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<スズケンDIアワー> 平成19年4月12日放送内容より スズケン

塩酸ドキソルビシンリポソーム注射薬


東京都立駒込病院感染症科 医長
今村 顕史

 今回は、エイズ関連カポジ肉腫の治療薬として2007年1月に承認されたドキソルビシン塩酸塩 リポソーム注射剤(商品名ドキシル)について解説していきます。
 なお、以下、本剤を「リポソームドキソルビシン」と呼び説明していくこととします。

icon リポソームドキソルビシンの特徴

 リポソームドキソルビシンは、これまでにも抗悪性腫瘍剤として使用されてきたドキソルビシンをリポソーム製剤としたものです。
 ごく簡単に説明するなら、特殊な加工をしたリポソームで包むことによって、血中に投与されたドキソルビシンがマクロファージなどに補足されて排出されるということを少なくするようにしたものです。
 このような工夫によってリポソーム製剤となったドキソルビシンは、従来のドキソルビシンと比較しても、腫瘍の組織内に滞留する時間が長くなり、組織内の濃度も高くなることがわかっています。また、血漿中に遊離して存在するドキソルビシンの濃度が抑えられることによって、副作用が少なくなるという利点も持っています。
 リポソームドキソルビシンによるカポジ肉腫の標準治療法では、20mg/m2の静脈内投与を1コースとして、2〜3週間ごとに投与することとなっています。
 外国でおこなわれた臨床試験における副作用の報告をみると、約半数の例で、血小板減少、貧血、好中球減少が認められていました。
 また、血液学的な検査異常を除く有害事象の報告としては、悪心、発熱、脱毛、嘔吐、下痢、口内炎などがあげられています。重大な副作用としては、心筋障害、投与直後のアレルギー反応であるinfusion reaction、手のひらや、足底部に出現する皮疹で、紅斑、落屑、疼痛などを伴う手足症候群などの報告があります。

icon HIV感染症治療の現状

 さて、ここまでリポソームドキソルビシンの特徴、投与方法、そして副作用について、まとめてきました。しかし本剤が、実際の治療においてどのような位置づけにあるのかを理解するためには、カポジ肉腫という疾患と、現在のHIV感染症の治療についても、知っておくことが必要となります。
 そこで、ここからは、カポジ肉腫についての一般的な知識と、現在の抗HIV療法について簡単に説明し、それを理解していただいた上で、カポジ肉腫をリポソームドキソルビシンで治療する際のポイントについて解説していきたいと思います。
 カポジ肉腫は、HIV感染症において、AIDS発症と診断する指標疾患のひとつにあげられている悪性腫瘍で、男性同性愛者に多く発生するという特徴があります。
 その病因は、まだ完全には解明されていませんが、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)に加えて、いくつかの要因が関与していると考えられています。

典型的なカポジ肉腫の皮膚病変

 カポジ肉腫の病変は皮膚に多く認められ、四肢、頭頸部、体幹など、全身のいたるところに発生します。典型例では直径数mm〜数cm、紫色から黒褐色の皮膚病変となり、局所への集簇、あるいは全身に散在というように、症例によって様々な分布で広がります。進行したものでは全身に広がり、四肢や顔面に著明なリンパ浮腫を伴うこともあります。
 口蓋や歯肉など、口腔内の病変も比較的多く認められます。特に喉頭部の病変で浮腫をともなった場合には、気道狭窄の原因となることがあるので注意が必要です。
 内臓病変は消化管や肺に多いのですが、その他あらゆる臓器に発生する可能性があります。消化管病変は皮膚病変をもつ患者の40%以上に認めるといわれていますが、悪化しても無症状のことが多く、出血や腹痛も比較的稀だといわれています。
 また、肺のカポジ肉腫は呼吸不全の原因となりうるため、早期診断と治療開始が重要となります。
 近年、HIV感染症の抗ウイルス療法は急速に進歩してきており、その予後も大きく改善してきました。現在行われている抗HIV薬による多剤併用療法はHighly Active Antiretroviral Therapy(HAART)とよばれるようになっています。このHAARTによりHIV感染者の免疫機能を回復、維持することが可能となり、これによって重篤な日和見感染症を発症しなくなったことが、死亡率の減少につながってきたのです。
 一方、カポジ肉腫を合併しているAIDS患者にHAARTを開始することで、カポジ肉腫の病変自体も徐々に改善してくるということがわかってきました。現在では、このHAARTもカポジ肉腫における治療選択のひとつと考えられるようになっています。

提供 : 株式会社スズケン

      

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