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<スズケンDIアワー> 平成23年9月8日放送内容より スズケン

プロトンポンプ阻害消化性潰瘍治療薬 エソメプラゾールマグネシウム水和物


東北大学病院総合診療部教授
本郷 道夫

icon H2ブロッカーとPPIの相違点

 さて、H2ブロッカーとPPIはどのように違うのでしょうか?単にPPIがH2ブロッカーよりも強力であるという言い方には私は賛同しません。胃酸は胃の壁細胞から分泌されます。壁細胞にはコリン作動性のムスカリン受容体、ヒスタミンH2受容体、そしてガストリン受容体があり、それぞれの受容体が刺激されることで酸分泌が起こります。抗コリン作動薬はムスカリン受容体を、H2ブロッカーはヒスタミンH2受容体への刺激を抑制するものです。そのため、それぞれの受容体以外への刺激があれば酸分泌がおこります。一方プロトンポンプはどの受容体の刺激であっても、壁細胞からの酸分泌を行う最終の機序を担っています。壁細胞からの酸の汲み出しをするプロトンポンプが抑制されれば、受容体側への刺激がどのようであっても酸分泌は効果的に抑制されることになります。H2ブロッカーは優れた酸分泌抑制薬であり、夜間には迷走神経由来の刺激が消失するためその効果は極めて顕著ですが、日中の迷走神経由来の酸分泌には必ずしも効果的とは言えません。GERDあるいは逆流性食道炎では日中の酸逆流が重要な役割を果たしているので、日中にも酸分泌抑制効果を持つPPIが臨床的に有利となるわけです。


icon エソメプラゾールマグネシウムの特徴

 GERD治療およびピロリ菌除菌を中心にPPIが酸関連疾患の治療に広く用いられるようになると、次の問題点が明らかになってきました。すなわち、PPIを服用しているのに充分な酸分泌抑制効果が得られない人たちがいることです。シトクロームP4502C19という酵素はCYP2C19という略称で呼ばれますが、この酵素の種類によっては、PPIが速やかに代謝されてしまうため薬効が十分に得られないextensive metabolizerと呼ばれる人たちがいることです。このような人たちではGERDの治療も、ピロリ菌除菌も必ずしもうまくいくとは限りません。しかし、このような代謝促進も、光学異性体によって異なることがわかってきました。

ネキシウム(エソメプラゾール)オメプラゾールの光学異性体

 オメプラゾールにはR体とS体とよばれる光学異性体があります。両方が混在しているものをラセミ体と呼びます。オメプラゾールのR体とS体を比べると、R体はextensive metabolizerの患者さんでは特有のCYP2C19により速やかに代謝されますが、S体はその影響を受けません。そのため、S体のオメプラゾールはextensive metabolizerの患者さんでもそのCYP2C19による代謝の影響がないためpoor metabolizerと呼ばれる患者さんと同じ血中濃度が維持され、安定した薬効が期待されます。S体のオメプラゾールを臨床応用しようとして開発されたのがエソメプラゾールです。光学異性体を応用した薬剤には様々なものがあり、いずれも安定した薬効を得られるように開発されたものです。光学異性体とは、例えていうならば、右手と左手のような関係にあります。右手も左手も「手」としては同じ5本の指を持ち、左右対称であること以外は全く同じです。利き手とそうで無い方とでは活躍の仕方が異なります。また、右手は左手の手袋には入りません。そのため、光学異性体は代謝の面ではしばしば異なる態度を示します。エソメプラゾールもその一つと考えれば良いでしょう。
 Extensive metabolizerでの早すぎる代謝の影響はCYP2C19の状態を前もって検査することで、予測することは可能ですが、実際の臨床ではそのような検査をすることは現実的ではありません。次善の、そして実際的な対策はCYP2C19による代謝の影響を受けない、あるいは影響の少ない薬剤を選択することになります。

 

提供 : 株式会社スズケン



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