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<スズケンDIアワー> 平成17年1月13日放送内容より スズケン

急性前骨髄球性白血病治療薬−三酸化ヒ素(アルセニック・トリオキサイド)


浜松医科大学 第三内科助教授
大西 一功

icon 亜砒酸の薬剤としての歴史

 亜砒酸製剤が、04年10月に白血病治療薬として厚労省より承認されました。これは、三酸化ヒ素(亜砒酸)の0.1%溶液で、適用は再発又は難治性の急性前骨髄球性白血病です。
 砒素は硫黄化合物として赤い鶏冠石、黄色い石黄という名の鉱物として存在します。その酸化物の亜砒酸は自然界にも微量存在し、1日約300μgが経口的に摂取されています。砒素は原子量75の元素で、それ自体にはほとんど毒性はありませんが、その化合物特に3価のものには強い毒性があります。亜砒酸は毒物として古くから使用してきましたが、環境汚染などの数多くの中毒の原因にもなってきました。毒物としてはナポレオン毒殺説の毒薬として有名ですし、最近では和歌山のカレー事件が記憶に新しいところです。
 一方、薬としては砒素は2400年以前から薬としても使用されており、ヒポクラテスが皮膚病に使用したと伝えられています。18世紀に1%亜砒酸を主成分としたFowler's solutionが作製され喘息、皮膚疾患等の治療薬として使用されてきました。その後Fowler's solutionの使用患者の白血球減少をヒントにして慢性骨髄性白血病患者に亜砒酸が使用され、シャーロックホームズの作者コナン・ドイルが1889年にLancetに症例報告をしています。1910年にはEhrlichが梅毒とトリパノゾーム症の治療薬として有機砒素製剤であるsalvarsanを開発し、現在でもトリパノゾーム症に使用されています。また、亜砒酸は歴史的には抗癌剤や放射線療法が開発されるまでは主要な白血病治療薬でした。日本でも古い血液学の教科書には亜砒酸を白血病の治療に用いるという記載があったようです。
 日本薬局法にも古くから収載されており、現在でも歯髄不活剤として販売されています。一方、中国ではいくつかの伝統的な漢方薬が古くから白血病の治療薬として用いられてきました。その中で1960年代にハルピンや大連の医師が、砒素を含む漢方薬が急性前骨髄性白血病(APL)に対して著効を示すことに気づきました。

(資料3:「APLの分子機構とATRAの作用機序」)

 急性前骨髄球性白血病は急性骨髄性白血病の一病型で、他の急性骨髄性白血病に比べ生物学的にも臨床的にも特異な性格を有しています。これは急性前骨髄球性白血病の成因が15番と17番の染色体相互転座により、転写因子のPMLとレチノイン酸レセプターαによるPML-RARαというキメラ遺伝子、キメラ蛋白が生成される事によると考えられています。
 以前よりレチノイン酸は細胞に分化を誘導する生理物質として知られていましたが、これも中国の上海でall-trans retinoic acidの薬理量が臨床的にも急性前骨髄性白血病に有効であることが見いだされ、臨床応用されました。
 現在、急性前骨髄球性白血病の治療としては、この中国で始められたall-trans retinoic acidによる分化誘導療法を行い、その後化学療法により強化療法を行う方法がfirst lineの治療として確立しています。しかし、その後の再発例に対してはレチノイン酸は20%以下の有効性しかなく治療に難渋することもしばしばです。そこで亜砒酸の登場となったわけです。


提供 : 株式会社スズケン

      

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