獨協医科大学病院PETセンター センター長
村上 康二
PETの有用性
次にPETの臨床についてお話しします。
従来の画像診断、つまりCTやMRI、超音波検査、内視鏡などはすべて「腫瘍の形」を捉える検査で、これらは「形態画像」と呼ばれることがあります。それに対してFDG-PETは腫瘍のブドウ糖代謝を診断する検査、いわば「腫瘍の性質(もしくは機能)」を診断する検査ということができ、「機能画像」と呼ばれます。たとえば形は小さくて形態は良性にみえるのに、実際は悪性度の高い腫瘍が存在する一方、形は大きくても緩徐に発育する悪性度の低い腫瘍も存在します。これらの腫瘍の差は「性質の違い」と考えられており、その診断にはこのPET検査が有効です。つまり、一般的に悪性度が高い腫瘍は早く発育するために代謝が亢進しており、形態にかかわらずPETでは強い薬剤集積性を示すからです。
また、PET は全身の検査が簡単に出来る点も大きな長所です。転移や再発はがん診断において重要な要因ですが、体のどの部分に発生するかが予測出来ません。一方、PET以外の検査で全身を調べようとすると、首から骨盤のCTやMRI、内視鏡、超音波検査など多くの検査数になり、患者の負担が大きくなります。したがって、全身(頭部を除く)のがんの病巣を一回の検査で調べることができるPETは非常に有用性が高いということになります。
さらに、がんに対する治療効果の早期判定もPETの有用性が期待されています。通常はがんに対して化学療法や放射線治療を行った場合、どのぐらい治療が効いたかを調べるためには腫瘍の大きさで判断しますが、腫瘍が小さくなるよりも早い時期に腫瘍の性質が変わる、つまりブドウ糖代謝に変化が起きることが知られています。治療効果の判定がPETにより早く行えれば、次の治療計画も早く対策を立てることができ、臨床的な有用性が大きいわけです。
PETの特徴と問題点
以上のように多くの利点を備えたPETですが、他にも多くの優れた画像診断があります。したがって、PETを行う際には、その特徴を生かして、従来の形態画像診断では得られない情報を目的として検査をする必要があります。PETの有効性が期待される目的は、たとえば次のようなものです。
・ 放射線治療や化学療法などの効果判定
・ 全身の転移巣検索
・ 腫瘍の良悪性の鑑別診断
・ 腫瘍の悪性度の評価
・ 臨床的に再発が疑われる患者の再発巣検索
・ 原発不明がんの病巣検索 など。
ところで、今まではPETの利点を述べてきましたが、決してPETは万能の検査法ではありません。
PETで検出することが困難ながんが決して少なくなく、たとえば脳・腎臓・膀胱・前立腺の腫瘍は、元々正常臓器にFDGが生理的集積を示すため、腫瘍への集積があっても検出が難しい場合があります。さらにFDGは炎症へも集積します。したがって、これらの悪性腫瘍以外の集積を鑑別するには、患者さんの履歴や生理生化学的検査、そして他の画像診断などを総合して診断する必要があります。
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