小児の発熱の特徴と注意点 [薬学の時間]
2009/01/20(火) 00:00

薬学の時間
2009年1月20日放送分
「小児の発熱の特徴と注意点」
国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部室長
阿部 淳

はじめに
 小さなお子さんが体の異常を訴えて来られる症状のなかで、発熱は最も頻度が高く、かつ重要なものの1つです。本日は、そのようなお子さんの初診の場面を想定しながら、小児の発熱の特徴と注意すべき点についてお話ししたいと思います。


 小児の発熱の原因は、成人と同じく多彩ではありますが、病原菌あるいはウイルスの感染に伴う感染症の比率が非常に高いのが特徴です。これらの感染症の多くは、適切な診断と治療によって比較的早期に軽快することが期待されます。けれどもまれではありますが、重症感染症を続発する可能性もあります。低年齢のお子さんほどその危険性は高く、また容態の変化も急です。そのような事態に迅速に対応するためには、保護者の方々に発熱の病態を正しく理解していただくと共に、お子さんを注意深く見守っていただくことが不可欠です。これらは小児科に特有のリスクマネージメントと言えるでしょう。それでは、このような小児の発熱に対してどのように考え対処すればよいのか、また、どうしたら保護者の理解と協力を得ることができるのか、診療の流れに沿って考えてみることにいたします。

発熱の確認
 最初に発熱とは何か、その定義から始めます。安静な状態で、腋の下の検温で37.5℃以上の場合を発熱と考えるのが一般的です。けれども、小児の正常体温は、成人より0.5℃くらい高いのが普通です。さらに、家の中が暑かったり、厚着をしていたり、あるいは激しい運動や食事の後などは、37.5℃以上でも病的発熱ではない場合もありますので、体温はひとつの目安として考えればよいのではないかと思います。
 また、どのくらい発熱が続いているのかにも注意してください。通常のウイルス感染ならば1日から3日以内に熱が下がることが多いですし、4、5日以上持続する場合はウイルス感染以外の原因の可能性が高くなります。けれども、発熱の高さだけから、細菌感染かウイルス感染かを鑑別することはできません。
 次に、診断から治療方法を決めるまでの過程に沿って見て行きましょう。

全身状態の観察と重症度の評価
 小児科の診察は、入室してくる子どもの全身状態を観察して重症か軽症かを推察することから始まります。症状を言葉で言い表すことのできない小児を診る場合に、このステップは、迅速な処置を必要とする場合や、その後の診察の手順を決定する上でとくに重要です。

問診で尋ねるべきこと
 次に問診ですが、診察室での全身状態の観察と同時に、来院前の家での様子がどうだったかを保護者に詳しく尋ねることも患者の重症度を知るためには有用です。普段と比べてミルクの飲み具合はどのくらい違うか、下痢や嘔吐の回数は何回か、最後に水分をとったのは何時頃か、尿は普段通りに出ているか、夜間はよく眠っていたか、などを聞いて、来院前の全身状態をできるだけ正確に把握するようにします。また、発熱以外の症状について具体的に質問することも、感染のフォーカスを推定するためには重要です。咳嗽や声がれは呼吸器感染を、耳をいじる、耳だれなどは中耳炎を、下痢や嘔吐は消化器感染を、排尿時の痛みなどは尿路感染を、それぞれ示唆します。さらに症状の出現に影響する可能性のある、くすりの摂取についても質問します。前にかかった医院での投薬がある場合には、できるだけ薬局からの説明書を見せてもらって内容を調べるとともに、服薬状況を確認することが必要です。家でけいれんがあった場合には、その様子や持続時間、熱性けいれんの既往があるか、抗けいれん薬を使用したか、などについても詳しく尋ねるとよいでしょう。

重要な身体所見
 次に体の診察について述べます。発熱小児の診察で重要なポイントはお子さんの年齢です。生後3ヶ月未満の乳児は、母親からの受動免疫があるので感染症に罹りにくいといわれています。けれども、いったん発熱すると、敗血症、髄膜炎、尿路感染症、関節炎などの重症細菌感染症の比率が高いのも事実です。また、発熱以外には感染症らしい症状が少ないので、この月齢での重症細菌感染症の診断は必ずしも容易ではありません。先に申しましたように全身状態の総合的な評価が重要です。ぐったりして元気がない、視線が合わない、周囲に興味を示さない、などの様子や、末梢の循環不全を示す白っぽい皮膚の色、あるいは多呼吸や努力性の呼吸などは、”トキシック・アピアランス(Toxic Appearance)”とも呼ばれますが、重症細菌感染症の兆候です。
 このような生後3ヶ月未満の乳児に比べると、3ヶ月以降の小児では、発熱の頻度も流行性の感染症の頻度も高くなりますが、重症細菌感染症の割合は反対に小さくなります。感染のフォーカスとしては、呼吸器系、消化器系、泌尿器系が多いので、それぞれの疾患によく見られる特徴的な症状を見落とさないように、頭から足先まで順番に診ていくとよいでしょう。特異的な所見がみられない時には、尿路感染症を疑うことも大切です。さらに、感染症以外の疾患による発熱の可能性も考える必要があります。この年齢の小児に多いのは川崎病です。川崎病は5歳以下のお子さんに好発する原因不明の全身性血管炎で、とくに心臓の冠状動脈に炎症を起こすのが特徴です。抗生剤治療に反応しない発熱や眼球結膜の充血、くちびるや咽頭の粘膜の発赤、皮膚の不定形発疹、手足のはれ、頸部リンパ節の腫脹という特徴的な症状が見られます。けれども、発熱の初期にこれらの症状が全て揃うわけではないので、感染症との鑑別はなかなか困難です。免疫グロブリン製剤による治療を早期に開始すれば、冠状動脈の瘤の発生を抑えられることが分かっていますから、見落とさないように、また時期を失わずに診断と治療ができるようにしたいものです。

治療方針の決定と説明
 さて、診察の結果、診断が確定されれば、それぞれの疾患に応じた治療を開始することになります。けれども発熱小児の場合は、最初の診察で診断が確定することは少なく、経過をみていかなければ診断できない場合の方がむしろ多いのです。保護者の方には、その時点で疑われる発熱の原因疾患について説明し、お家での経過観察が重要であること、その際お子さんのどのような様子に注意したらよいのか、などについて理解してもらわなければなりません。そのためには保護者の方の理解力の程度を推し量ることも必要です。発熱小児の多くは自然治癒が期待されますが、その中から重症感染症や川崎病などの入院治療が必要とされるお子さんを、漏れなく掬い取って適切な治療のレールに載せるためには、家庭での保護者の観察を助けることが必要ですし、場合によっては再度受診してもらう信頼関係を保護者との間に築くことが大切です。

解熱剤の使用
 最後に、小児の発熱に対する解熱剤の使用法について述べたいと思います。発熱自体が患者に有害な作用を及ぼすことは少ないので、基礎疾患のない小児では39℃未満の発熱に対して積極的な解熱剤の投与は必要ないとされています。しかし、発熱児の保護者のなかには、熱によって脳の障害が起こるのではないかと恐れるあまり、一刻も早く熱を下げて欲しいと救急外来を訪れる人もいます。このような不安の強い保護者には、大事なことは熱を下げることではなくて、発熱の原因を正確に診断して対処することであることを丁寧に話して納得してもらわなければならなりません。また、体温が高くなるにつれて患児は不機嫌になり、食欲の低下や不穏、不眠などの症状を示しますから、保護者が対応に疲れてしまっている場合も少なくありません。このような時は、クーリングなどの方法を勧めるとともに、解熱剤の投与を積極的に考えてもよいと考えます。また、熱性けいれんの既往のある子どもに対しては、ジアゼパムなど抗けいれん薬の座剤を予防的に投与することもあります。そのような時には、解熱薬自体にはけいれんを予防する作用はないことを保護者に説明するとよいでしょう。
 解熱剤を使用する場合の第1選択薬は、アセトアミノフェンです。通常、1回10mg/kgを頓用します。投与間隔は6時間以上あけて、1日2~3回までとします。その他にアスピリンなどが用いられることもありますが、Reye症候群やインフルエンザ脳症との関連が指摘されているので、投与する場合は患者の状態に十分注意を払う必要があります。また、3ヶ月未満の乳児、新生児に対しては、投与により過度の体温低下をきたすこともあるので、原則として解熱薬は使用しないで発熱の原因の精査に努めるべきと考えます。