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<スズケンDIアワー> 平成20年7月10日放送内容より スズケン

肺動脈性肺高血圧症治療薬ベラプロストナトリウム


国立循環器病センター心臓血管内科肺循環グループ 医長
中西 宣文

icon エポプロステノールの特徴

 これら3種の治療薬のなかで、最初に臨床応用が可能となった薬剤が、エポプロステノールです。エポプロステノールは、プロスタサイクリンと言う、本来、生体内に存在する肺血管拡張作用を持つ物質を生合成したものです。プロスタサイクリンは血管平滑筋のプロスタサイクリン受容体を介してアデニルサイクラーゼを活性化し、cAMP濃度を増加させることによって、血管平滑筋の弛緩をもたらし、肺血管の拡張作用を発揮します。また本薬は抗血小板作用、平滑筋増殖抑制作用も併せ持つとされています。これまでの検討で、未治療の原発性肺高血圧症の3年生存率が約40%であるのに対し、エポプロステノール治療群では約70%と、生命予後の著明な改善が証明されており、本薬の治療効果は確立していると言って良いと思います。
 ただ、エポプロステノールは、注射薬で、血中半減期が2〜3分と極めて短いことから、安定して治療効果を得るためには、持続的に静脈内投与を行うことが必要です。このため、在宅でエポプロステノールの治療をうけるためには、中心静脈に挿入する特殊なカテーテルと、薬剤注入用の小型精密ポンプを組み合わせたシステムを、常時使用することが必要となり、本治療を受けている患者さんのQOLは決して良いとはいえません。そこでエポプロステノールは、NYHA機能分類の3度以上の、重症で積極的な治療が必要な、原発性肺高血圧症例の治療に用いられています。エポプロステノールの治療効果は明らかですので、最近各種のプロスタサイクリン誘導体の開発が行われ、海外では皮下注射で用いるトレプロスチニールや、吸入で使用するアイロプロストが開発されています。

icon ベラプロストの治療効果

 ベラプロストは日本で開発されたプロスタサイクリン誘導体で、経口投与が可能な点で、他のプロスタサイクリン誘導体と比較して、大きな長所を持っています。

原発性肺高血圧症に対するベラプロストの治療効果:予後

 ベラプロストは、当初わが国では閉塞性動脈硬化症の治療薬として認可されていました。そして1994年から96年までの間に、原発性肺高血圧症と膠原病に合併する肺高血圧症を対象とした臨床試験が行われ、ベラプロスト3ヶ月間の治療で、肺血管抵抗は有意に低下し、NYHA機能分類も有意に改善する結果が得られ、1999年に原発性肺高血圧症に対する治療薬として認可されました。その後、海外で行われたベラプロストの無作為化対象試験では、ヨーロッパからの報告で、ベラプロスト投与3ヶ月目には、肺血行動態には改善はみられなかったものの、6分間歩行試験を用いた運動負荷試験で有意に運動耐容能の増加が得られた結果となりました。

原発性肺高血圧症に対するベラプロストの治療効果(運動耐用能)

 しかし米国での臨床試験では、投与開始後3ヶ月と6ヶ月目で6分間歩行距離は有意に改善しましたが、9ヶ月目と1年後にはその効果は見られませんでした。そこで残念ながら、2007年米国胸部疾患学会が公表した肺高血圧症治療ガイドラインでは、ベラプロストは肺高血圧症の治療薬としては採用されませんでした。肺高血圧症の治療は、現在では3種類の相互に作用機序の異なった治療薬を処方することが可能であることはお話しました。しかしわが国で、ボセンタンが認可されたのは2005年、シルデナフィルは本年(2008年)2月になってやっと認可が得られました。
 従って、つい最近まで比較的軽症の原発性肺高血圧症に対する治療薬としてはベラプロスト以外には選択肢がない状態が続きました。このため、わが国では海外のガイドラインとは異なり、ベラプロストが肺高血圧症に対する第1次選択薬として広く用いられています。
 ただ、エポプロステノール持続静注療薬の経験から、プロスタサイクリン系統の薬剤は、比較的濃度依存性に血管拡張作用が見られることが知られています。従って十分な治療効果を得るためには、可能な限り高濃度の安定したベラプロスト血中濃度を維持することが必要と思われます。従来のベラプロスト製剤100μgの最高血中濃度到達時間(Tmax)は1.42時間、最高血中濃度(Cmax)は440pg/mLと発表されております。このためベラプロスト服薬後は、比較的急速に本薬剤の血中濃度は増加し、血管拡張作用を発揮しますが、過度の顔面紅潮やのぼせ感、動悸などの副作用も生じ、頭痛は約1/4の症例で観察されます。また血中濃度半減期は、1.1時間で、急速に薬効が消失します。これらの薬物動態学的特徴から、従来薬では長時間、十分なベラプロストの血中濃度を保てなかったことが、海外での臨床試験にて良い成績が得られなかった原因である可能性が考えられました。

 

提供 : 株式会社スズケン



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