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<スズケンDIアワー> 平成24年3月1日放送内容より スズケン

多発性硬化症治療薬 フィンゴリモド塩酸塩


北海道医療センター臨床研究部長
新野 正明

icon 多発性硬化症とは

 多発性硬化症は脳、脊髄、視神経といった中枢神経系に多数の病巣を形成する疾患ですが、その病態に関しては何らかの原因でリンパ球をはじめとした免疫細胞が、自分の神経の軸索を覆っている髄鞘を破壊してしまう脱髄と考えられています。その脱髄により手足のしびれ、力の入りにくさ、ふらつき、見えづらさなど様々な症状が現れるようになります。すなわち,この症状がでたから多発性硬化症というよりは、いろいろな症状がでてくるのが多発性硬化症の特徴といえます。
 この病気は20〜30歳代の若年成人に発症することが多く、また、女性のほうが男性よりも約3倍も患者数が多いとされています。患者数は、世界で約250万人といわれており、欧米で多く、アジアやアフリカでは比較的少ない傾向がみられますが、その主な原因は人種差とされています。日本では、約13,000人の多発性硬化症患者さんが報告されており、欧米に比べると有病率は低いのですが、年々増加傾向にあります。この病気の有病率の特徴は、先ほどの地域差というか人種差の他、高緯度ほど高有病率となっているということです。日本の疫学調査でもこの傾向が確かめられており、日本でも北の地域ほど有病率が高くなっています。
 多発性硬化症にはいくつかの病型がありますが、最も多いのは症状が出る「再発」と、症状が治まる「寛解」を繰り返す、再発寛解型と言われるタイプです。そのため,現在使用されている薬剤や開発が進んでいる薬剤は、いかに再発を抑えるか?ということに主眼が置かれています。先ほど述べましたように、日本は多発性硬化症の患者数が欧米に比べると少ないため、使用できる再発予防薬は欧米より種類が少なく、しかも欧米からは大分遅れて使用可能になるなど、治療薬の使用に当たっては欧米と比べて制限がありました。実際、昨年秋まで我が国で使用できる再発予防薬は二種類のインターフェロンβ製剤だけでした。これはどちらも,自己注射薬で、 2日に1回の皮下注薬か1週間に一回の筋注薬です。再発予防薬は長期に使用されることが多いため、コンプライアンスの観点からも、より「利便性」の高い薬剤が求められていました。そして、2011年9月に、再発予防薬として初の経口薬であるフィンゴリモドが本邦で承認され2011年11月に発売されました。フィンゴリモドはアメリカで2010年秋、ヨーロッパでは2011年春から使用できるようになっており、日本でも欧米とほぼ同じ時期から使用可能となりましたが、これはこれまでのインターフェロンβ製剤と比べると画期的なことです。フィンゴリモドは、1日1回服用の「経口剤」という利点だけでなく、海外および国内臨床試験においてその著明な臨床効果が報告されており、多発性硬化症治療の新たな選択肢として期待されています。

icon フィンゴリモドの作用機序

 フィンゴリモドは「スフィンゴシン1-リン酸受容体機能的アンタゴニスト」とされていますが、これは多発性硬化症治療薬としては新規作用機序を有する薬剤です。 その考えられている作用機序を説明したいと思いますが、その前にスフィンゴシン1-リン酸(SIP)を簡単に説明したいと思います。

スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の働き

 リンパ球の二次リンパ組織から末梢血中への移出は、多彩な生理活性を示すリン脂質であるS1Pよって制御されています。すなわち、S1Pがリンパ球上のS1P受容体に作用することにより、リンパ球は二次リンパ組織から末梢血中へ移出されます。つまり、リンパ球が二次リンパ組織から末梢血中に移出するには、リンパ球表面にS1P受容体が発現している必要があるのですが、フィンゴリモドは、リンパ球上のS1P受容体に結合して、内在化・分解を引き起こし、リンパ球上のS1P受容体を失わせます。それにより、リンパ球は二次リンパ組織からの移出が阻害され、中枢神経系へ移行するリンパ球が減少し、脳や脊髄における炎症や脱髄を抑制しているのではないかと考えられています。また、フィンゴリモドは中枢神経への直接作用によって、炎症反応の抑制のみならず、神経の修復機能を亢進させることも期待されています。ただ、フィンゴリモドの多発性硬化症における作用機序に関しては、まだ、不明な点も多く、今後の研究に期待されています。

 

提供 : 株式会社スズケン



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