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<スズケンDIアワー> 平成17年7月14日放送内容より スズケン

DI実例集(149 )睡眠薬処方における転倒・転落事故の問題点


愛媛大学薬剤部 教授 薬剤部長
荒木 博陽

icon 転倒・転落が及ぼす影響

 近年報道されている医療事故の6割以上が薬剤に関連したもので、処方ミス、調剤ミス、患者や薬剤の取り違えなど多岐にわたるとされています。医療スタッフが協力していかにこのような医療事故を防ぐかが重要な課題であることは疑いようがありません。

(資料1:「転倒・転落が及ぼす影響」)

 ところで、日本病院会・医療事故対策委員会の調査によると、医療事故の内訳で転倒・転落事故が25%を占めるとされています。ひとたび転倒・転落事故を経験すると、たとえ骨折や外傷がなくても不安や恐怖心が起こり、日常活動動作(ADL)が低下し、高齢者などでは寝たきりになってしまうことが懸念されています。まして、骨折でもするとADLの低下は明らかで、寝たきりとなってしまうことが多いと思われます。この転倒・転落事故は患者の身体的要因や入院に伴う環境要因が大きいことは明らかですが、薬剤に基づく要因も大きいことも既によく知られています。

icon 睡眠薬処方の選択理由

 我々は以前、病院では患者から眠れないとの訴えがあったときにどのような考えのもと、医師は睡眠薬を処方しているのか、看護師はどのような判断のもとで睡眠薬の与薬を行っているのかについて、医師、看護師にアンケート調査してみました。
 その結果、医師は患者から眠れないと訴えがあったときには睡眠薬を処方することが多いこと、薬剤選択の理由は効果や作用時間とともに使用経験が重要な因子であることが明らかになりました。一方、副作用面では持ち越し効果について認識があり、作用時間の面から、不眠の訴えに対しては超短時間型や短時間型の睡眠薬の処方が多いことが推察されました。すなわち、日中のふらつきに対する配慮が多いように感じています。
 看護師の方は睡眠薬については名前、作用時間あるいは投与量に関する情報は得ているものの、ふらつきや筋弛緩作用と睡眠薬の作用機序についてはあまり認識していないところがあることが推察されました。これは、看護師に対して薬剤についての情報提供がなされていないことが原因と考えられます。医師には製薬会社のMRあるいは薬剤師が直接新薬あるいは薬剤情報の変更点などについて説明する機会が多くありますが、看護師に関しては、まず製薬会社のMRが説明する機会はなく、薬剤師も何か聞かれれば答えるというスタンスが多いように考えられます。
 看護師は看護学校で教えられた治療薬の知識をもとに日常業務の中で関わる薬剤について自己学習しながら患者に対応しているケースが多いのではないかと思われます。従って、新しい薬剤についての情報は極めて少ないことが予想されます。薬剤師は医師のみならず看護師へも服薬指導を通じて現在患者が服用している睡眠薬の特徴を伝えるとともに、薬剤の効果、あるいは副作用の両面についての留意点を積極的に情報提供することで、看護師の患者ケアが幅広いものになるのではないかと考えています。

(資料2:「処方薬の選択理由」)

 ところで、睡眠薬の処方理由については、医師は使用経験をその理由に挙げる医師が最も多いという結果を得ました。作用時間や効果がそれに次いでいましたが、一面では副作用や筋弛緩作用が少ないことを理由に挙げた医師は少ないという結果でもありました。使用経験上、転倒・転落事故の経験がなく、患者から特に不満がないようであれば、使用経験のある薬剤を選択していると思われます。
 効果や副作用を列挙して複数回答でお願いしたアンケートでありましたが、副作用に対して配慮するという回答が少なかった理由は、副作用にあまり留意することなく、処方しているとも取れました。しかし、他の設問で睡眠薬と転倒・転落事故との関連性についてはほとんどの医師が「ある」と答えている事実から考えますと、設問に対して優先的な選択をした可能性があり、一概に転倒・転落などの問題を重要視していないと断言するのは軽率であろうと考えます。まして、高齢者についての睡眠薬処方については転倒・転落事故のリスクを考えた処方が必要であることは論を待ちません。

 

提供 : 株式会社スズケン

      

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