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<スズケンDIアワー> 平成18年2月16日放送内容より スズケン

前立腺肥大症治療薬-シロドシン


東京逓信病院 院長
河邉 香月

icon 前立腺肥大症の要因

 今日は新しい前立腺肥大症治療薬、シロドシンについてお話しします。まず前立腺肥大症とα遮断薬について簡単に説明しておきたいと思います。
 前立腺肥大症(以下BPH)とは前立腺が腫大すること、膀胱出口部が狭くなること、下部尿路症状(Lower Urinary Tract Symptom:以下LUTS)が出ること、の3つが相互に影響しあっておこる症候群です。
 最近は、高齢者でLUTSがあるものは、BPHとみなしてよいとされています。LUTSはBPHの中心となるもので、その評価には国際前立腺肥大症症状スコア(IPSS)が使われます。IPSSではLUTSのうち、排尿症状(尿線途絶、尿勢低下、腹圧排尿、)、蓄尿症状(昼間の頻尿、夜間の頻尿、尿意切迫感)、および排尿後症状(残尿感)の合計7項目で、それぞれの程度を記載する仕組みになっています。LUTSの原因としては、交感神経末端から出るアドレナリンのα作用によって、前立腺が収縮して尿道を圧迫したり膀胱頸部を閉じたりすることになる、膀胱出口部狭窄が主であると考えてよいと思います。

icon α1受容体サブタイプに対するα1遮断薬の選択性

 そこで、これらの部位に存在するアドレナリンα受容体にアドレナリンが結合するのを妨げることが、BPHの症状緩和に役立つわけです。ご承知のように、α受容体にはα1とα2とがあり、前立腺に分布するのは主にα1であることが知られ、まずBPH治療薬としては標準的なα1遮断薬であるプラゾシンが使われるようになりました。プラゾシンは血圧を下げる効果を期待されて出来たものであり、BPHに用いると時に著明な血圧の低下、起立性低血圧などの不快な症状があるため、BPHの薬物療法としてなかなか定着しませんでした。ところが1980年頃、YM12617というα1遮断薬が開発されました。この薬は当初、降圧薬を意図されたものの肝腎の降圧作用ははかばかしくなく、一方でイヌの尿道圧を下げることが発見されてBPHへの応用が考えられたわけです。時をほぼ同じくしてα1受容体にはいくつかのサブタイプが発見され、その名称は何度かの変遷を経て前立腺に多いサブタイプはα1A、血管に多いサブタイプはα1Bとされました。この理論でいくと、前立腺により強い親和性を有することがin vitro, in vivoで証明されている、YM12617はα1A遮断薬であると言えます。製剤にも工夫が凝らされ、タムスロシンとして、1993年8月に発売されました。いまやタムスロシンは前立腺受容体研究の標準薬、あるいはmilestoneの位置づけがされ、BPHの手術を激減させることにもなりました。
 タムスロシンに次いでテラゾシン、ウラピジル、ナフトピジルなどが発売され、今回シロドシンが出ましたから、日本では前立腺に対するα1受容体は6種類(8商品)となりました。
 このうちウラピジルはα2遮断作用もあるといわれ、α1受容体サブタイプについては詳しく調べられておりません。α1A受容体に対する選択性をα1B受容体に対する選択性に比べた値からみると、シロドシンが群を抜いて高く、次いでタムスロシン、ナフトピジル、プラゾシン、テラゾシンの順になります。因みにシロドシンはプラゾシンと比べα1Aレセプタに400倍ほど選択性が高く、このことは前立腺に対する効果を同じにすれば血管に対する作用がきわめて小さくなるということを意味しています。BPHにみられるLUTSそのものに対する効果は、薬の服用量、そして体内のレセプタに対する占拠率で決まるので、各種α遮断薬で差はないけれども副作用の多寡には差がみられる、というのが現在までの世界的なコンセンサスです。
 なお、α1受容体のサブタイプにはA,BのほかにDがあることが知られておりα1D受容体は前立腺のほかに、膀胱、仙髄の交感神経節などに分布しています。そして蓄尿症状に強く関わっていると示唆されております。α1Dのノックアウトマウスでは、膀胱容量、1回排尿量が有意に増加するとの報告があります。これも前に述べたα1D受容体が蓄尿症状に関係するという説をサポートします。日本にあるα1受容体のうちα1D受容体に選択性に最も高いのが、ナフトピジルで、いくつかの小規模な試験で蓄尿症状にはタムスロシンより有効との報告もあります。しかし、これには異論もあり、いまだに定説とはなっておりません。実際、開発時の試験では、タムスロシンもシロドシンも蓄尿症状に対し有意の改善を見ております。そもそも分子生物学的な概念である受容体サブタイプの機能を臨床症状に直接結びつけるのは困難であると思いますし、サブタイプの選択性にしても、せいぜい10の1乗のオーダーでは自覚的な差として感じられるほどではないと思われます。

 

提供 : 株式会社スズケン

      

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