<スズケンDIアワー> 平成20年6月5日放送内容より |
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浜松医科大学臨床薬理学・臨床内科 教授
渡邉 裕司
肺高血圧症とは、肺動脈圧の上昇を認める病態の総称と定義されています。一般には、安静臥位での平均肺動脈圧が25mmHgを超える場合、また、肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、肺胞低換気症候群では平均肺動脈圧が20mmHgを超える場合に肺高血圧症と診断されます。肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症(以下PAH)、左心性心疾患に伴うもの、肺疾患や低酸素血症に伴うもの、慢性血栓塞栓症によるもの、その他の肺高血圧症の5つに大別されますが、通常問題となる症例の多くは、PAHか肺血栓塞栓症に伴う肺高血圧症と考えられます。本日は、このPAHと最近の治療についてご紹介したいと思います。
PAHには、特発性あるいは家族性を含む原発性肺高血圧症と、膠原病や先天性心疾患、門脈高血圧症やHIV感染症などの特定の疾患に合併して生じる肺高血圧症、有意の肺静脈や肺毛細血管閉塞を伴う肺高血圧症、さらに新生児持続性肺高血圧症が含まれます。この中で、原発性肺高血圧症は特定疾患治療研究事業の対象に指定されており、平成18年度特定疾患医療受給者証件数より、961人の患者が確認されています。膠原病や先天性心疾患などに続発して生じる肺高血圧症も含めると、PAH患者の数は約6000人程度と考えられます。 PAHは放置すると、進行性に肺血管抵抗の上昇を認め、最終的には右心不全や低心拍出性症候群から死にいたる、極めて予後不良な疾患群です。労作時の息切れや動悸、突然の失神発作や、右心不全徴候である顔面や下腿の浮腫などの症状により、患者の生活の質は著しく低下します。原発性肺高血圧症は、人口100万人あたり年間およそ1〜2人の割合で発症すると見られており、極めて稀な疾患ですが、30歳前後の比較的若い世代の発症例が多く、確定診断後の平均生存期間は約3年とされ、また膠原病に合併する肺高血圧症も、女性に多く、原発性肺高血圧症と類似した経過をとる、予後不良の疾患であることが明らかとなっています。
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