患者の話を聞く技術―確認型応答について [薬学の時間]
2009/01/15(木) 00:00

薬学の時間
2009年1月15日放送分
「患者の話を聞く技術―確認型応答について」
対話法研究所所長
浅野 良雄

誤解の予防・解消と信頼構築のために
 対話法研究所の浅野良雄と申します。今日は、確認型応答という技法を中心に、患者さんの話の聞き方についてお話しいたします。これからご紹介する技法は、日常の業務の中で、自然と身に付けたり、傾聴や共感の技法として学んだことがある方も大勢いらっしゃると思います。今日は、これらの技法の重要性を、確認型応答という視点から、改めて認識していただけると幸いです。


 まず、日常行われているコミュニケーションを、誤解や伝達エラーという側面から考えてみましょう。 私たちは、日頃、「自分が伝えたいこと」のすべてを、必ずしも正確に言葉として表現しているとは限りません。言い間違い・あいまいな言い方・言葉足らず、などは、日常の会話には付きものです。一方、聞き手は、相手が話した言葉に対して、補足や修正を加えながら、相手が伝えたい事柄や思いを理解しようと努めます。しかし、ここにも、聞き間違い・思い違い・思い込み、などが入る可能性があります。そのため、「相手が伝えたいこと」を、必ずしも正確に理解しているとは限らないのです。ここで誤解が生まれます。誤解は、対人関係におけるトラブルの原因の一つです。誤解の予防と解消は、正確な情報の伝達と、良好な対人関係が求められる、医療場面での重要課題の一つです。
 つぎに、コミュニケーションを、心理的な側面から考えてみましょう。患者さんに対応する時は、相手の考えや感情を理解して、暖かい気持ちで接することが重要です。この気持ちは、医療者の表情や態度として表れますが、具体的な言葉によって伝えることも必要です。そして、これらの態度や言葉は、従来から、受容・共感と呼ばれ、患者さんとの信頼関係が重視される医療従事者にとって、欠かすことのできないものとされてきました。
 そこで、これらを実現するために、私が15年ほど前に考案し、それ以来、普及活動を続けている確認型応答と反応型応答という技法をご紹介します。聞き手による応答を、このように、2つの型に分類することによって、コミュニケーション技法の理解と実践が容易になります。
 まずは、確認型応答です。これは、相手、つまり、話し手が言いたいことや伝えたいことの要点を、聞き手の言葉に置き換えて、相手に確かめるための応答です。たとえば、ある患者さんが、「痛みがひどくて、夜中に何度も目が覚めてしまいます」と言ったとしましょう。それに対する、「痛みが辛いんですね」や、「熟睡できないんですね」という言い方が、確認型応答に当たります。聞き手による想像や推測も含めて、相手の話に対する自分の理解が合っているかどうかを確かめる行為です。この、「合っているかどうかを確かめる」というところがポイントです。
 一方、反応型応答とは、自分が言いたいこと、つまり、自分の考えや気持ちを言うことです。たとえば、先ほどの患者さんの訴えに対して、「少しずつ治まっていくと思いますよ」とか、「あとで医師と相談してみましょう」などのような応答です。患者さんの容態を尋ねること、薬剤師の考えを伝えること、薬についての説明などは、すべて反応型応答です。また、「夜中に痛みがあると辛いですよね」なども、もし、自分が同じ立場だったら、そのように感じるだろう、という自分の気持ちを伝えていますから、反応型応答の一種です。これは、特に「同感」と呼ばれるものです。もちろん、同感は必ずしも悪いことではありません。このように、反応型応答とは、相手の話を聞きながら、自分の心の中に湧き起こった反応を、感想・意見・助言・質問・反論・非難・命令、などの形で相手に言うことです。つまり、確認型応答以外のすべての応答です。そして、日常、私たちは、ほとんどの場合、反応型応答で会話をしています。
 ところで、確認型応答と反応型応答の違いは、あくまでも「型」つまりタイプの違いであり、どちらが良いとか悪いということではありません。ただし、2つの応答の効果や性質には、いくつかの違いがあります。
 まず、確認型応答です。薬剤師が確認型応答をした場合、それに対して、患者さんが、「はい」と答えるか、「いいえ」と答えるかによって、自分の理解が合っているかどうかが分かります。逆に、患者さんの立場からすると、自分が伝えたいことを、薬剤師が本当に理解してくれたかどうかが分かります。確認によって、誤解が予防・解消できるため、信頼関係の向上につながるのです。また、確認型応答は、心理的に好感を持って受け止められる可能性が高いです。そのため、安心感や信頼感を育むはたらきがあります。なお、患者さんの発言が、「この薬は飲みたくないんですけど」のように、薬剤師が必ずしも同意や同感できない内容である場合があります。このような時、たとえば、「ほかの薬に替えてもらいたいのですね」のように、一呼吸置いた冷静な対応ができるのも確認型応答の特徴です。また、患者さんから質問をされた時、それに対してすぐに答えずに、質問の真意を確かめることができるのも利点です。たとえば、「どうしてこの薬を飲むのでしょうか?」という質問を受けた時、患者さんが純粋に服薬の理由を知りたい場合は、すぐに何らかの形で答えればいいでしょう。ところが、病気に対する不安や、医療に対する疑問が、質問という形で表れている場合は、どのように答えても、すぐには満足してもらえないことがあります。そんな時は、たとえば、「薬の効果を知りたいんですね」のように、患者さんの気持ちに焦点を当てた確認型応答が有効です。そして、このあとに続く患者さんの話を傾聴しながら、適切な服薬説明を進めていくのです。
 ところで、確認型応答は、本当に相手が言いたいことと、多少違っていても問題ありません。相手と自分は別の人間ですから、相手が言いたいことを必ずしも的確に理解できなくて当然だからです。もし違っていれば、患者さんが、「いいえ、違います。実は○○なのです」と言ってくれますから、それによって真意が分かります。
 このように、確認型応答には、さまざまな効果がありますが、それだけでは、話が先に進まないこともあります。ですから、確認型応答だけをしていればすべてオーケーということではありません。
 つぎに、反応型応答について説明します。反応型応答は、患者さんの心理状態が良好で、しかも、薬剤師との信頼関係が築かれている時には、問題ありません。しかし、逆の状況においては、患者さんに心地よく伝わらないことがあります。たとえば、先の例で、薬剤師としては患者さんに安心してもらおうと思って、即座に、「少しずつ痛みは治まっていくと思いますよ」と言ったとしましょう。その時、患者さんの心理状態が良好で、薬剤師との信頼関係があるなら、「この薬剤師さんが言っているのだから、もう少し様子をみてみよう」と、納得してくれるかもしれません。ところが、これとは逆の状況の場合、患者さんとしては、自分の辛さを薬剤師が理解してくれないと感じてしまい、薬剤師への信頼が薄れてしまうかもしれません。このように、反応型応答は、たとえ、よかれと思って言った言葉であっても、相手の状態によっては逆効果になる可能性があるのです。もちろん、極端な非難・反論・命令などのように、明らかに相手を不快にさせるような反応型応答は問題外です。
 一方、確認型応答は、相手の状態に関わらず好感がもたれ、信頼関係が維持できる可能性が高いため、受容や共感という態度を、具体的な言葉として伝えるための確かな技法なのです。
 ここまで、2種類の応答を別々に説明してきましたが、実際には、これらを適切に切り替えながら会話をします。特に大切なのは、確認型応答を入れるタイミングです。基本的には、重要な話を聞いた時、会話の途中で誤解が生じそうになった時、患者さんの感情がネガティブな状態になった時などに、確認型応答を入れます。たとえば、薬剤師の発言に対して、患者さんが、驚きや、不安な表情を示した時に、「びっくりされましたか」とか、「何かご心配のようですね」というように、患者さんの気持ちを推測した確認型応答をすると効果的です。これにより、薬剤師が患者さんの気持ちを理解していることが伝わります。そして、患者さんが、「はい、そうです」と言ってくれたあとなら、反応型応答を快く受け入れてもらえる可能性が高くなりますから、そこで、質問や説明に戻ればいいのです。
 なお、医療場面で欠かすことのできない、「いつからですか?」「どうしてですか?」などの質問は、反応型応答です。なぜなら、これは、質問したい、という薬剤師の意思の表れだからです。患者さんの状況によっては、質問に答えたくないことがあるかもしれません。そこで、特にプライベートな質問をする時には、患者さんの状況に配慮しながら、適切な確認型応答を入れることが重要です。
 今日は、主に、患者さんとの会話における、確認型応答の使い方についてお話ししてきました。この確認型応答は、ほかの医療スタッフとの会話や、会議でも使えます。誤解の予防や信頼の構築は、どのような人間関係においても重要なことだからです。
 ただし、確認型応答は、一見、簡単そうですが、実際に意識して使おうとすると、慣れないうちは意外と難しいものです。そこで練習が必要です。対話法研究所のサイトに、練習法の紹介や、パソコンで体験できるソフトがありますので、ご利用ください。
 明日からの患者さんとの会話の中で、確認型応答を役立てていただけると嬉しいです。これで説明を終わります。

対話法研究所のWebサイト http://www.taiwahou.com/