international conference on harmonization(ICH)という国際的に、お互いに通用する医薬品の開発を行おうではないかという会議が開かれました。2年ごとに各国で開催されて、1995年は横浜で開かれましたが、1997年再びブリュッセルでの会合の後に、医薬品の新しい評価基準(新GCP)というものが制定されたわけです。わが国にとっては、かなり厳しい内容でしたので、この新GCPに合致する治験はなかなか進みませんでした。

(資料9:「わが国の医薬品治験の現状」)

 1993年の時点では新しい医薬品の35.7%は国内で治験が行われておりました。外国ではわずか18.3%でした。これが7年後の2000年の時点では、わが国で創られた製剤の43.2%が、外国で治験が行われるようになって、国内ではわずか20.4%へ減少してしまいました。国内での治験中の薬剤を米国に持っていって、治験を開始しますと日本よりもアメリカでの治験が早く終了してしまうということが、頻繁に見られるようになりました。

(資料10:「抗菌薬開発 学会・行政・製薬企業との連携」)

 このような由々しき現状に対しまして、所管官庁である厚労省の岸田課長に「わが国における新薬承認審査機構の役割」と題しまして、21世紀の医薬品開発に関する厚労省の並々ならぬ決意を話していただきました。また「日本抗生物質学術協議会」の常務理事の八木澤氏には教育講演として「抗菌薬開発の現状と展望」と題しまして、日本とアメリカの抗菌薬開発治験の相違を詳しく話していただきました。さらに、私までもがこの問題を取り上げました。「わが国の抗菌薬開発の現況と将来展望〜臨床医の立場から〜」と題して、会長講演をさせていただきました。新しい抗菌薬をどうすれば正しく、迅速に評価することができるかを考えて、わが国独自と思われる無駄な作業を中止することを提唱しました。すなわち、用量比較試験と呼ばれる後期第II相試験の中止や、抗菌薬の比内反応の中止など、いくつかの提言をいたしました。

(資料13:「今後の課題と提言」)

 人口から見ても当然アメリカよりはるかに少ない治験対象者に対する治験では、日本ではいかにその質を上げるか、言い換えればいかに迅速でかつ適正な評価法で治験を進めるか、化学療法学会、厚生労働省、そして医薬品を創製する製薬企業。この3者の密接な連携が不可欠であります。3者が一体となって今後、開発作業を展開しなければ、わが国の医薬品開発の未来はないといっても過言ではないと思われます。


提供 : 株式会社スズケン



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