→ 番組表はこちら
→ストリーミング版はこちら
<スズケンDIアワー> 平成22年8月5日放送内容より スズケン

不眠症治療薬 ラメルテオン


日本大学 精神医学系教授
内山 真

icon 睡眠と2つのメカニズム

 人の睡眠は2つのメカニズムに制御されています。
 まず第一のメカニズムです。長く起きていると脳が疲労してきますが、この疲労に応じて眠気を起こす、いわば脳が疲れたから眠るといったメカニズムで、睡眠恒常性維持機構による睡眠制御と呼ばれます。
 脳は活動している間に一種の老廃物である睡眠物質を産生し、これが脳に蓄積して、こうした物質が疲労に応じて脳を休ませるということが考えられています。動物を眠らせないでおくと、起こしていた時間に比例して脳脊髄液の中に睡眠物質がたまってくるということがわかってきました。
 この睡眠物資の代表としては、日本で発見されたプロスタグランジンD2があります。これは脳脊髄液の中に起きていれば起きているほどたまり、脳に働きかけて睡眠をもたらす物質です。これはどうやって睡眠をもたらすのかというと、この脳脊髄液中にこの物質がふえてくると脳の表面にあるプロスタグランジンD2受容体に働きかけ、アデノシン神経系、そしてGABA神経系を介して睡眠を発現させるということがわかっています。そして、このGABA神経系に働きかけて催眠鎮静作用を発揮し睡眠を起こさせるのが、これまで使われてきたベンゾジアゼピン受容体作動薬であるベンゾジアゼピン系睡眠薬、あるいは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と呼ばれる薬剤です。つまり、現在使われている睡眠薬は、起きていれば起きているほど脳が疲れて眠るという、このメカニズムに働きかけて睡眠を起こさせる訳です。
 第2の仕組みは概日リズム機構による睡眠制御です。これは夜の一定時刻になると働き、睡眠を起こすという仕組みです。先ほどこの恒常性維持機構を脳が疲れたから眠くなる仕組みというふうにお話しましたけれども、これは一言で言うと夜だから眠くなる仕組みというふうに言いかえてもいいかと思います。
 この夜だから眠る仕組みは、脳の奥にある体内時計が司っています。哺乳類の体内時計は視床下部の視交叉上核にあります。この視交叉上核にある体内時計は私たちが意識しないところで、地球の自転によりもたらされる24時間の明暗サイクルに合わせて時を刻んでおり、一定の時刻になったら睡眠を起こし、朝の一定の時刻になったら、目が覚ますというおよそ24時間のリズムを支えています。体内時計機構は、夜になってくると体の内部体温を少しずつ下げ、そして代謝を全体的に下げ、血圧を下げ、体全体を眠りに、そして休息に適した状態にさせていきます。こうした体内時計の作用によって私たちは夜の一定時刻になると、次第に眠たくなってくるわけです。
 体内時計が働いて夜になると自然に眠るわけですけれども、朝起きるのも体内時計の作用によります。睡眠中いつも起床する時刻の2時間前くらいになると、体内時計は体の内部体温が徐々に上げ、目覚める準備を始めます。そして、これが一定のレベルに達すると、私たちは目覚めるのです。

icon メラトニンのリズム位相変位作用

 メラトニン受容体作動薬はこの体内時計機構、つまり夜の一定時刻になると、脳と身体を夜の状態にして睡眠をもたらす、こうした仕組みを介して不眠症を治療していくという治療薬です。
 メラトニンを投与した際には、投与時刻に応じて体内時計の発振する概日リズムの位相が変化します。つまり、投与時刻に応じ体内時計の針を進ませたり遅らせたりする作用です。午後から夕方の間に投与した場合には、体内時計の針が進み、入眠時刻が早くなります。また、早朝から午前中に投与した場合には、体内時計の針が遅れ、その晩の入眠時刻が遅くなります。完全な夜になってから投与した場合には、体内時計の針は動きません。
 この位相変位作用は、今までに概日リズムが乱れている人たちの体内時計を調整するために用いられてきました。若者に多い、宵っ張り朝寝坊が固定してしまう、睡眠相後退症候群という、概日リズム睡眠障害があります。この症候群では、朝方にならないと入眠できず、そして一たん入眠するとぐっすり眠って昼まで眠ってしまうため、社会生活が出来なくなります。こういった症例には夕方から夜の早い時間帯にごく少量のメラトニンを投与することによって、体内時計を進ませ入眠時刻を早める治療が行われてきました。メラトニンの位相変位作用を利用して時差ぼけの治療をするということも試みられていて、到着地の就床予定時刻くらいに、この時差飛行の前から少量のメラトニンを服用していると到着地における順応が早くなるということが報告されています。

 

提供 : 株式会社スズケン



前項へ 1 2 3 次項へ