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<スズケンDIアワー> 平成16年8月26日放送内容より スズケン

抗癌剤併用療法の適応拡大


国立がんセンター中央病院通院治療センター医長
藤原 康弘

icon癌診療における適応外使用の現状

 日常の癌診療の中で、私自身も多くの適応外使用を行っています。いや、行わずしては世界標準の治療を実践できないというのが現実です。私の勤務先は、がん専門病院であり、抗癌剤がある程度効く、すなわちがん化学療法を行うことによって患者が恩恵を得られる、稀な癌種を罹患した患者さんを診療する機会が結構あります。そのような癌種の治療に際して、保険診療に関する病院のかなめである医事課との調整に最も苦慮するのが、その癌種に対して世界的に認められた標準的治療法の中で用いられる抗癌剤の日本の添付文書の効能・効果欄に当該癌種名の記載がなかったり、用法・用量欄に使用したい投与方法が記載されていない場合です。
 しかしながら、稀な癌種について、製薬企業が新たに治験を実施して、厚生労働省から承認を取得し、添付文書を書き換え、我々が晴れて保険診療下でこれらの癌種に世界標準の抗がん剤を使用できるようになる可能性は非常に低いのが現実です。なぜなら、使用対象患者数が少ないため、多額の予算とヒト、そして手間を必要とする治験並びに承認を企業が新たに行う経済的なインセンティブが働かず、結局新たな承認へと企業が動かないことが一般的だからです。このような適応外使用の実態は、なにも抗癌剤に限ったものではなく、臓器移植領域や小児領域など様々な疾患領域で問題となっていると思います。

icon行政からの取り組みと承認の促進

 このような背景がある中、行政も、ここ数年来、重い腰をあげ、3つの施策を講じて世界的な標準治療を構成する薬剤についての薬事法上の承認を促進しようとしています。

(資料1:「適応外使用に係る医療用医薬品の取り扱いについて」)

 まず、最初になされた施策は、平成11年2月、当時の厚生省健康政策局研究開発振興課長と医薬安全局審査管理課長の連名で発出された「適応外使用に係る医療用薬品の取扱について」という課長通知、いわゆる“2課長通知”の発出です。
 この通知の発出により、新たに治験を実施することなく、薬事法上の適応を取得できる道が企業に開かれたのです。通知では、適応外使用が「医学・薬学上公知」であることを示すことができる場合には、新たに治験を実施することなく承認申請ができる旨が述べられています。たとえば適応外使用に関して、学会等から要望のあったもののうち、その使用が文献的なエビデンスに基づき医学・薬学上公知と言えるものについては、適応外使用に関する効能・効果、用法・用量を既存承認内容に追加するための一部変更承認申請を関係する企業に、厚生労働省が促すこととなっています。
 医学・薬学上の公知の判断は、外国で既に当該効能・効果や用法・用量に関する承認があり、日常診療での相当の使用実績があって、なおかつ外国の審査当局に対する承認申請資料が入手できる場合や、国際的に信頼できる学術雑誌に掲載された、使用根拠を与える臨床試験結果の論文、あるいは総説がある場合、さらには日本において公的な研究事業の委託研究等により実施され、且、その倫理性、科学性、信頼性などが確認しうる臨床試験成績が存在することなどが評価基準として挙げられています。
 この通知に基づき、既に20品目以上の医薬品の適応が承認を受けており、代表的なものではアスピリンの血栓症の二次予防に関する適応があります。癌領域でみてみると、小細胞肺癌に対するシスプラスチンや尿路上皮癌に対するMVAC療法、胚細胞腫瘍に対するBEP療法などが挙げられます。
 二つ目の施策は、「医師主導型治験」の制度の導入です。平成14年7月に公布された改正薬事法の第80条の2には「自ら治験を実施しようとする者による治験」が規定されました。これまで、治験は企業が医療機関に依頼して実施する形態のみが法的には規定されていましたが、医師主導型治験の制度の導入により、医師や医療機関が未承認の薬剤を含む医薬品の提供を企業から受け、適応拡大の申請にもその試験結果が利用できるような治験を医師、医療機関自らが行えることになったのです。これまで、医師が製薬企業とは独立して行う臨床試験については、「臨床試験の実施に関する基準」、GCPとも言いますが、これに準拠することが求められておりませんでした。従って、せっかく医師が臨床試験を実施しても、企業がその成績をそのまま利用して、適応拡大の承認申請に臨むことはできませんでした。今後は、適応外使用に問題意識を感ずる医師が、自らその問題を解決すべく治験を実施し、企業に対して、その成績を基に申請を促す時代が来ると思われます。
 現在、日本医師会治験促進センターが事務局を勤めます「大規模治験ネットワーク」が、癌、循環器、小児の3領域について設けられており、この医師主導型治験を進める体制の整備が進みつつあります。癌については、小生が治験調整医師となり、再発、あるいは治療抵抗性のc-kitあるいは PDGFR陽性肉腫に対するイマチニブの第II相試験が本年11月には開始できる見込みです。この試験が良い成績を収めれば、現在、慢性骨髄白血病とGISTにしか適応を持たないイマチニブの前述の肉腫に対する効能追加の承認申請を企業に求め、最初に述べた稀な癌種の適応拡大に医師自らが貢献できる道を開けるものと私は思っております。


提供 : 株式会社スズケン

      

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