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<スズケンDIアワー> 平成25年8月22日放送内容より スズケン

新薬の薬価算定根拠(43)


日本大学薬学部薬事管理学 教授
白神 誠

icon 費用対効果の考え方

 費用対効果とは、簡単に言えば、単位当たりの効果を得るために必要な費用を求めることです。たとえば、一人救命するのにいくらとか、一年延命するのにいくら、といった具合です。この値のことを費用効果比とよびますが、費用効果比が小さいほど費用対効果がよいということになります。ただし、費用効果比がいくら以下なら費用対効果が良いというような絶対的な基準があるわけではなく、現在行われている標準的な治療法に比べて良いか、悪いかの相対的な評価を行うことになります。
 そこで、問題となるのは何を費用として算定するのか、効果をどう表すのかということです。費用に関しては、医療保険の下での費用対効果を考えるということなので、医療保険から支払われる費用をすべて取り上げます。逆に言うと、医療保険の対象とはならない費用、例えば介護に要する費用や患者が負担する費用は、考慮しないということになります。ただし、医療保険の一部負担金として患者が負担する費用は考慮します。また薬の価格は、医療機関等の購入価格ではなく、医療保険から支払われる薬価ということになります。このように整理したうえで、それでは実際にいくら費用が掛かったのか、ということになるわけですが、これを求めるのはそれほど容易ではありません。費用の単価は診療報酬点数を適用すればよいのですが、その薬剤を用いた治療に実際には平均してどれだけの医療資源が投入されたのか、例えば何日入院したのかとか、検査を何回行ったのかとか、を決めるのは議論が分かれるところです。疾患ごとの標準的な医療費を求めたデータベースのようなものがあればよいのですが、今のところ実現していません。
 そこで、従来の薬剤と比較する場合、費用の差を効果の差で割るという、増分費用効果比を用います。これならば、新薬あるいは従来の薬剤を用いた治療において、薬剤費以外の医療費に差がないと仮定できれば、薬剤費以外の医療費が実際にいくら掛かったのかを求めなくても良いことになります。ただし、増分費用効果比を用いる場合、費用対効果が良いかどうかを決める基準値が必要となります。これを閾値とよびますが、閾値以下ならば費用対効果がよい、すなわち従来の薬剤に加えて、新しい薬剤を採用してもよいという判断を下すことになります。


icon 効果の評価法について

 次に効果に関してですが、医療技術評価の場合、死亡とか治癒率とか言った臨床効果で表す方法、効用値で表す方法、金銭価値に直して用いる方法の3つが行われています。中医協での議論を踏まえると、欧米でも広くおこなわれている、効用値を用いる方法がとられることになりそうです。
 効用値とは、完全な健康状態を1、死亡を0とした上で、今の健康状態を数値で表したものです。健康状態を表すのにQOLが用いられますが、QOLは健康状態をいくつかの観点(これをディメンジョンとよびます)について数値の組合せとして示したものですから、QOLを測定しただけでは効用値を求めることはできません。そこで、QOLの測定値を効用値に換算する必要が出てきます。しかし、効用値とは人の「好み」を反映したものですから、QOLを効用値に換算することの難しさは想像がつくと思います。次に、この効用値を用いて、質調整生存年(QALY)を求めます。質調整生存年とは、実際の生存年数を完全な健康状態で生きた年数に換算したもので、効用値にその効用値でいた年数を掛ければ質調整生存年が求まります。完全な健康状態で1年生存すれば、1QALYということです。先ほど述べた閾値は、この1QALYを獲得するのにいくらを上限とするのかを示したものです。たとえば、英国では、この閾値を2万ポンドから4万ポンドのあたりにおいているようです。わが国で、医療技術評価を導入するとなったときには、この閾値を一体いくらにするのかは大きな問題となるでしょう。また、生存を金額で表すという点で批判を呼ぶかもしれません。
 効果を従来の薬剤と比較するというのも実際には簡単ではありません。まず何と比較すべきかということですが、通常は、標準的な治療で用いられている薬剤と比較します。ただし、薬価算定ルールに基づいて算定された薬価について医療技術評価を行うのであれば、その際に用いられた比較対照薬が比較すべき薬剤ということになるでしょう。その薬剤と直接比較した臨床試験があればよいのですが、最近の薬価算定の例を見ても、薬価算定上の比較対照薬と臨床試験の比較対照薬が一致しているものはそう多くはありません。医療技術評価を行うためにわざわざ新たに臨床試験を組むというのもナンセンスな話です。外国で行われた臨床試験の結果を用いるとか、他の薬剤を間において間接比較をするという考え方もあるかもしれませんが、有効性、安全性の評価を行う薬事審査では、このような臨床試験成績は、評価対象としていませんので、薬価算定で違う考え方を取り入れるというのは説明がつきません。また、仮にそれを認めるとすると、新たな評価をする必要があるので、薬事審査と同等の審査組織を持たなければならなくなり、効率性の面でも問題があります。

 

提供 : 株式会社スズケン



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