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<スズケンDIアワー> 平成24年5月10日放送内容より スズケン

ニューモシスチス肺炎治療薬 アトバコン


東京医科大学臨床検査医学教授
福武 勝幸

 ニューモシスチス肺炎の治療薬として、日本で今年の1月に承認された一般名「アトバコン」(商品名:サムチレール内用懸濁液)およびニューモシスチス肺炎についてお話させていただきます。

icon アトバコン承認へまでの経緯

サムチレール内用懸濁液

 アトバコンは、実は、今から20年も前の1992年に米国で既に承認されていたニューモシスチス肺炎の治療薬で、2011年までに世界21ヵ国で承認されていますので、決して新しい薬ではありません。そして、アトバコンはニューモシスチス肺炎の第一選択薬ではなく、標準的な治療薬・予防薬であるST合剤での治療が副作用のために困難な患者に対するセカンドラインの薬剤という位置づけで広く使用されているものです。
 ニューモシスチス肺炎はエイズ患者に多く発症する代表的な日和見感染症ですが、日本では、最近までアトバコンの開発が進んでいませんでした。そこで、私が研究代表者になっています厚生労働省エイズ治療薬研究班が、1996年10月よりHIV感染者の治療を目的とした臨床研究のために医師個人輸入を行い、全国の医療施設で使用できる環境を提供してきました。しかし、最近、厚生労働省が希少疾病用医薬品や国内未承認薬・適応外薬の開発促進に向けた対策に乗り出したことを受けて、日本エイズ学会などがニューモシスチス肺炎の治療および予防を目的とするアトバコンの開発に関する要望書を提出し、このたびの承認に漕ぎつけるに至りました。

icon アトバコンの作用機序

 ニューモシスチス肺炎の原因はニューモシスチス・イロベチーという真菌ですが、一般的な真菌細胞膜の構成成分であるエルゴステロールをもたないため、エルゴステロールの合成阻害を作用機序とする抗真菌薬に対する感受性がありません。従って、ニューモシスチス・イロベチーに殺菌的な作用を示す薬剤はST 合剤など、極めて限られた薬剤となっています。アトバコンの作用部位はミトコンドリア呼吸鎖であることが示唆されており、ニューモシスチス・イロベチー ミトコンドリアの電子伝達系複合体Vを抑制します。また、アトバコンは、ミトコンドリア内膜蛋白質ユビキノンのチトクロームb への結合を阻害し、ATP レベルを顕著に低下させることにより抗ニューモシスチス・イロベチー活性を示すと考えられています。

icon ニューモシスチス肺炎といきなりAIDS 患者

 ニューモシスチス肺炎は、ニューモシスチス・イロベチーの感染により発症するHIV 感染者における代表的な日和見感染症です。かつてはカリニ肺炎と呼ばれていました。HIV 感染者では、CD4 リンパ球数が200/μL以下になると様々な日和見感染症の発症リスクが高まりますが、ニューモシスチス肺炎は最も頻度が高く、重篤な合併症であるため、早期に診断して適切な治療を行うことが重要です。免疫機能が低下したHIV 感染者が自覚症状をきっかけに、医療機関を受診する所謂“いきなりAIDS”の患者は年々増加していますが、ニューモシスチス肺炎の発症による呼吸困難や発熱による来院が約6割と最も多くなっています。従って、HIV 診療を専門としない一般臨床医にもニューモシスチス肺炎を知っていただくことが重要です。一方、HIV 感染と免疫能の低下が事前に分かっている症例については、抗菌薬の予防投与や抗HIV療法の適切な導入により、ニューモシスチス肺炎は予防可能な疾患となっています。

 

提供 : 株式会社スズケン



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