山王メディカルセンター 女性医療センター長
太田 博明
はじめに
日本人女性は世界一の長寿であり、平均寿命も24年間延び続けていますが、健康寿命はまだまだ十分ではありません。日本人女性の健康寿命を損なう大きな原因となっている1つが骨粗鬆症による骨折です。
骨折は日常動作能力及びQOLを低下させ、生命予後にも影響し、更に介護の必要性や医療費を増加させる原因ともなっています。骨粗鬆症罹患者数は高齢化とともに飛躍的に増加しており、日本では約1100万人、米国及び欧州を含めると7500万人以上と推定されています。そのため骨粗鬆症に対する対策が医療のみならず社会的にも重要な課題となっています。
骨粗鬆症の標準治療薬
骨粗鬆症に対する標準治療薬としてはビスフォスフォネート製剤とSERMがあり、またビタミンD3製剤及びK2製剤も多く用いられています。
特にビスフォスフォネート製剤は広範に使用されている非ホルモン化合物であり、骨表面に結合した後、破骨細胞に吸収されます。同薬剤は骨リモデリングに多大な影響を及ぼす一方、骨粗鬆症の治療に対する有効性も十分に確立されています。同薬剤の忍容性は一般的に良好ですが、その半減期は長く、治療中止後数年間、骨格に残存する可能性があります。投与終了後も引き続き骨吸収を抑制するという作用は、治療当初は有益な場合もありますが、骨リモデリングの長期に亘る過度な抑制は、骨の石灰化度の上昇による脆弱化や微小損傷の増加などの好ましくない作用を引き起こす可能性があります。
骨粗鬆症治療におけるもう一つの標準治療薬としてはSERMという薬剤があります。閉経後骨粗鬆症の発症原因は閉経に伴うエストロゲン欠乏であることから、欠乏したエストロゲンを補充するホルモン補充療法は合目的な治療法といえます。一方、ホルモン補充療法のリスクとして乳癌の増加あるいは子宮内膜への好ましくない作用が懸念されます。その欠点を改善した薬剤がSERMです。SERMは選択的エストロゲン受容体モジュレーターの略称で、骨格系及び脂質代謝には選択的なエストロゲン作動薬として作用する一方、乳房組織にはエストロゲン拮抗薬として作用し、子宮組織に対しては作用を示さないことから、臓器特異性を有し、加えて脂質代謝などにも好ましい影響を及ぼすことから、女性のトータルヘルスケアのソリューションとして期待される薬剤であります。また、SERMは服薬の制限が少なく、飲みやすいのが特徴の1つで、さらに骨密度ばかりでなく、骨質を改善する可能性も示唆されています。
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