<スズケンDIアワー> 平成20年7月31日放送内容より |
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京都府立医科大学大学院泌尿器外科学 教授
三木 恒治
根治が期待される限局性腎細胞がんに対しては、根治的腎摘除術などの外科的治療が標準治療である。一方、転移を有する腎細胞がんに対しては、interferon-α(IFN-α)やinterleukin-2(IL-2)を用いた免疫療法が標準治療であったが、その奏効率は約15〜20%と満足できるものではなかった。近年腎細胞がんの増殖に関わる分子機構の解明が進み、vascular endothelial growth factor (VEGF)やplatelet-derived growth factor (PDGF)などをターゲットとした分子標的治療薬が開発されてきた。VEGFやPDGFがそれぞれのレセプターと結合すると、そのチロシンキナーゼがリン酸化され、下流にあるphosphatidylinositol 3-kinase(PI3K)/AKT/mammalian target of rapamycin(mTOR)経路、または、Ras/Raf/mitogen-activated protein kinase(MAPK)経路が活性化され、hypoxia inducible factor(HIF)を誘導し、がんが増殖すると考えられている。Sunitinib、axitinib、erlotinibはこのチロシンキナーゼを、sorafenibはチロシンキナーゼとraf kinaseを阻害する分子標的治療薬である。また、temsirolimusはmTORを阻害する。そのほか、抗VEGFヒトモノクローナル抗体bavacizumabなども治験段階であるが詳細は割愛する。欧米ではすでに臨床においてsunitinib、sorafenibなどの分子標的治療薬が腎細胞がんの転移症例に対して用いられている。本邦においても今年(2008年)、腎細胞がんに対してsunitinib、sorafenibが厚生労働省の認可を受け、発売された。今回は時間の都合上、主にsunitinibに関して概説する。
SunitinibはVEGF receptor (VEGFR)やPDGF receptor (PDGFR)を中心とした種々のtyrosine kinaseを阻害するmultikinase inhibitorで、この作用により血管新生阻害も含めた腫瘍増殖を抑制する分子標的治療薬である。転移を有する腎がんの中でも淡明細胞型の症例を対象としてsunitinib (375例)とIFN-α(375例)を用いたfirst line therapyのrandomized controlled trial(RCT)が2007年にMotzerらにより報告された。
一方、2006年に、IFN-αなどのサイトカインが効果を示さなくなった転移を有する腎細胞がんに対するsunitinib のsecond line therapyとしての奏効率も40%と高いことがMotzerらにより報告された。また、非進行生存期間の中央値は8.7ヶ月、全生存期間の中央値は16.4ヶ月であった。2007年のASCOの総会では、sunitinibを用いたsecond line therapyの多施設の種々の症例を集めたexpanded trial (症例数2,341例)がGoreらにより報告された。この中には、淡明細胞型腎細胞がんのみならず、非淡明細胞型腎細胞がんも含まれ、performance statusが2以上の症例や脳転移症例などの予後不良症例も対象とし、さらに、前治療としてサイトカイン療法のみならず、分子標的治療も含まれていた。そのためなのか、驚くことに奏効率は9%と低いものであった。
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