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<スズケンDIアワー> 平成24年11月1日放送内容より スズケン

DI実例集(176)医薬品適正使用のための添付文書の読み方


群馬大学病院薬剤部准教授・副薬剤部長
中村 智徳

icon ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩によるブルーレターについて

 つぎに、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(商品名:プラザキサカプセル)による重篤な出血に関する事例についてご説明いたします。

プラザキサカプセルによる重篤な出血に関するブルーレター

 本剤は平成23年3月14日に発売が開始されましたが、同年の8月11日までの間に重篤な出血性副作用が81例報告され、うち本剤服用との因果関係が否定できない死亡例が5例報告されています。
 ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩は抗凝固薬ワーファリンと同様に、心房細動等の不整脈による血栓形成を防止し、脳塞栓症の予防に効果を発揮する医薬品です。血液凝固の機構には様々な経路が知られていますが、ワーファリンはそのうちビタミンK依存的経路に作用する薬剤です。すなわちワーファリンは、酸化されたビタミンKをもう一度還元して再利用可能な分子型に戻す役割をもつビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)と言う酵素を阻害することにより、ビタミンKの再利用を抑制し、血液凝固反応は抑制されます。したがって、ビタミンKを多く含むと共にビタミンKを産生する菌(納豆菌 Bacillus subtillis var. natto)を有する納豆などの食品が禁忌となっています。 一方、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩はワーファリンとは異なる作用標的を有し、直接的にトロンビンを阻害するためにビタミンKには依存しないので、食事制限を気にせず服用が可能であるという点で患者さんにとっては待ち遠しい薬でもありました。また、比較的薬物相互作用が少ない薬であるとされており、多くの医薬品の薬物代謝酵素であるチトクロームP450のいずれサブファミリーによっても代謝されません。ただし、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩は腎排泄型の薬剤であり、近位尿細管に多く分布するP-糖たんぱく質P-gpにより排泄されます。したがってP-gpを阻害する抗真菌薬イトラコナゾールをダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩と併用した場合には、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の排泄が遅延し、体内でのダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩濃度が上昇して、出血リスクが高まってしまう危険性があることから、併用禁忌となっております。
 ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(商品名:プラザキサ)に見られた重篤な出血による死亡例は、いずれも75歳以上の方々で、その5名のうち4名は腎障害を有していました。たとえ腎障害を持っていないとしても高齢者の場合は、加齢により薬物の代謝や排泄機能が低下したり、多くの薬剤を併用していることが多いため、薬物の排泄が極度に遅延してしまう可能性があります。
ここで先生方に医薬品添付文書を見たときに思い出して頂きたいことがございます。使用上の注意の欄でよく見かける「使用経験が少ないので慎重投与」という文言は、単に「多くの患者さんで使用されていないので、副作用の発現状況が充分に把握できていない」ということだけではなく、治験の段階で被験者のデータのバラツキを少なくするために、重篤な疾患を持つ患者や特異体質の方又は高齢者が被験者から除外されている可能性もあるということです。
 以上紹介した2つの事例は、添付文書を読んでいればある程度予測でき、慎重に薬物治療を進めていくことが出来たと思われます。

 

提供 : 株式会社スズケン



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