学薬アワー「学校薬剤師の地域活動について」 [学薬アワー] [薬学の時間]
2009/01/22(木) 00:00

薬学の時間
2009年1月22日放送分
学薬アワー「学校薬剤師の地域活動について」
日本学校薬剤師会 副会長
中野 信利

はじめに
 昨年は、日本人でノーベル物理学賞が三人とノーベル化学賞が一人、あわせて、四名のかたが受賞されました。その中でわれわれ薬剤師にとって身近に感じられる下村 脩先生が、ノーベル化学賞を受賞されました。先生は、薬学のカリュラムを終えた後、蛍光蛋白質を研究して、アメリカでおわんくらげから緑色蛍光蛋白質、GFPを発見しました。現在、このGFPは、世界中の多くの研究者によって応用され、利用されています。特に癌を研究するうえで必要な蛍光体として重宝されております。


 今、世界中の多くの研究者によって、動物、植物からさまざまな物質が、発見され、また合成技術を駆使して多種多様な無機化合物や有機化合物が製造されています。それらの物質は、人々の生活を快適にしたばかりでなく、豊かにもしました。その恩恵にあずかり、あわせて生体に有用で有効な物質を長い年月をかけて研究開発し、医薬品として、さまざまな病気の治療のために役立っております。
 ところが、医薬品や化学物質の本来の用途を間違って使用したとき、いわゆる薬物乱用や残留農薬、諸外国からの農産物のポストハーベスト、シックハウス症候群を引き起こす化学物質など、本来あってはいけないはずの健康被害が、いろいろな物質によって引き起こされているのも事実です。
 われわれ学校薬剤師はこれらのことを十分にふまえて、児童・生徒に快適な環境を構築すべく適切な指導、助言をしなくてはなりません。

環境衛生活動
 さて、学校保健法第16条では、幼稚園、小学校、中学校、高等学校には、学校医、学校歯科医と共に、学校薬剤師を置くことになっています。
 学校薬剤師は、「学校環境衛生の基準」にしたがって、環境衛生活動として、飲料水の水質検査、教室内の照度、騒音、炭酸ガスなどの定期検査、日常検査、必要時に検査する臨時検査があります。それぞれの検査項目については、文部科学省発行の学校環境衛生管理マニュアルの学校環境衛生の基準と実践を参照していただければと思っています。なお、学校環境衛生の基準は平成21年4月に項目とその内容を改定する予定になっています。
 その他の活動として、学校保健委員会に参画して、適切な指導助言をするとともに、児童、生徒の「飲酒・喫煙防止」、「薬物乱用防止」の啓発運動を児童、生徒はもとより、あらゆる機会を捉えて積極的に行い、また今年6月より、くすりの販売方法が変更になり、安易にくすりを手に入れることが出来るようになると考えられるため、くすりの正しい使い方をきちんと教育しておく必要があります。
 学校内のことばかりでなく、住居においても同じように、安全で安心できる環境が保たれれば、児童・生徒にとって、健やかな生活ができることと思います。
 例えば、学校の新築、改築、改修などの新建材、塗料、接着剤、可塑剤、木材保存剤や、防虫、防カビ剤など、また、机、いす、カーテン、コンピュータなど、新たな備品、器具、調度品の搬入のときや、トイレ洗剤、漂白剤、芳香剤などの生活用品、サニタリー用品などから揮発性有機化合物の発生の恐れがあります。トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレンやホルマリンなどの化学物質、ダニまたはダニアレルゲン、ハウスダストによっておこるアレルギー症状など、広い意味でのシックハウス症候群によって、のどの痛みや乾きがでます。眼科的障害として結膜の刺激的症状、消化器障害として下痢、便秘、悪心、精神障害として不眠、不安、うつ状態、不定愁訴、自律神経障害として発汗異常、手足の冷え、循環器障害として心悸亢進、免疫障害として皮膚炎、喘息、自己免疫疾患などがあります。
 一般的には慢性疲労、思考力の低下、注意力の低下、意欲の低下、頭痛、吐き気、めまい、平衡感覚の失調、イライラ、怒り、感情の爆発などの症状が出るといわれています。これらのことは、児童、生徒の住居においても、同じことが言えると思います。
 また、ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コブラナーポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)をまとめてダイオキシン類とよんでいます。この物質は、塩素が存在する状態で有機物を燃焼させたときや、塩素を含む物質が不完全燃焼したときや、薬品類が合成されるとき副次的に生成されています。人体にとっては、有害な物質です。この、ダイオキシンが環境を汚染して、人や動植物にも影響を及ぼしています。           
 人へのダイオキシンの取り込みは、食習慣によっても異なりますが、アメリカの環境保護庁は、「バランスのとれた栄養ある食事の利点は、それによるダイオキシンのリスクを補っても余りあるということを、強調されるべきである。」とコメントしています。因みに、現在、学校での焼却炉の使用はダイオキシンが発生するということで、禁止になっています。

くすりの適正使用、飲酒・喫煙防止、薬物乱用防止の啓発活動
 喫煙・飲酒についても、大人にとっては嗜好品ですが、成長期の子供たちにとっては心身ともにダメージを与えるので、禁煙、禁酒を徹底しなくてはなりません。 
 理科室の化学薬品の整理、例えば、化学変化を回避するために、酸性とアルカリ性の棚を区別しなくてはいけません。毒物、劇物や引火物の化学薬品の整理整頓、特に地震対策は万全かどうか、不要薬品の廃棄について、対応は十分かどうかを検討しなくてはいけません。
 また、保健室の薬品については、使用上の注意、期限切れや保管の整理、廃棄の方法も、また家庭での救急箱についても、同じことが言えると思います。したがって、このことについても、できれば、児童・生徒ばかりでなく、PTAの会合や老人会、地域社会の各種のサークルや集会などで、くすりの正しい使い方、保管、廃棄の方法などについて、周知していただいたほうがよいと思います。それらのことをわかりやすく解説したCD-ROMがあります。社団法人 日本薬剤師会が企画編集した「くすりの正しい使い方」のタイトルや、くすりの適正使用協議会が作成した「くすり教育教材」のタイトルなどです。これらのCD-ROMを利用して、くすりの適正使用を一人でも多くの人に普及することに心がけることが、大切なことではないでしょうか。さらにその延長線上にタバコ、アルコールのことも情報提供し、さらに、マリファナ、コカイン、LSD、覚せい剤、麻薬、シンナー、トルエンなどの乱用の害についても講和を進めることによって、地域ぐるみに薬物乱用の啓発・啓蒙運動に、貢献できると思います。
 最近、ラジオや、テレビや新聞などのあらゆる報道機関で、日常茶飯事のように、大麻の報道を目の当たりにしたとき、これほどまでに蔓延していたかと思うと、なんとも言いようのない虚脱感にみまわれました。それはなぜかというと、少なくともわれわれ薬剤師が、より近くにいる職域なのではないでしょうか。おおかたの薬剤師は、薬用植物学、生薬化学、漢方薬、薬理学または薬物学、生化学、有機化学、無機化学などの基礎講座を幅広く習得しているからです。特に青少年らに乱用者が多く、しかも都会から地方へ伝播するのでなく、ネットの気軽さで瞬時にして全国に拡散してしまい、若者を蝕んでいます。
 タバコほど依存性が無いとか、アルコールのほうが脳に悪影響があるとか、あげくの果ては、天然の草なので大丈夫だなどといって、不正確な情報で短絡的にネットを利用しうる気軽さに乗じて行動する人は、まさに希薄な罪悪感のなにものでもなく、非常に憂慮せざるを得ません。
 すなわち、大麻は依存しやすく、さらに強い薬物を求める危険性があります。それ故、絶対ダメなのです。また、WHO(世界保健機構)の報告書によると、記憶への影響、学習能力の悪化、知覚の変化、人格喪失などを引き起こすほか、使用を止めても依存性が残るなどとされています。今こそ、薬剤師、学校薬剤師は、化学物質についての知識を日常生活の中でだしおしみすることなく、大いに活用して、全国の小中高45,000校に17,000人の学校薬剤師が非常勤講師としていますが、総力を挙げて、児童・生徒はもとより、地域社会の人々のために、快適な環境の下で、豊かな心を育んで、社会の一員として協調性を持った自立心を持たせることが、肝要と思います。
 地域社会との関わりでは他にも、学校の周りの騒音について、また塀や柵などがないところでは、砂場のペットの出入りなどにも、地域社会の協力がなければ良い環境は保持できないのです。 

インフルエンザの予防について
 更に、今年はインフルエンザの流行の兆しがあるようです。当然なことでしょうが、児童・生徒、家庭、地域社会が一丸となって予防に取り組まなくてはいけません。インフルエンザ菌1個が24時間後には、100万個に増殖するようです。したがって、予防注射をしたほうが、より予防効果があるようです。完全に防御することはできないけれども、重症化を防ぐことができるようです。
 予防には、 
1、手洗いをする。手の甲も、できれば顔も。
2、口の中をゆすいで、次にうがいをする。また口腔内の細菌数を減らすために、歯垢を取ったり、舌の表面の凹凸、即ち、ザラザラしたところに菌が着きやすいので、舌をブラシングする。
3、マスクをする。ウイルスが通過しにくいマスクがよい。クシャミや咳をするときは、腕のひじを曲げて、口にあててマスクをおさえてする。手だと、手に飛散するので。
4、室内の湿度を50~60パーセントにする。
5、適切な食事、十分な睡眠をとって、体力、免疫力をつける。
 これらのことは、児童・生徒だけでなく、学校内、家庭、地域社会全体で取り組むことによって、より成果があがるのでは、ないでしょうか。
 それでは皆様、かぜなどおひきになりませんよう、どうぞお元気でご活躍ください。