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<スズケンDIアワー> 平成25年7月25日放送内容より スズケン

アルコール依存症治療薬 アカンプロサートカルシウム


国立病院機構久里浜医療センター院長
樋口 進

icon アルコール依存症とは

 お酒の飲みすぎは、60以上のもの病気やけがの原因になるばかりでなく、飲酒運転による交通事故、自殺、家庭内暴力、虐待、犯罪など様々な問題を引き起こします。大量飲酒によって、このような健康問題や社会問題が一人の人に集積した状態をアルコール依存症と呼びます。予後は悪く、本人や家族のみならず、社会にとっても重大な病気です。

ICD-10診断ガイドライン アルコール依存症

 確定診断は、国際的な基準であるWHOのICD-10により行われます。また、アルコール依存症を早期に見つけるためのスクリーニングテストもあります。例えば、新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(新KAST)、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)などがあります。詳しくは、私どもの病院のホームページをご覧ください。
 2003年の厚労省研究班の調査では、ICD-10の「アルコール依存症」に該当する人は全国で約80万人と推計されています。しかし、実際に医療機関でアルコール依存症の治療を受けている患者数は、2011年の厚労省患者調査の発表では3.7万人です。これらの調査結果から、アルコール依存症の多くは治療に結びついていないと考えられます。他の疾患と同様に、アルコール依存症においても、早期発見、早期治療導入は重要です。一般に、アルコール依存症の予備軍は、プレアルコホリズムと呼ばれています。プレアルコホリズムの該当者数はアルコール依存症よりはるかに多いと推定されています。アルコール依存症とプレアルコホリズムには、はっきりした境界はありませんので、早い時期から対処することが重要です。そして、アルコール依存症が疑われる場合は、専門治療を行っている医療機関への受診を促す取り組みが必要です。
 アルコール依存症の最終的な治療目標は、飲酒中心の生活から抜け出し、お酒を飲まずに健全な家庭生活や社会生活を取り戻すことです。アルコール依存症は治療の難しい病気であり、この病気から回復するには生涯、断酒を続けることが必要です。なぜなら、長い間お酒を飲まずにいたとしても、ひとたびお酒を飲んでしまうと、元の病的な飲酒状態に戻り、ほど良い飲み方を続けることができないからです。これを再発準備性と呼び、一度、脳にできてしまった依存は消えることがなく、いつでも表に現れる状態で待機しているということです。

icon 断酒補助薬の登場

 これまで日本では、アルコール依存症治療で使用できる薬剤は抗酒薬のみでしたが、2013年3月にアルコール依存症の断酒補助薬としてアカンプロサートカルシウム(以下:アカンプロサート/商品名:レグテクト)が承認され、5月27日より実際に臨床使用が可能となりました。アカンプロサートは、1987年にフランスで最初に承認され、現在は欧米をはじめ世界24ヶ国で販売されています。世界的に見れば、アルコール依存症の標準的な治療薬と言えるでしょう。

アカンプロサートと抗酒薬との違い

 抗酒薬はアルデヒド脱水素酵素を阻害することから、飲酒すると体内にアセトアルデヒドが蓄積し、ひどい二日酔いの状態を起こします。抗酒薬は、この不快感を連想させることにより、飲酒を抑え断酒させることを期待する薬物です。これに対しアカンプロサートは、中枢神経系に作用し、アルコール依存症患者の飲酒に対する欲求を抑制すると考えられています。断酒後には、アルコールへの強い渇望がしばしば生じますが、この渇望を小さくするのです。とは言っても、酒を見てもまったく飲みたくなくなる、ということではありません。ある状況で飲みたい気持ちが10わきあがるところを、薬を服用することで、8や7になったり、6になったりするということです。
 アルコール依存症患者は脳内の興奮性神経と抑制性神経のバランスが崩れており、アカンプロサートはその状態を是正すると考えられています。継続的なアルコールの摂取は、抑制系の神経を活性化する作用がありますが、これに適応するために興奮系の神経、すなわちグルタミン酸作動性神経が活性化されます。この状態でアルコールの刺激が無くなると、興奮系の神経だけが活性化されるため、脳内の神経のバランスが崩れ、これが更なる飲酒につながります。アカンプロサートは、グルタミン酸作動性神経の活動を抑制することにより、脳内神経のバランスを保つと考えられています。

 

提供 : 株式会社スズケン



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