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<スズケンDIアワー> 平成22年5月13日放送内容より スズケン

バンコマイシン眼軟膏薬


近畿大学眼科学 主任教授
下村 嘉一

icon はじめに

 本日は、昨年(2009年)12月に新しく発売されましたバンコマイシン眼軟膏1%についてご紹介したいと思います。
 MRSAとは、抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌ですが、実際は多くの抗生物質に耐性を示す多剤耐性菌であります。
 近年は眼科領域でもMRSA またはMRSE(methicillin resistant Staphylococcus epidermidis)による涙嚢炎、結膜炎、角膜炎、眼内炎や角膜潰瘍などが多く報告されており、日和見感染症を惹起したり、高度に多剤耐性である場合には著しく重症に陥り、時には失明に至ることがあります。MRSA またはMRSE眼感染症の所見はブドウ球菌感染と同様の特徴を有しており、結膜炎では眼脂、充血等が見られますが、角膜炎、角膜潰瘍において重症例が多く見られます。眼科領域でのMRSA検出頻度に関する報告を見ますと、Staphylococcus aureusに対するMRSAの割合は増加傾向にあるように思われます。

icon バンコマイシンについて

 バンコマイシンはグリコペプチド系抗生物質であり、1958年に米国で注射用製剤が「グラム陽性菌による感染症」を適応症として承認されて以来、世界各国で承認され、特に「メチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌感染症」に対する治療薬として医療分野で高く評価されております。日本においては1981年にまず、経口用製剤が「骨髄移植時の消化管内殺菌」を適応症として承認されましたが、バンコマイシンは腸管から吸収されないため、腸管感染症以外の細菌感染症に対しては静脈内に投与する必要があり、1991年にMRSA感染症に対する治療薬として注射用製剤が承認されました。

MRSA臨床分離株に対するMIC分布

 バンコマイシンは、細菌の細胞壁ペプチドグリカンの合成を阻害し、殺菌的に作用します。バンコマイシンのMRSAに対する効果はご存じのことと思いますが、MRSA臨床分離株20株に対するレボフロキサシン、アルベカシン等各種抗菌薬のMICを調べると、バンコマイシンのMIC90は2μg/mLと最も優れた抗菌力を示しています。また、他にもMRSAおよびMRSEに対する各種抗菌薬のMICに関してはいくつかの報告がありますが、ペニシリン、セフェム系、カルバペネム系、マクロライド系、キノロン系などに対し、高い割合で耐性化がみられるのに対してバンコマイシンに対しては100%感受性を示しているようです。
 バンコマイシンはMRSA、MRSE眼感染症に対しても有効ですが、バンコマイシンを静脈内投与しても眼局所への移行は限定されたものであり、眼局所における薬物濃度をMRSAなどの耐性菌に対して有効な濃度に維持するためには、腎障害などの副作用が懸念されるほどの高用量の投与が必要とされます。
 バンコマイシンの眼局所用製剤は市場になかったため、診療現場では注射用バイアルを溶解させて調製した院内処方の点眼液または眼軟膏で治療を行ってきました。
 自家製造された点眼液や眼軟膏はMRSA感染症に対し高い有効性を示していましたが、バンコマイシンは水溶液で不安定なため、長期間安定な点眼液や眼軟膏を製造することが難しく、このため外来患者などには使用できませんでした。またバンコマイシンには組織刺激性があり、患者のコンプライアンスに問題を生じることなどから、診療現場では眼局所への刺激性がなく、製剤学的に長期間安定な製剤が求められていました。
 MRSAまたはMRSEによる眼感染症は重症例も多く、適切な治療が行われなければ失明してしまうおそれもありますが、患者数は少ないために眼局所用製剤開発が行われず、2001年にようやくオーファンドラックの指定を受けて開発の運びとなりました。
 本剤の製剤的特徴としては、バンコマイシンは非常に水に溶けやすい物質ですが、水溶液での安定性が悪いため、長期間安定な点眼液を製造することが困難でした。そこで、バンコマイシンを油性基剤に分散させた眼軟膏剤とすることにより、安定性に優れた製剤となりました。また、バンコマイシンは時間依存性に薬効を発現する薬剤であるため、組織滞留性の高い眼軟膏剤とすることにより、高い治療効果が期待できると考えられました。
 また、ウサギを用いたMRSAによる眼感染症モデルにおいて、バンコマイシン眼軟膏1%の1日4回投与によって、基剤に比べ有意にMRSA生菌数を減少させました。

 

提供 : 株式会社スズケン



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