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<スズケンDIアワー> 平成17年6月9日放送内容より スズケン

深在性真菌症治療薬―ボリコナゾール


川崎医科大学呼吸器内科 講師
二木 芳人

icon ボリコナゾールの臨床試験成績

 そこで、この度ファイザー製薬から発売が予定されているボリコナゾールに高い関心と期待が寄せられているのです。ボリコナゾールは米国ファイザー社が創薬し、開発した新トリアゾール系抗真菌薬であり、注射剤型と経口剤型があり、我が国でも両剤型が同時に発売される予定です。

  (資料2:「ボリコナゾールの構造式」)

 本薬は他のトリアゾール系抗真菌薬同様真菌の細胞膜のエルゴステロール合成を阻害することで作用活性を示しますが、その阻害効果は他のトリアゾール系薬の数倍から百数十倍高いとされ、カンジダ属ではアゾール耐性のカンジダ属も含めて強いin vitro活性を示し、アスペルギルス症でのそれもアンホリテリシンBの数倍高い成績が報告されています。無論、クリプトコッカスに対するin vitro活性も良好で、いずれも殺真菌的であります。

(資料3:「ボリコナゾールの血中濃度」)

 既に述べた様にボリコナゾールには静注薬と経口薬がありますが、静注はもとより、経口薬でも高い吸収性を示し、静注の場合と同様の高い血中濃度が得られ、静注から経口への切り替え、いわゆるスウィッチ療法が可能です。安全性面でも危惧される重篤なものは現在まで報告されておらず、欧米では既に幅広く臨床使用が開始されています。
 さて、欧米でのボリコナゾールの評価ですが、アスペルギルス症を中心に多くの深在性真菌症に対する標準的な治療薬のひとつと考えられています。欧米では近年特にEBM(Evidence-based Medicine)の考え方が一般的で、その評価には質の高い臨床的証拠、すなわちevidenceが求められますが、ボリコナゾールでは幾つかの比較試験も行われており、そこでの成績が高く評価されていると言っても良いでしょう。

(資料4:「侵襲性アスペルギルス症に対する比較試験」)

 その中で最も有名なものは、 2002年にNew England J. Med.に報告された、侵襲性アスペルギルス症に対する本剤とアムホテリシンBとの比較試験成績で、おそらく皆さんも既にご存知かと思いますが、有効率、死亡率、安全性そして治療継続率など、全てでボリコナゾールはアムホテリシンBに有意に優る成績が示されています。

(資料5:「ボリコナゾール国内第III相臨床試験」)

 さて、本剤が我が国で承認、発売されるまでには、当然、我が国でも臨床試験が行われたわけですが、我が国では広く深在性真菌症を対象としたオープン試験が欧米と同様の投与量、すなわち注射は 6mg/kgを1日2回、経口薬は300mgを1日2回を各々負荷投与として初日投与し、以降症例に応じて注射では3〜4mg/kg、経口は200mgをそれぞれ1日2回の維持量で投与する方法で実施され、60例で有効性が、また、100例ではその安全性が評価されました。症例数はやや少ないのですが、専門医で組織された委員会で、各例ごとに詳細に評価され、次の様な報告がなされています。
 まずその有効性ですが、アスペルギルス症は 40例がエントリーされ、内28例、70.0%の有効率でありました。内、最も重症の侵襲性肺アスペルギルス症は16例で、10例有効、有効率は62.5%です。また、カンジダ属ではエントリーされた12例中11例が有効の91.7%、クリプトコッカス症ではエントリーされた8例全例が有効であり、全体としての有効率は78.3%で、深在性真菌症を対象とした最近の我が国での臨床試験成績としては、最も高い有効率でありました。
 次に安全性についてですが、我が国で臨床試験を開始するにあたって、気になる点が二点ありました。一点は欧米でも高頻度に報告された視覚異常、もう一点は東洋人における本薬の代謝の特異性です。前者の視覚異常は、ボリコナゾール投与開始後早期にみられるもので、まぶしさ、視野に霧がかかった様だなどと様々に表現され、欧米では 1/3程度、我が国でもほぼ同程度の頻度で訴えがありましたが、いずれも重篤なものではなく、一過性で、発現後早期に回復しており、失明や視力低下などの長期毒性を残したものはありませんでした。ただし、やはり自動車の運転は本薬投与中は避けていただくなどの配慮は必要でしょう。
 今ひとつの代謝の問題は、東洋人では遺伝子多型があり、約 20%程度に本剤の肝での代謝酵素、CYP2C19の機能欠損を有するポピュレーションがあると言うことです。彼らにボリコナゾールを投与した場合、代謝の遅延から過剰血中濃度となり副作用が助長されることが懸念されました。従って臨床試験でも投与3日目のボリコナゾール血中濃度や肝機能をモニターし、それぞれの遺伝子型と比較検討するなど慎重な評価を行いました。しかし、特に遺伝子多型に応じた過剰血中濃度や副作用発現の増加傾向は認められませんでした。すなわち臨床例では、他の要素、例えば患者の体重や本来の肝機能、併用薬、その他の合併症などの影響がより強いものと考えられますが、やはり肝機能障害者や高齢者などでは、慎重に投与することが肝要でしょう。

 

提供 : 株式会社スズケン

    

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