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<スズケンDIアワー> 平成21年11月5日放送内容より スズケン

DI実例集(165)フッ化ピリミジン系抗がん剤とワルファリンの相互作用


名古屋大学附属病院薬剤部 薬品情報室
太田 小織

icon 相互作用の作用機序

 カペシタビンは腫瘍組織内で活性の高いチミジンホスホリラーゼにより活性代謝物5-FUに変換されるため腫瘍特異性が高いと考えられています。一方TS-1には、テガフールの他にギメラシルとオテラシルカリウムが配合されており、ギメラシルは、5-FUの分解酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)を選択的に阻害し、5-FU濃度を持続させます。オテラシルカリウムは消化管に高濃度に分布し、5-FUのリン酸化を阻害し、消化器毒性を軽減させます。これが、TS-1の製剤的特徴です。
 カペシタビンやTS-1とワルファリンの相互作用は、両剤の活性代謝物である5-FUによるワルファリンの代謝阻害によると考えられます。しかし、5-FUの血中半減期がカペシタビン単回投与時では0.7時間、TS-1単回投与時では1.9時間と非常に短いにもかかわらず、これらの相互作用の発現時期が数日後から数週間後との報告があり、その代謝阻害は、代謝酵素CYPへの直接的な拮抗作用ではなく、間接的な作用によるものと思われます。

CYP分子種の代謝活性に対する5-FU投与の影響

 ParkとKimは、ヒトの肝ミクロゾームを用いたin vitro試験において、CYP各分子種の代謝活性に対する5-FUの影響を検討しています。5-FU はCYP2C9の他、多くのCYP分子種の代謝活性に対し、直接の阻害作用を認めないことが示唆されました。1)

5-FU投与によるCYPの代謝活性推移

 また、Afsarらは、ラットの試験において、肝ミクロゾーム中のCYPの発現量と代謝活性に対する5-FUの影響を検討しました。5-FU高用量を単回腹腔内へ投与後、CYP2C11の発現量と代謝活性は、14日目に有意に減少し、CYP3Aの発現量と代謝活性は7日目に有意に減少しました。2) 一方、Stupansらは、ラットの試験において、5-FU単回投与ではCYP2C11およびCYP3A の発現量と代謝活性をともに減少させませんでしたが、5日間連続投与したところ、4日、7日後においてCYP2C11およびCYP3Aの発現量と代謝活性を減少させたことを報告しています。3)
 これらの試験結果により、5-FUは代謝酵素CYPの合成を阻害し、ワルファリンの代謝を低下させ、血中濃度を上昇させたのではないかと考えられます。また、これらの阻害作用は、5-FUの単回高用量投与に比べ、連続投与により強まる可能性があります。今回の我々が経験した症例の結果とも一致します。しかし、これらの作用機序は立証されたものではなくさらなる解明が必要です。
 ワルファリンは、S-体とR-体の光学異性体からなり、それぞれの生理活性や体内動態が異なります。S-ワルファリンは、R-ワルファリンに比較して約5倍の抗凝固作用を有し、主にCYP2C9により肝代謝されますが、R-ワルファリンは主にCYP1A2、CYP3A4、CYP2C19により代謝を受けます。

ワルファリンの薬物動態に対するカペシタオピンの影響

 Camidgeらは、がん患者4名に対し、ワルファリンを単独投与後(1日目)と、カペシタビン14日間投薬、7日間休薬を3コース施行し、再度ワルファリンを投与した時(61日目:カペシタビン3コースの12日目)のワルファリンの薬物動態や薬力学的作用を検討しました。S-ワルファリンのAUCは、単独投与時と比較し、カペシタビン投与後では57%増加し、半減期は51%延長しましたが、R-ワルファリンにおいてはAUC、半減期ともに変化はありませんでした。この結果、カペシタビンは活性本体であるS-ワルファリンの代謝のみを阻害することより、CYP2C9に特異的に作用することが示唆されました。4) また、ワルファリンの光学異性体の薬物動態に対する5-FUの影響を調べた動物試験でも、同様の結果が得られています。5) しかし、5-FUがCYP2C9に特異的に作用する機序も不明であり、今後の検討が期待されます。

 

提供 : 株式会社スズケン



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