シリーズ重篤副作用疾患別対応マニュアル(18)急性腎不全 [シリーズ重篤マニュアル] [薬学の時間]
2010/08/06(金) 20:54

薬学の時間
2010年7月20日放送分
シリーズ重篤副作用疾患別対応マニュアル(18)急性腎不全
順天堂大学医学部教授
富野 康日己

 本日は,「薬学の時間」シリーズ重篤副作用疾患別対応マニュアルの一つとして、「急性腎不全」について、お話し致します。
 まず、第1に、急性腎不全の定義と分類について、解説いたします。急性腎不全とは、何らかの原因によって急激に腎機能が低下し、その結果血中尿素窒素(BUN)が高値を示す高窒素血症や血清クレアチニンの上昇をきたし、水・電解質や酸・塩基平衡などの生体の恒常性、つまり、ホメオスターシスが保てなくなった状態をいいます。通常は、可逆性で元に戻りますが、時には慢性腎不全に移行することがあります。


 急性腎不全は、腎障害の原因・部位から①腎前性、②腎性③腎後性に分類されます。尿量から分類しますと、1日尿量400ml/未満の乏尿性急性腎不全と1日尿量400ml/以上の非乏尿性急性腎不全に分けられます。腎前性急性腎不全の原因は、体液量、心拍出量および有効循環血液量の減少、末梢血管抵抗の低下、腎血管閉塞などのために、糸球体濾過量(GFR)が減少した状態です。その原因としては、高度の脱水、大量出血、心不全、敗血症および腎動脈閉塞などがあります。腎性急性腎不全は、糸球体障害、血管障害、腎毒性物質や腎虚血による急性尿細管壊死、急性間質性腎炎や尿細管閉塞など腎実質の障害によって起こります。薬物による急性腎不全は、この腎性のものが大半です。臨床的には急性尿細管壊死が最も多く、その原因としては、外因性の腎毒性物質や抗生物質、重金属、農薬などがあり、内因性のものとしてミオグロビン、ヘモグロビンなどがあります。腎臓に医薬品が毒として作用し,腎臓の機能が急速に低下する場合は、中毒性急性腎不全とも言われます。2004年から2009年までの副作用が疑われる症例報告に関する情報の集計では,抗ウイルス薬、鎮痛・解熱薬、免疫抑制薬、選択的AT1受容体拮抗薬、高脂血症治療薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、広範囲経口抗菌薬などによる急性腎不全の報告が多くみられています。
 腎後性腎不全は、尿管、膀胱および尿道の閉塞により腎盂内圧が上昇し、糸球体濾過が低下した状態であり、その原因として腎・尿路系の結石、腫瘍や前立腺肥大・癌などがあります。
 第2に、急性腎不全の発症機序ですが、頻度が多い腎毒性物質や腎虚血などによる急性尿細管壊死において、腎血流量の減少や円柱や尿細管細胞の脱落による尿細管閉塞および糸球体濾過液の尿細管腔からの逆拡散などが関与していると言われています。解熱鎮痛薬により、腎臓に流れていく血液の量が急激に落ちることにより、急性腎不全になることがあります。降圧薬、特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬では、急速な血圧の低下により腎臓に流れていく血液の量が急激に落ちることにより、急性腎不全になることがあります。アミノグリコシド系抗生物質やニューキノロン系抗菌薬、抗癌薬では、腎臓特に尿細管に負担をかけ、腎機能が低下することがあります。ヨード造影剤は、すべて腎臓から排泄されることから、脱水やすでに腎機能が低下している場合には,急激な機能低下をきたすことがあります。
 病理学的には腎臓は一般に腫大し、長径よりも短径が目立つようになります。腎毒性の場合には、組織学的に近位尿細管に病変が広範にみられます。つまり、近位尿細管刷子縁の減少と尿細管腔の拡大、尿細管細胞の基底膜からの脱落と壊死が認められます。
 第3に、臨床症状についてお話しします。急性尿細管壊死による急性腎不全の臨床経過は、以下の病期に分けられます。
・発症期は、尿量の減少、血中尿素窒素(BUN)、 血清クレアチニンの急激な上昇に気づきます。
・乏尿・無尿期は、発症期に引き続き1~3週の乏尿・無尿期となり、水分のバランスをとらないと体液過剰になり、浮腫、高血圧および肺水腫をきたします。高窒素血症が高度になりますと、様々な尿毒症症状が出現し、低Na血症、高K血症などの電解質異常がみられます。高度の高K血症では、心停止をきたすことがあり、治療が必要です。また、酸・塩基平衡異常のため、アニオンギャップの増加を伴う代謝性アシドーシスを呈します。尿毒症症状のうち、神経・筋肉症状としては、全身倦怠感、昏睡および痙攣などがあり、消化器症状としては、食欲不振、嘔吐や下痢、消化管出血などがあります。貧血や出血傾向を呈し、感染症に対する抵抗力の低下やカテーテル操作により、敗血症などの感染症を起こしやすくなります。
・利尿期では、数日から数週の乏尿・無尿期を経たのち、尿量は通常1日数ℓに増加し、利尿期に入ります。この時期では、低K血症や低Na血症、体液量減少をきたしやすいので、注意が必要です。
・回復期では、利尿期を経て通常3~4週で尿量は正常化に向かい、腎機能が徐々に回復していきます。しかし、尿細管機能の改善には1年以上かかることもあります。
 第4に、急性腎不全の診断についてですが、BUN、血清クレアチニンの急激な上昇によって急性腎不全と診断されます。通常、血清クレアチニンは2.0~2.5mg/dl以上となります。尿潜血反応は陽性であるが、尿沈渣に赤血球が見られないときは、ヘモグロビン尿やミオグロビン尿が考えられます。尿細管壊死では、尿沈渣に腎上皮細胞や粗大顆粒円柱が認められます。急性尿細管壊死では、尿細管機能が障害され、尿比重・浸透圧は低下し、尿は等張尿を呈します。また、急性尿細管壊死では、尿中Na排泄が増加し、Na排泄率(FENa)は上昇します。
 画像診断ですが、腎実質性急性腎不全では腎臓は正常から軽度腫大し、腎の皮髄境界は不明瞭になります。 
 診断の一つとして、利尿薬投与による反応性をみることがあります。腎前性急性腎不全では、利尿薬であるフロセミド20mgから100mgを投与することにより、1時間当りの尿量が40mlから50ml/分以上に増加するのに対し、腎実質性急性腎不全では尿量の増加は十分ではありません。
第5に、治療についてお話し致します。急性腎不全の発症予防として、原因となる可能性の高い薬剤の服用をやめたり,服用量を極力減量すること、また薬剤の併用投与に気をつけることにより、腎臓に与える影響を軽減することができます。
 薬物療法についてですが、乏尿・無尿期における体重増加、心拡大に対しては、利尿薬で尿量が増加すれば肺水腫が予防できます。高K血症に対しては、イオン交換樹脂30gを注腸するか、5gから10gを内服させます。緊急を要する著しい高K血症に対しては、8.5%グルコン酸カルシウム10mlから30mlをゆっくり静注します。その他、グルコース・インスリン療法などがありますが、この効果はKの細胞内移行によるものなので、一過性です。代謝性アシドーシスに対して重炭酸ナトリウムの投与を行いますが、Na過剰にならないように注意します。
 急性尿細管壊死の場合には、尿細管が再生し回復するまで、腎機能の代償として血液浄化療法を行うことがあります。
 最後に、予後についてお話し致します。腎前性および腎後性急性腎不全は、原因の除去や体液量の是正を行うことで、通常腎機能は急速に回復します。しかし、腎虚血が長く続くと腎性腎不全に移行することがあります。なお、乏尿性急性腎不全は、非乏尿性急性腎不全に比べ予後は不良です。
以上,薬剤によって引き起こされる急性腎不全のい基礎と臨床について、お話し致しました。皆さまのお役に立てれば、望外の喜びです。


薬物による頭痛とめまい [薬学の時間]
2010/08/06(金) 20:48

薬学の時間
2010年7月15日放送分
薬物による頭痛とめまい
浜松医科大学薬理学講座教授
梅村 和夫

本日は、薬物による頭痛とめまいについてお話をします。
頭痛とめまいは多くの薬の副作用として報告がありますが、適正な投与方法や投与量であれば、まれに見られる副作用も投与方法や投与量が適正でない場合には高頻度あるいは強く発現する可能性があります。


 まず、薬の主作用と副作用についてお話をします
 薬は生体の機能を担っているたんぱく質、酵素、受容体、イオンチャネル、トランスポータに作用して効果を発現します。最近の薬は作用点が特異的であり、微量な薬が結合して作用を発現するものが多くなってきています。つまり、ある特定のたんぱく質と結合することで薬理作用を発現します。
薬は治療、診断、予防を目的として使用されますが、これらを目的とした反応を主作用といい、目的でない残りの全ての反応を副作用(side effect)といいます。また、目的でなく好ましくない反応を有害反応(adverse drug reaction)と呼んでいます。医薬品の臨床試験の実施の基準、GCPによれば、薬の投与により好ましくない有害事象のうち薬との関連が否定できないものを副作用と定義しています。

 副作用はそのメカニズムから大きく2つに分けられます。
 まずは、薬効に関連した副作用です。
 これは、薬効の異常な増強により発現したものと、目的以外の組織・臓器に作用して発現したものがあります。
 薬効の異常な増強による副作用が発現する原因として、1,薬の投与量が過大であった場合、2、体内での薬の代謝、排泄、分布などの異常により、作用部位での薬の濃度が過大になった場合、3、複数の薬を服用したために薬物間相互作用で血中濃度が上昇した場合、最後に生体の薬に対する感受性が異常に高まった場合が考えられます。また、目的以外の組織/臓器に作用して副作用が発現する原因として、薬の作用点に対する特異性が低いことで、目的としていない組織、臓器に作用し副作用を発現することが考えられます。

 次に、薬効に無関係な副作用です。
 薬理作用に関わらない非特異的な作用により起こる、特に細胞毒性、薬物アレルギー、遺伝毒性、発癌などの形で現れることが多いとされています。

 先にも述べましたように、頭痛とめまいは多くの薬の副作用として報告がありますが、適正な投与方法や投与量であれば、まれに見られる副作用も投与方法や投与量が適正でないと高頻度あるいは強く発現する可能性があります。
 薬による副作用として頭痛やめまいの起こる原因は、薬が効きすぎることにより起こるといわれています。つまり、薬の血中濃度あるいは作用点における薬物濃度が異常に高くなること、薬の作用点での感受性が病的に高まっていることが原因と考えられます。それぞれを薬物動態学的あるいは薬力学的な原因による発現と分類できます。頻度としては詳細な報告はありませんが、それぞれの原因が1対1くらいの割合といわれています。薬物動態学的な原因である場合は、薬の血中濃度を測定することでその原因を予測できますが、薬力学的な原因である場合には、薬の感受性は現状では評価は難しく、それが原因であると断定することは困難であります。つまり、個々の患者さんにおける経験学的な推察に留まっています。健康な状態と病的な状態においても薬の感受性が変化する可能性が大いにあり、多くの因子が複雑に関連し更に判断を難しくしています。

 予測可能である薬物動態学的な原因となる症例を紹介します。
 まずは、投与量が過大であった場合です。
 薬の投与量は50kgから60kgの患者さんを想定して設定されていることが多いと思います。高齢の女性の患者さんの場合では、時に体重が40kg前後であることがあり、そのような患者さんに通常の投与量を用いると薬物血中濃度が上昇することが危惧されます。逆に、90kgを越すような体重の患者さんでは投与量が不足して薬物血中濃度が十分上昇しないことも考えられますが、投与量を増すことは慎重に行わなければなりません。当然、添付文書に記載されている投与量を超えての使用は一般診療では許されていません。

 次に、薬の代謝、排泄が変化した場合です。
 腎臓から排泄される薬の場合、腎機能、特に糸球体ろ過量が低下している患者さんでは薬が体内に長く留まることから繰り返し内服することで血中濃度が徐々に上昇することが考えられます。健康な高齢者の中には糸球体ろ過量が健常な方と比べて3分の2以下に低下していることがあり慎重な投与が求められます。
 薬の代謝に影響を受けて血中濃度が上昇する原因として最も多いのは複数の薬を内服することで起こる薬物間相互作用です。同時に内服した薬が同じ薬物代謝酵素で代謝される場合はどちらかの薬の代謝が阻害され血中濃度が上昇することがあります。特に、頭痛やめまいを副作用として起こす可能性の高い薬である中枢神経系作用薬や循環器系作用薬においては、薬物代謝酵素であるCYP3A4やCYP2D6で代謝される薬が多く、また他の治療薬においてもCYP3A4およびCYP2D6で代謝される薬は多くあることから複数の薬を内服する場合には注意して薬を選ぶ必要があります。

 副作用として頭痛とめまいが起こる可能性のある薬についてお話をします。
 多くの薬が副作用として頭痛を起こすという報告がありますが、その中でも特に中枢神経系作用薬と循環器系作用薬に多くの報告があります。
 まず、中枢神経系作用薬についてお話をします。 
 中枢神経系作用薬は薬の作用点は中枢神経系であり、薬物濃度の上昇と病態時の感受性の亢進により副作用が発現する可能性が高いと思われます。
 副作用として頭痛とめまいの報告がある代表的な薬は抗てんかん薬、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬です。
 また、それらの薬では薬物間相互作用で他剤との併用により、それらの薬の血中濃度が上昇する可能性のあるものがあり注意が必要です。たとえば、カルマバゼピンやベンゾジアゼピン系薬物はCYP3A4で代謝されます。そのために、マクロライド系抗生物質、ベラパミル、ジルチアゼパム、シメチジン、ダナゾールと併用するとカルマバゼピンやベンゾジアゼピン系薬物の血中濃度が異常に上昇し、中毒域に達し副作用を発現する危険があります。また、代謝酵素に関連した相互作用だけでなく中枢神経系作用や循環器系作用の相互作用により薬理作用が増強されて副作用が発現することもあります。

 次に循環器系作用薬についてお話をします。
 循環器系作用薬においても副作用として頭痛とめまいが多く報告されています。副作用の発症のメカニズムは、血管拡張作用による起立性低血圧によるふらつきやめまいです。また、血管拡張作用により頭痛の発現も多いです。頭痛やめまいを引き起こす代表的な薬はカルシウム拮抗薬、亜硝酸薬、血管拡張薬です。めまいやふらつきを引き起こす薬としては、α1遮断薬、β遮断薬、ACE阻害薬、AT1受容体拮抗薬があります。
 
 最後にその他の注意した方がよい薬として以下の薬があります。
 めまいの治療薬としてセファドール、メリスロン、浸透圧利尿薬が使用されますが、それらの副作用として頭痛やめまいが報告されています。めまいの治療を進めていくうえで、説明のつかない経過である場合には治療薬による頭痛やめまいを疑うことも必要です。
 また、抗結核薬であるストレプトマイシンやカナマイシンは薬の血中濃度が異常に上昇すると内耳障害によるめまいを起こす可能性があります。
さらに、薬の長期乱用による頭痛が報告されています。頭痛治療薬の長期投与により副作用として頭痛が発現するといわれています。エルゴタミン、カフェイン、鎮痛薬、アスピリンによる頭痛の発現が多く報告されています。

 最後に、頭痛やめまいは現疾患によるものか、薬による副作用によるものかの判断は難しいのが現状です。まずは、薬を適正に使用することが薬による副作用を減らすためには最も重要なことです。また、薬を変えたり、新しく追加したときに、頭痛やめまいの訴えが現れた場合には薬による副作用が原因の1つである可能性を考えておく必要もあると思います。