インタビューフォーム記載要領2008 [医薬品情報] [薬学の時間]
2009/04/09(木) 00:00

薬学の時間
2009年4月9日放送分
「インタビューフォーム記載要領2008」
虎の門病院薬剤部長
林 昌洋

はじめに
 情報社会という言葉に特別な意味を感じなくなった今、様々な「情報」が私たち日本国民の日常生活環境に満ち溢れています。
 インターネットをはじめとしたIT環境が目覚ましい勢いで日常生活や医療現場に普及した今だからこそ、情報の「量」から情報の「質」へクライアント・ニーズは変化してきていると言えるでしょう。
 


 多くの情報は、個人の価値判断の中で、行動の根拠となるものであり、個人の価値判断に多様性があるように情報の多様性も容認されるものでしょう。
しかし、医薬品情報にはこうした多様性は存在すべきではないと考えています。医療現場で必要な医薬品情報は、最適な臨床判断、あるいは最適な薬剤業務を行うために必要な医薬品に関する事実、あるいは知識です。
 こうした情報環境の変化の中、医療現場だからこそ変わらない「医療情報」、「医薬品情報」の品質への要件があります。それは、その情報が臨床判断を通じて、患者さんの健康あるいは予後に直結するからです。


 わが国では、医薬品の適正使用のための要約的情報として、医療用医薬品の添付文書があります。限られたスペースに非常に重要な適正使用情報がまとめられています。しかし、医師、薬剤師など医療現場の経験者であれば誰でも感じることだと思いますが、適正使用のための結論のみが書かれていて、その判断根拠となる情報が明示されている訳ではありません。
 この添付文書を補完する情報として、医療現場の薬剤師が製薬企業にインタビューし入手すべき情報リストをまとめたものがインタビューフォームの起源です。


 1986年に日本病院薬剤師会の学術委員会第2小委員会により、小冊子型の情報集としての記載要領がまとまりました。1996年には日本病院薬剤師会の学術委員会第3小委員会が日本製薬工業協会と協議して、時代の変化に合わせた改訂を行い現在に至っていました。 


 医療現場で活用されてきたインタビューフォームですが、今回10年ぶりに大幅な記載内容や提供方式の変更を行いました。治験を取り巻く環境の変化、薬剤師を取り巻く医療の変化、医療現場のIT環境の充実、そして薬事法の改定に合わせたものです。
 臨床現場にとって、より価値の高い情報、エビデンスレベルの高い情報が盛り込まれるよう策定したものが、昨年9月に公表したインタビューフォーム記載要領2008です。
 新しい記載要領は、日本製薬工業協会のまとめた「インタビューフォーム記載の手引き2009」に従って作成され、今年4月以降の新規収載医薬品から適用される予定です。

 ここで、記載要領改訂の背景について、まず、お話しましょう。
 前回のインタビューフォーム記載要領の策定から10年の月日が経ち、医療を取り巻く環境は大きく変わりました。
 医薬品の適正使用に対する薬剤師の役割も変化しました。従来の調剤や疑義照会、服薬指導といった業務に加え、医師の処方設計支援や病棟での副作用モニタリングなど、スキル・ミックス型のチーム医療の重要な構成員としての役割が定着してきており、活動範囲が広がっています。そうした活動とともに、薬剤師が必要とする臨床面の情報が増えているのが現状です。
 また、製薬企業側の変化もあります。たとえば以前は、新薬の承認申請に必要な治験として実施されていたのはほとんどが国内の臨床試験でした。しかし現在では国際共同治験が増えていますし、海外の試験結果を外挿するため国内ではブリッジング試験のみ行われるなど、日本人を対象にした治験だけでは新薬の有効性と安全性を理解できなくなってきています。
 こうした薬の使い手と作り手の双方で、扱う情報に変化が起きていることから、両者をつなぐ情報ツールとしてのインタビューフォームも記載の見直しが必要ではないかと考え、今回の改訂を行いました。


 具体的には、都道府県病院薬剤師会の会長さんに依頼して、新たなインタビューフォームへの要望事項を収集するとともに、日本病院薬剤師会の医薬情報委員会において、系統的な見直しを行い、日本製薬工業協会の皆さんと話し合いまとめて行きました。

 次に、IF記載要領2008のポイントについてお話しましょう。
 記載内容に関する主な変更点は、①臨床試験に関する情報②体内動態に関する情報③製剤に関する情報の3点に要約できると考えています。


 臨床試験情報では、承認申請に用いた臨床データパッケージが記載されます。先ほどお話したように、どの臨床試験が海外データを外挿しているのかなども一目でわかるようになります。
 さらに、薬剤の効果や副作用を見極めるうえで最も参考になる第3相の二重盲検比較試験の情報として,試験デザインやエンドポイント、投与量などが記載されることになりました。従来は試験の概略のみの記載だったことを考えれば、このようなエビデンス・レベルの高い情報が載ることは大きな成果です。


 体内動態情報に関しては、高齢者や腎障害患者の体内動態に関する情報や、中毒域に関する情報が充実します。薬剤師が一人ひとりの患者の状態に即した薬物治療に取り組むために、このバージョンアップした体内動態情報が活かせると思います。


 また製剤情報については、注射剤をはじめとしたPH限界や塩析など薬剤の基礎的な配合変化情報や、輸液・シロップ剤での熱量が記載されることになりました。
 注射剤の調剤や無菌調製、ベッドザイドでの点滴ルートの管理に薬剤師が主体的にかかわるようになった今、求められている情報として充実化を図りました。 
 また、治療や廃棄時に注意すべき素材・包装材料の情報についても記載され地球に優しい医療廃棄物管理にも寄与しています。


 もう一つの大きなポイントとしてインタビューフォームが電子化される点があげられます。電子版インタビューフォームですので、「e-IF」とでも呼びましょうか。今後、インタビューフォームは紙媒体ではなく電子ファイルでの提供が正式な形態となります。
 これにあわせ、今後は医薬品医療機器総合機構の情報提供ホームページで利用可能となります。情報提供ホームページで添付文書情報を利用されている先生方も多いと思われますが、各薬剤の添付文書情報にインタビューフォームとリンクさせる方式を考えています。
 対象は、4月以降に新たに薬価収載された新医薬品と後発医薬品が対象ですが、製薬企業の皆さんのご努力により、順次それ以前ものも掲載される予定です。提供方法はPDFとなります。時期は今年6月頃を目標にしており、順次、準備が出来たものから公開される予定です。


 これまでのインタビューフォームは、効能・効果の追加や適応拡大、あるいは再審査結果が発表された際などにしか改訂されませんでした。しかし電子ファイルでの提供により、添付文書上の「禁忌・警告」あるいは「重要な基本的注意」の改訂にあわせてインタビューフォームも速やかに改訂されるメリットが得られます。
 もちろん、どうしても電子的な入手が困難な医療機関や薬局では、MRさんに依頼すれば印刷して提供して頂けると聞いています。

 添付文書は医薬品適正使用のための必要最少限の情報です。それ以上の情報を知りたいと思った時、どうすればいいでしょうか。膨大な量の承認申請資料に当たるのは忙しい医療現場ではちょっと難しいと感じる場面が多いですよね。そこで、情報の量・質ともに最適なのがインタビューフォームとなります。インタビューフォームには承認申請資料に使われたエビデンス・レベルの高いデータが盛り込まれており,その量は今回の記載要領の改定でさらにグレードアップしました。
 インタビューフォームを読むことで,添付文書に記されている有効性や副作用などの根拠になったデータがわかります。いわば添付文書と承認申請資料との間に位置するのがインタビューフォームといえるでしょう。
 病院、診療所、薬局を問わず薬剤師にはインタビューフォームを今まで以上に活用してほしいと思います。この情報が周知されると、薬剤師ばかりでなく、医師の皆さんにとっても身近で充実した「個別医薬品の総合医薬品情報」として普及していく可能性があると感じています。
 なお今後は、日本病院薬剤師会のなかにインタビューフォームに関する検討会を設置し、製薬企業や行政の担当者とともに、インタビューフォームの記載内容や記載のあり方などを検証する予定です。
会員の皆様でも、何かお気づきの点がありましたら、日本病院薬剤師会の窓口にご意見をいただけますようお願いいたします。
 なおインタビューフォームに関しては、日本病院薬剤師会雑誌、日本薬剤師会雑誌にも「IF記載要領2008」に関する記事が掲載される予定ですので、本放送とあわせてご覧になってください。