冬の熱と咳からみた診療のポイント [薬学の時間]
2009/01/13(火) 00:00

薬学の時間
2009年1月13日放送分
「冬の熱と咳からみた診療のポイント」
石心会狭山病院副院長
青島 正大

「冬の熱と咳=かぜ」という先入観を排除して診療に当たる
 冬に発熱と咳を訴えて外来を受診した患者では上気道感染すなわちかぜやインフルエンザ、あるいは市中肺炎などを第一に考えるのが普通ですが、同様の症状をきたす肺結核などの呼吸器感染症やびまん性肺疾患や肺癌などの非感染性呼吸器疾患も念頭に置いた診療が必要です。


 日本呼吸器学会の咳嗽に関するガイドラインには急性咳嗽の原因疾患として、胸部X線で異常を認める疾患に肺炎・胸膜炎・肺結核などの感染症、原発性ないし転移性肺腫瘍、びまん性肺疾患、気胸や心臓血管系疾患などが挙げられており、一方、胸部X線で異常を認めない場合のある感染性疾患には、普通感冒、急性気管支炎、マイコプラズマ感染、クラミジア感染、百日咳、インフルエンザウイルス感染、慢性気道疾患の急性増悪、急性副鼻腔炎、RSウイルス感染、ヒトメタニューモウイルス感染などが挙げられています。

 冬の呼吸器感染症の代表として普通感冒すなわちかぜとインフルエンザが第一に挙げられます。かぜの約80%はウイルス、残りはマイコプラズマ、クラミジア、一般細菌により起こります。冬のかぜの原因ウイルスで最も多いのはコロナウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスとされていますが、インフルエンザウイルス感染は、全身症状が強いためインフルエンザとして別に扱います。かぜの症状は咽頭痛、鼻水が主体で、発熱もしばしば認められますが、高熱を示すことは多くありません。咳も通常は7~10日で鎮静化し、病歴と臨床症状により診断します。ウイルスによるかぜは抗菌薬の適応はなく、対症療法が中心ですが、解熱薬の使用はウイルスの排除を阻害し、治癒を遷延させ、また咳も防御反射の現れであり、安易な解熱薬、鎮咳薬の使用は避けるべきです。ウイルス以外の原因微生物である一般細菌、マイコプラズマ、クラミジアによるものは抗菌薬の適応となります。一般細菌の代表はA群溶連菌で、咳、咽頭痛、嗄声を呈し、高熱をしばしば認めます。小児に多く、白苔を伴う扁桃腫脹、皮疹を伴いますが、成人にもみられます。咽頭ぬぐい液の抗原の迅速診断が可能で、扁桃から膿性分泌物が採取できる場合にはグラム染色により推定することが可能です。
 高齢者、老人保健施設入所者で慢性疾患を有する者、心肺に慢性疾患を有する成人や小児、糖尿病・腎疾患・免疫不全を有する者、インフルエンザ流行期に妊娠中期~後期にかかる予定の妊婦などはハイリスク群と呼ばれウイルスによるかぜ症候群でも二次的に細菌感染を合併しやすいとされています。かぜの原因がこれら細菌、マイコプラズマ、クラミジアであるかの判断と、患者の有するリスクの評価を行った上で抗菌薬の適応を決定する必要があります。
 
 インフルエンザは狭義ではインフルエンザウイルスAおよびBによる上気道感染症を指しますが、広義では流行期に典型的な症状を示し、インフルエンザウイルス感染の証拠がないインフルエンザ様疾患を含んだ概念です。突然の高熱、咽頭痛、咳などの上気道炎症状に加え頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が顕著で、痛みの割に咽頭所見は軽微で、肺炎を合併しない限り胸部聴診も異常を示しません。流行期には、臨床所見でインフルエンザと診断します。イムノクロマトグラフィー法を用いたウイルス抗原の迅速診断は検体採取の時期と部位で感度が異なり、インフルエンザウイルスの増殖・排出は発症から24~48時間にピークを迎え、その後は急速に減少するため、抗原検査はこの時期に行わないと感度が低く、咽頭ぬぐい液は鼻腔ぬぐい液や鼻洗浄液よりも感度が低いことを知っておく必要があります。抗インフルエンザウイルス薬の効果は発症48時間以内に投与された場合に最大となりますが、合併症のないインフルエンザの有症状期間を2~3日短縮するという程度のものに過ぎません。主体となるノイラミニダーゼ阻害薬はインフルエンザA・Bの両方に有効で、オセルタミビルは経口薬で、ザナミビルは吸入で用いられます。オセルタミビルはインフルエンザBに対してはAよりも効果が劣るという報告があり、また小児における服用後の異常行動との関連が指摘されており、10歳代の患者へは投与を控えるように勧告されていますが、同様の異常行動はザナミビルでも報告されており、有用性とリスクを個々の症例において勘案して投薬を決めるべきです。M2蛋白阻害薬であるアマンタジンはインフルエンザAのみに有効ですが、投薬により高頻度に耐性ウイルスが出現することが知られています。

 次に下気道感染症についてお話します。慢性閉塞性肺疾患や気管支拡張症などの慢性下気道感染の急性増悪はウイルス感染に続発した細菌感染により起こり、症状は膿性痰の増加と咳が主体ですが、発熱を伴うことも多く、呼吸困難の悪化を示す場合があります。原因微生物は慢性閉塞性肺疾患ではインフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスなどが主体で、気管支拡張症ではウイルスやマイコプラズマ、クラミジアなどの関与が指摘されています。
 市中肺炎では、原因微生物の上位を肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、肺炎クラミジアの4つが占めています。このうち前2者は細菌性肺炎の原因であり、後2者は非定型肺炎の原因です。このほかに黄色ブドウ球菌、クレブシエラ、オウム病クラミジア、レジオネラも原因微生物として知られています。冬にはインフルエンザに細菌性肺炎の合併がしばしばみられ、その原因菌として肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌が知られています。細菌性肺炎では膿性の喀痰を伴うことが多く、非定型肺炎、特にマイコプラズマ肺炎では痰を伴わない頑固な咳が特徴的です。発熱、咳、痰、呼吸困難などの症状、末梢血白血球増加、CRP 陽性などの検査所見、胸部X 線写真上の異常陰影から臨床的に肺炎と診断します。非定型肺炎にはβ-ラクタム系薬が無効であり、逆に今日市中肺炎の原因となる細菌の多くが非定形肺炎の治療に用いられるマクロライド系やテトラサイクリン系抗菌薬に耐性を示すため、細菌性肺炎か非定型肺炎かを鑑別し抗菌薬を選択する必要があります。肺炎球菌及びレジオネラは尿中抗原検査を利用して迅速診断が可能ですが、肺炎球菌尿中抗原は治癒後でも数ヶ月陽性になる例があり、レジオネラの尿中抗原迅速診断キットはレジオネラ・ニューモフィラ血清群1しか検出できないことを知っておく必要があります。喀痰のグラム染色も迅速に結果が判明し、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、モラクセラ・カタラーリス、インフルエンザ菌は形態から推定できるので抗菌薬の選択に役立ちます。
 肺結核は、慢性の経過をたどる微熱やねあせ、痰を伴う咳を主症状とし、体重減少を示すこともあります、患者は「かぜにしては長引く」という感覚を持ち受診することが多く、白血球増多やCRP上昇など炎症所見は認めないか、あっても軽微です。BCG接種が行われているわが国ではツベルクリンテストは診断には有用と言えず、喀痰・胃液の塗沫抗酸菌染色や培養・PCR、胸部画像診断、また今日ではクオンティフェロンTBの測定などが診断のための検査の中心となります。診断にはまず疑うことが大切です。
 非感染性呼吸器疾患が熱と咳の原因となる場合があります。びまん性肺疾患のうちで特発性器質化肺炎、好酸球性肺炎、薬剤性肺炎は亜急性の経過を示す市中肺炎に類似し、痰を伴わない咳や発熱、呼吸困難を呈します。非定形肺炎として治療が開始され抗菌薬治療に反応しないことが診断の糸口になることが多い疾患です。診断には気管支肺胞洗浄などを必要とし、やはり疑うことが診断の第一歩となります。肺がんで中枢気道に病変を有する扁平上皮癌や小細胞癌では咳の症状を自覚しやすいために“かぜ”と間違われやすく、腫瘍熱あるいは閉塞性肺炎の併発により発熱を呈する場合があります。胸部画像診断は必須の検査ですが、特に肺門型の肺癌は画像診断でも見落とされやすく、注意が必要です。

 以上のように「冬の熱と咳=かぜ」という先入観を排除して診療に当たることが大切であるということを結びの言葉として、私の話を終わらせていただきます。