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<スズケンDIアワー> 平成21年12月24日放送内容より スズケン

選択的ニューロキニンNK1受容体拮抗制吐薬アプレピタント


福岡大学腫瘍・血液・感染症内科 教授
田村 和夫

 今日のお話は、がんの治療、とくに抗がん剤を使ったときにおこる吐き気、そして実際に胃の内容物を吐く、嘔吐についてです。吐き気・嘔吐は、患者さんがもっともつらい副作用の一つで、抗がん剤を受ける患者さんにとって、吐き気や嘔吐が続きますと、気分が悪くうつうつとしてまいります。実際、良く効く抗がん剤が開発された1970年から80年代は良い吐き気止めがありませんでした。そのため、がんの治療をすればよくなることが分かっていても、患者さんが治療を断念し、悔しい思いをすることを何度も経験しました。このたび、(2009年)12月はじめにその副作用を軽くする画期的な薬剤、アプレピタントがでましたので、紹介したいと思います。

icon がん患者の吐き気、嘔吐の原因

 がん患者さんはがんと診断され、治療やがんの進行にともなって、吐き気や嘔吐を経験する機会は結構多く、その原因にはいろいろあります。つまり、がんの治療に関連したものばかりではありませんので、その他の原因もあるかもしれないということを念頭におきながら、慎重に診察や負担の少ない検査を実施します。原因が見つかった場合には、可能であればそれを取り除く努力をします。原因としては、胃や腸が腫瘍によって閉塞し通過が悪い場合、あるいは血液のなかに含まれているカルシウムやナトリウムの値が異常になっても気持ち悪くなります。治療に関連したものでは、抗がん剤だけでなく、放射線をかけたときもおこりますし、痛み止めとして使用するモルヒネなどの麻薬は、しばしば吐き気や嘔吐をおこします。こういった抗がん剤以外の原因を改善することによっても気分は良くなります。また、抗がん剤にも吐き気・嘔吐作用の強いものからほとんどないものまであり、処置をしないと90%以上のヒトが吐く高度リスク、30-90%のヒトが吐く中等度リスク、それより頻度の少ない軽度リスクとほとんど吐くことのない最小度リスクの4つに分類されます。たとえば、肺がんや卵巣癌で使用頻度の高いシスプラチンは激しい嘔吐をしばしばおこす高度リスクの薬剤ですが、消化器癌によく使用される5FUは、ほとんどおこしませんので軽度リスクにはいり、それぞれの薬剤に対応した嘔吐対策をとる必要があります。

抗悪性腫瘍薬による悪心・嘔吐の分類

 さらに、抗がん剤で治療した後、吐き気・嘔吐をおこすパターンに3種類あって、治療後1-2時間からおこり、24時間でおさまってくる急性期のものと、24時間を超えておこってくる遅発性のもの、さらに抗がん剤を打つ前から気分が悪くなる精神的なものが深く関連した予期性のものがあります。精神的なもの以外の前2者については、抗がん剤が身体に何らかの作用をして吐き気や嘔吐をおこすわけですから、その理由、メカニズムが分かれば、それに対する治療が可能となります。そのメカニズムを少し詳しくみてみます。
 一つは、脳の下の方、首の付け根の奥にあります延髄に網様体というところがあり、そこには吐きなさいという命令を出す嘔吐中枢があります。この中枢が直接抗がん剤、あるいはあとで述べます化学物質によって刺激を受け、胃や横隔膜、腹筋に命令をだし、胃の出口を閉じ、口側を空け、横隔膜や腹筋が収縮して胃の内容物を口の方に押し出すのです。
 また、その近くには第4脳室の最後野というところにChemoreceptor Trigger Zone(CTZ)というところがあり、吐き気を催す物質の刺激を受けます。的確な日本語訳はありませんが、化学受容野と訳されます。化学物質が化学受容野に結合し、その刺激が嘔吐中枢をさらに刺激して嘔吐するルートもあります。2つ目は消化管を介するもの、3つ目はめまいをおこすので有名な耳の奥にある前庭器官を介するものです。乗り物酔いでは吐き気・嘔吐をおこしますが、この器官が不調になっておこります。
 そして最後に、激しい感情や精神的刺激に対して大脳が反応しておこるものがあります。つまり、精神的なストレスなどで気分が悪くなり吐くのです。
 以上の4つのルートによる、吐き気・嘔吐のなかでも、ドパミン(D2)、セロトニン(5-HT3)、ヒスタミン(H1)、アセチルコリン、最近ではサブスタンスP(NK1)といった化学物質あるいは神経伝達物質が、化学受容野や嘔吐中枢を刺激することによっておこる機序が、重要だと考えられています。吐き気止めの歴史をみてみますと、

 

提供 : 株式会社スズケン



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